第37話 “協議”という名の尋問
37話です
12月14日改稿
夜。
教会の広間は、
異様なまでに明るかった。
両脇に並ぶ燭台が、
白い壁に影を規則正しく刻んでいる。
影は揺れているのに、
空気だけが不自然なほど静止していた。
広間の奥、
司祭はすでに席についていた。
「ようこそ、先生。
お待ちしていました」
柔らかな声。
だが、その笑みは目に届いていない。
僕は歩み寄り、軽く頭を下げた。
「お呼びでしたので」
司祭は机の上に指先を置き、
一定の間隔で、軽く叩いた。
……コツ、コツ。
その音だけが、
この広間の時間を刻んでいる。
「今回の件について、
教団として“正式に”話し合う必要があると判断しました」
「祈り室の子どもの件ですね」
司祭は、ゆっくりと首を横に振った。
「いいえ。
それは結果にすぎません」
視線が、まっすぐ僕を射抜く。
「――先生が、
何をしようとしているのか。
その点を確認したいのです」
(なるほど。
本題は最初からそこか)
司祭は一度、目を閉じ、
そして淡々と告げた。
「先生。
あなたはこの街を“変えようとしている”。
違いますか?」
「はい」
即答した。
司祭のまぶたが、わずかに動く。
「……街を、ですか。
その権利は、どこに?」
「権利ではありません」
一歩、前に出る。
「必要だからです」
司祭は机に肘を置き、
指を組んだ。
「必要であれば、
それは教団の役目です」
「では、お聞きします」
僕は言葉を選ばなかった。
「教団は、
“飢えている子どもを減らすために”
具体的に何をしましたか?」
司祭の指が、止まる。
「……祈りを」
「祈りは、腹を満たしません」
広間の空気が、一段冷えた。
司祭の声が低くなる。
「先生。
あなたは“言葉で街を乱している”」
「乱れているのは街ではなく、
支配の均衡です」
司祭の目が、鋭く細まった。
(今の一言で、
踏み込んだな)
司祭は深く息を吐き、
感情を押し殺すように言う。
「あなたの授業は危険です」
「子どもが考えることが?」
「考えることは――罪です」
「いいえ」
即座に否定する。
「考えさせないことが罪です」
司祭の拳が、机の上で硬く握られた。
「あなたは、
街を混乱に導く」
「混乱は“変化の前兆”です」
僕は静かに続けた。
「変化が怖いなら、
沈黙を選べばいい」
司祭の呼吸が、一瞬止まった。
僕は、さらに言葉を重ねる。
「でも僕は、
この街を“前に進ませたい”」
その瞬間――
司祭は立ち上がり、
机を強く叩いた。
「先生!!」
広間に、音が反響する。
その目に宿っていたのは、
怒りではない。
――焦りだった。
(追い詰めた)
司祭はすぐに姿勢を正し、
冷え切った声で告げる。
「先生。
あなたには選択肢があります」
僕は黙って、続きを待つ。
「授業を中止し、
子どもたちから離れるか」
一拍。
「あるいは――
先生自身が、祈り室に入るか」
沈黙。
司祭は微笑み、
決定打のように言った。
「すべては、
街のためです」
僕は一歩、前へ出た。
そして、
静かに告げる。
「街のためなら」
視線を逸らさず、言い切った。
「変わるべきは、あなたです。
司祭さま」
司祭の笑みが、完全に消えた。
その夜――
僕と司祭の戦いは、
“思想”から“排除”の段階へと踏み込んだ。
もう、後戻りはできない。
誤字脱字はお許しください。




