第36話 教団の招待状
36話です
12月14日改稿
六人の見回りは、僕の前で足を止めた。
誰ひとり声を上げない。
ただ、中央に立つ男が一歩だけ前へ出て、折り畳まれた紙を差し出した。
「司祭さまからの伝言だ」
僕は受け取り、静かに開く。
書かれている文字は、短く、逃げ場がなかった。
――先生へ。
あなたの授業内容について、
正式に「協議」したい。
今夜、教会の広間まで来られたい。
僕は紙を折り、視線を上げる。
「“協議”ですか」
中央の男が、表情を変えずに言った。
「逃げるなよ」
「逃げませんよ」
即答した。
「行くと言ったら、行きます」
男は一瞬だけ目を細めた。
「……命知らずだな」
(命を知っている者ほど、こういう言い方はしない)
僕は軽く笑う。
「あなたたちは、僕に死んでほしいんですか?」
男は鼻で息を吐いた。
「逆だ。
死なれたほうが、よっぽど面倒になる」
その目にあったのは、敵意ではない。
恐怖でもない。
――困惑だ。
(教団の内部も、もう一枚岩じゃない)
僕が紙を返そうとすると、男が低く言った。
「持っておけ」
「?」
「それは“通行証”でもある」
なるほど。
教会の広間に入るには、許可が要る。
つまり司祭は、僕を“裏”ではなく、“表”に引きずり出した。
排除か。
交渉か。
どちらにせよ――
司祭は、次の段階へ踏み込んだ。
男が一歩近づき、声を落とす。
「……先生」
「なんでしょう」
「今夜は、余計なことを言うな」
男の喉が小さく鳴った。
「お前は……言葉で人を動かす。
それを、司祭さまは一番嫌ってる」
(嫌っている、か)
僕は男の肩に、そっと手を置いた。
「あのね」
「……?」
「言葉は、“余計なこと”のためにあるんじゃない」
男が息を止める。
「必要な人に、届くためにあるんだ」
その瞬間、男の目が揺れた。
――ほんの、わずかに。
(もう引き返せないところまで来ている)
六人は何も言わず散開し、教会の方へ戻っていった。
僕は紙を握りしめる。
(今夜、か)
今夜――
司祭と僕の心理戦は、
確実に一段、深い場所へ進む。
静かな夜になるはずがない。
この街の未来が、
確実に揺れる夜になる。
誤字脱字はお許しください




