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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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33/108

第33話 司祭の“沈黙の会見”

33話です

12月14日改稿

その日の午後。

スラムの広場に、人が集められた。


理由は単純だった。

――司祭から「重要な話」がある。


もちろん、今朝の件に決まっている。


僕は呼ばれてはいない。

だが、呼ばれなくても、そこにいないわけにはいかなかった。


広場の端。

人の影に紛れ、様子を見る。


司祭は、ゆっくりと壇上に上がった。

黒い法衣が、風もないのに揺れる。


声は、驚くほど穏やかだった。


「皆さま。

 私は今、深い悲しみに包まれています」


ざわ、と空気が波打つ。


「本日、教会から――

 許可なく、祈り室にいた子どもが連れ出されました」


人々の視線が揺れる。

驚き、戸惑い、そして警戒。


司祭は続ける。


「祈り室は、本来、

 心の乱れを静めるための場所です」


「しかし、その過程に

 外部の手が入りました」


言葉は柔らかい。

だが、含意は鋭い。


――秩序を壊した者がいる。


「結果として、

 子どもはさらに混乱し、

 教会は責任を問われています」


(……見事な転換だ)


被害者の立場を、完全に取り戻している。


司祭は首を横に振る。


「私は責めません。

 その方は、善意で動いたのでしょう」


名前は出さない。

だが、全員が僕を見た。


「ただ――」


司祭の声が、ほんのわずか低くなる。


「善意は、時に街を乱します」


空気が、ひとつ重くなる。


「皆さま。

 沈黙は、贈り物です」


静かな言葉が、広場に落ちた。


「沈黙は、争いを遠ざけます」

「沈黙は、悲しみを薄めます」

「沈黙は、人の心を守ります」


繰り返される“沈黙の正義”。


人々の表情を、僕は見ていた。


怒りではない。

反発でもない。


――迷いだ。


司祭は、その迷いを逃さない。


「子どもたちを守るために、

 祈り室の使用基準を見直します」


(強化だな)


「そのためには、

 皆さまのご協力が必要です」


沈黙。


司祭は、深く頭を下げた。


「どうか、

 もう一度――

 静かな街を取り戻しましょう」


拍手が起きた。


だが、それは弱く、ばらばらで、

誰かに合わせるような音だった。


司祭は、それを聞き逃さなかった。


最後に、こう付け加える。


「静けさを乱す者がいても、

 心を乱さずにいてください」


「教会は、

 常に皆さまの味方です」


その瞬間――

司祭の視線が、ほんの一瞬だけ僕を捉えた。


言葉はない。


だが、はっきりと伝わる。


――次は、もっと静かなやり方でいく。


集会は解散した。


人々は、何も言わずに散っていく。


スラムの空気は、

昨日よりも、さらに重かった。


ミナが、小さく言う。


「……先生。

 負けてない、よね?」


僕は首を横に振った。


「まだ、勝負は始まったばかりだよ」


リオが歯を噛みしめる。


「司祭……

 あいつ……

 笑ってる場合じゃねぇだろ……」


僕は、空を見上げた。


(司祭は、自分の支配が揺れたときだけ、笑わない)


そして今日は――

笑わなかった。


それが今のところ、

僕にとって唯一の“勝ち”だった。


誤字脱字はお許しください。

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