第31話 “沈黙の罰”の正体
31話です
12月14日改稿
祈り室の前に現れた三人の見回りは、
言葉もなく、静かに僕を囲んだ。
殴る気配はない。
刃物もない。
それでも――圧ははっきりと伝わってくる。
(なるほど)
これが司祭の言っていた
**「沈黙の罰」**か。
暴力ではない。
声を奪い、思考を断ち、
人格そのものを摩耗させるやり方。
一人が半歩前に出て、低く囁いた。
「先生……声を出すな」
視線は冷静で、感情がない。
「声を出した瞬間、
喉を潰す」
淡々とした宣告だった。
脅しというより、規則の読み上げに近い。
(目的は明確だ)
恐怖で叫ばせない。
沈黙を強制し、
抵抗の芽を摘む。
僕は、ゆっくり息を吐いた。
「……なるほど」
思わず笑みが浮かぶ。
「教団が一番恐れているのは、
やっぱり“言葉”なんですね」
男の眉がわずかに動いた。
「黙れと言ってる」
「ええ、聞こえています」
僕は声を落としたまま続ける。
「でも、その命令――
少し弱い」
三人の視線が、一斉に集まった。
「あなたたちは“教団の意志”を運ぶ器だ。
でも、僕を黙らせるほどの“理由”は、
誰からも渡されていない」
空気が、ほんの少し揺れた。
(……揺れた)
言葉が、中心に触れた証拠だ。
別の男が苛立ったように、
僕の胸を押そうとした。
だが――
半歩だけ身をずらす。
力は空を切った。
「……避けた?」
「ええ」
僕は穏やかに答える。
「殴られるのは、好きじゃないので」
一瞬の動揺。
それだけで十分だった。
僕は人差し指を立て、
三人の顔を順に見た。
「あなたたちは、“目”でも“耳”でもない。
“沈黙を実行する手”だ」
表情が変わる。
「でもね」
一拍、置く。
「手である以上、
考える“頭”は、まだ残っている」
一人が声を荒げた。
「うるせぇ!
考えるなって言われてんだ!」
その叫びが、
すべてを物語っていた。
「――なるほど」
僕は頷いた。
「考えるな、と言われるほど
考えてしまう人間だ」
沈黙。
それは司祭の望む沈黙ではない。
揺らぎの沈黙だった。
僕は、さらに踏み込む。
「この子を閉じ込めるのは、
本当に“神の意志”だと思いますか?」
誰も答えない。
(いい)
「もし神がいるなら――」
声を低くする。
「恐怖で子どもを黙らせる教団を、
支持するでしょうか」
一人が、かすれた声で言った。
「……司祭さまは、
静けさが正しいって……」
「静けさは、
選んだ結果だから価値がある」
僕は静かに言い切った。
「強制された静けさは、
ただの支配です」
沈黙。
今度は――
彼らが言葉を失った。
僕は最後の一押しをする。
「あなたたちが僕を止める理由は、
本当に“街の幸せ”ですか?」
間。
「それとも、
司祭の顔色ですか?」
歯を噛みしめる音がした。
もう、誰も動かない。
僕は祈り室の扉に手を置いた。
――カチ。
鍵の回る音。
一瞬、思考が止まる。
(……開いた?)
見回りの一人が、
視線を逸らしたまま言った。
「……行け」
僕は、その顔をまっすぐ見た。
「ありがとう」
男は吐き捨てるように言う。
「勘違いすんな。
ガキが泣く声……
聞きたくねぇだけだ」
声は、震えていた。
扉を開けると、
小さな影が飛び出してきて、
僕にしがみついた。
「せん……せい……」
僕は、そっと抱きとめる。
「大丈夫。
もう帰ろう」
誰も止めなかった。
廊下に残ったのは、
命令のための沈黙ではない。
――考えた末に生まれた沈黙。
それは、
教団のものではなかった。
少女を抱いたまま、
僕は歩き出す。
これが――
教団に対する、
僕の最初の勝利だった。
誤字脱字はお許しください。




