第24話 揺らぐスラム
24話です
12月13日改稿
スラムに戻った瞬間、
空気がはっきりと変わっているのがわかった。
声が、刺さる。
「先生……本当に教会と喧嘩したのか?」
「子どもが連れていかれたって噂だぞ」
「教会を敵に回したら、どうなるか……」
誰も近づいてこない。
それでも視線だけは、僕を追っている。
――火種を見る目だ。
そこへ、ミナが駆け寄ってきた。
「先生っ!」
その後ろから、息を切らしたリオも現れる。
「どうだった……?」
二人の視線が、答えを急かしていた。
「……会わせてもらえなかった」
短く告げると、
ミナの目に涙が滲み、リオの拳が震えた。
「ふざけんなよ……!
誘拐じゃねぇか!」
「リオ、声が大きい」
「でもよ!」
怒りは正しい。
けれど、ここで爆発させるべきじゃない。
「今怒鳴っても、状況は変わらない。
一度、整理しよう」
僕は地面に、折れた棒で図を描いた。
「これは、コントロールの三段階だ」
ミナが小さく繰り返す。
「……三段階」
「一つ目は“餌”。
二つ目は“恐怖”。
三つ目は“奪う”」
リオが唇を噛んだ。
「……じゃあ、次はなんだよ」
僕は一瞬、間を置いた。
「四つ目は――“壊す”」
「壊す……?」
ミナの声が、かすれる。
「関係を、だ」
沈黙が落ちた。
大人たちが僕を避け、
子どもたちが引き離されていく理由が、
はっきり形を持って見えてくる。
「教団が狙っているのは、
僕とスラムのつながりだ」
リオが低く呟く。
「……もう壊れかけてるじゃねぇか」
否定できなかった。
周囲の視線が、それを物語っている。
「だから、焦らない」
僕は静かに言った。
「教団は急がない。
静かに、少しずつ囲い込む」
ミナが不安そうに尋ねる。
「じゃあ……
私たちはどうすればいいの?」
「僕たちも、急がない」
「え……?」
「君たちが“考えられるようになる”まで、待つ」
リオが堪えきれず叫ぶ。
「待ってる間に、
みんな連れてかれたらどうすんだよ!」
「連れていかれた子は、戻ってくる」
「そんな保証ねぇだろ!」
「確率の話じゃない」
僕は、地面の図を消しながら言った。
「“戻れる街”を作るって話だ」
ミナが、はっと息を呑む。
「……街を、作る?」
「そう。
子どもが奪われない街。
奪われても、帰ってこられる街」
リオは呆然と僕を見る。
「作……る……?
先生、本気かよ」
「本気だよ」
「どうやって……」
「まだわからない」
正直に答える。
「でも、最初に必要なのは、
君たちが“考える人間”でいることだ」
ミナが、少しだけ笑った。
「先生、ほんと変わってるよね……」
「よく言われる」
「でも、だから好き」
「おいミナ、今それ言うなって……」
リオが赤くなり、
ミナが笑う。
一瞬だけ、
張り詰めていた空気が緩んだ。
――だが。
その会話は、聞かれていた。
薄暗い裏路地。
腕を組んだ見回りの男が、こちらを見ている。
「……先生」
その目には、
昨日までになかった冷たさが宿っていた。
教団は、
もう一段階、踏み込んできている。
それでも――
壊される前に、つなぎ直す。
それが、
僕のやるべき仕事だった。
誤字脱字はお許しください。




