第23話 教会の扉へ
23話です
12月13日改稿
スラムを抜け、石畳の坂を上ると、
白い教会が見えてきた。
昼間だというのに、扉は固く閉ざされ、
誰かが見張っている。
(……やはり“保護”は名目だな)
教会の前で、シスターが僕を見つけた。
「あら……先生。
今日は何のご用件でしょうか?」
丁寧な笑顔だが、
目は笑っていない。
「昨日まで授業に来ていた子が、
突然“保護”されたと聞きました」
あえて、保護の部分だけ強調する。
シスターは軽く目をそらした。
「教会は、子どもの安全を守っておりますので」
「安全?
では、親に危険があったという記録は?」
少し沈黙。
「……先生。
質問の仕方が教団の基準に沿っておりません」
「基準が間違っていませんか?」
シスターは息を呑んだ。
(勝負の場所はここじゃない)
僕は一歩、扉の前へ進んだ。
「司祭さまにお会いしたい」
「本日は、司祭さまは祈りの時間です」
「子どもを返してください。
僕の話を聞かずに連れていくのは、あまりにも一方的です」
すると――
奥から声が響いた。
「……先生」
司祭が、静かに姿を現した。
黒い法衣が揺れる。
昼の光を受けても、影が濃い。
「子どもの件でしたら、
“保護”で間違いありません」
「理由をお聞かせください」
「不安定な言動がありましたので」
僕は眉をひそめる。
「その“言動”は、
先生の授業で覚えたものだ、と母親が証言しています」
「……」
司祭は比べるように僕を見た。
「先生は、あの子に何を教えたのです?」
「考えることを」
「それが“不安定”なのです」
お前が言うか、と喉まで出かかった言葉を飲む。
司祭は扉から出てきて、僕の正面に立った。
「先生。
この街は“静けさ”で成り立っています。
考えることは、時にその静けさを揺らす」
「揺らすのが悪いとは限らないでしょう?」
司祭の眉がわずかに動いた。
「……子どもは戻せません。
今は“沈める時間”が必要です」
「沈める?」
「余計なことを見聞きすると、苦しむでしょう」
(完全に隔離だ)
僕は短く息を吐いた。
「その子に会わせてください」
「できません」
司祭は即答した。
「子どもが“落ち着いた”と判断されれば、
街に戻るでしょう。
そのときまで――静かにお待ちください」
「でも――」
僕が言いかけた瞬間。
司祭の声が低く割り込む。
「先生。
あなたが“街を乱す存在である”と判断すれば、
次に連れていかれるのは――
あなたですよ」
それは、正式な【警告】だった。
僕は黙った。
司祭は静かに背を向け、扉へ戻る。
「お引き取りください、先生。
スラムの子どもたちの前に立つ資格を、
今のあなたは持っていません」
扉がゆっくり閉じる。
――ガタン。
重い音が、胸の奥に沈んだ。
(資格……?)
それを決めるのは――
教団ではない。
僕は一度深呼吸し、
教会に背を向けた。
風が冷たかった。
誤字脱字はお許しください。




