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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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22/108

第22話 奪われていく子どもたち

22話です。

12月13日改稿

翌朝。

いつもの時間に授業の場所へ向かった瞬間、

胸の奥が、静かに凍った。


――誰もいない。


いや、正確には

ほとんど、いなかった。


板の前にいたのは、

ミナとリオだけだった。


二人とも、立っているだけで精一杯という顔をしている。


ミナが、今にも泣き出しそうな声で言った。


「先生……

 今日は……みんな……」


「来ないのか」


「……うん。

 スープの配給に、行っちゃった」


リオが拳を握りしめ、吐き捨てる。


「“教会のスープを飲まねぇ奴は裏切り者だ”って、

 大人が言ってた」


「裏切り者……?」


「“先生の授業に行く子は、教会を侮辱してる”ってさ。

 “そんなガキにスープはやらねぇ”って噂が回った」


……司祭。


これは心理戦の第二段階だ。


昨日の施しは、

善意でも救済でもなかった。


囲い込みの開始だ。


ミナが、とうとう涙をこぼした。


「……先生は、

 こうなるって、知ってた?」


「予想はしていたよ」


僕は、嘘をつかなかった。


ミナの唇が震える。


「じゃあ……

 どうして、止めなかったの?」


「止めても、無駄だからだ」


「……無駄?」


「大人はね、

 “今日を生きるためのもの”に、とても弱い」


僕は続ける。


「考える前に、

 目の前の温かさに逃げてしまう」


リオが地面を蹴った。


「……わかるよ。

 スープが嬉しいのは、わかる」


顔を歪めて叫ぶ。


「でもよ!

 先生の授業を捨てる理由には、ならねぇだろ!」


「リオ」


僕は、彼の肩にそっと手を置いた。


「怒るのは正しい。

 でも――」


リオが睨み返す。


「でも、何だよ!」


「子どもたちは、裏切ったんじゃない」


二人が、息を止める。


「奪われたんだ」


「……え?」


「食事で。

 恐怖で。

 噂で」


板に向かい、二つの円を書いた。


 先生:選ぶ力を増やす

 教団:選ぶ力を減らす


「選ぶ力が奪われるほど、

 人は黙るようになる」


「黙ると、考えられなくなる」


リオが、小さく呟く。


「……だから、

 先生は授業をやめねぇのか」


「そうだよ」


僕はうなずいた。


「今、ここに二人しかいなくても、続ける」


ミナが涙を拭き、弱く笑った。


「……先生、ほんとバカ」


「うん。

 それも、よく言われる」


その空気が、

ほんの一瞬、やわらいだ。


――そのとき。


スラムの奥から、甲高い声が響いた。


「先生……!

 先生、いる!?」


小さな影が走ってくる。


昨日まで授業に来ていた子の、弟だ。


息を切らし、僕にしがみつく。


「ねぇ……!

 姉ちゃんが……っ

 教会に、連れていかれた!」


ミナが、青ざめた。


「どうして!?」


「“先生のとこに行くのは不幸の始まりだ”って……

 “教会が保護する”って……

 母ちゃん、泣いてて……!」


……来た。


第三段階だ。


連れ去り。

表向きは“保護”。

実態は、“隔離”。


僕は子どもの肩に手を置き、

声を落ち着かせて言った。


「大丈夫だ。

 必ず、取り戻す」


リオが叫ぶ。


「行くのかよ、先生!?」


「行く」


「危ねぇだろ!」


「危ないね」


僕は認めた。


「でも――

 子どもを取り返すのは、教育者の仕事だ」


ミナが、僕の袖を掴む。


「怖いのに……

 どうして行くの?」


「“子どもが選べない場所”を、

 見過ごせないからだよ」


その瞬間、

ミナの目から、涙があふれた。


リオは、強くうなずく。


「……じゃあ、俺も――」


「ダメだ」


「なんでだよ!」


「君たちは、

 “ここで待つ力”を学ぶ」


「……待つ?」


「勇気には二つある。

 進む勇気と、待つ勇気だ」


「今日は、後者だ」


二人は悔しそうに、

それでも真剣にうなずいた。


僕は、裏通りへ歩き出す。


スラムの空気は、

昨日より、さらに重い。


人々は目を逸らし、

教会の方角ばかりを見る。


(……司祭)


あなたは“静けさ”を守ると言った。


だが、これは違う。


これは支配だ。


――奪われた子どもを、取り戻す。

それが、最初の反撃。


戦いは、

もう始まっている。


誤字脱字はお許しください。

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