第17話 見回りの「忠告」
17話です。
12月13日改稿
路地に出ると、
昨日とは違う二人組の見回りが立っていた。
制服は同じだが、
目つきと立ち方が違う。
これは「様子を見る役」じゃない。
「先生さんよ。
ちょっと話がある」
「どうしました?」
「“器の話”してるって聞いたぞ」
(……早いな。
誰が、どこまで聞いている?)
「誰からですか?」
「そんなの関係ねぇだろ」
男が一歩、距離を詰めてくる。
「お前の話のせいで、
親たちが不安がってんだよ」
「不安になるのは、
自分の立っている場所を考え始めたからでしょう」
その返答に、男の表情が固くなる。
「……いいか、先生。
街ってのはな、誰かが“上”に立って回してんだ」
「その“上”が間違っていたら?」
「間違ってねぇから、上なんだろ」
予想通りの答えだ。
ここで論破する意味はない。
「それで、
“俺たちは下でいい”って思えるか?」
男は一瞬、言葉に詰まった。
「……思えるしかねぇだろ」
「その“しか”を、
疑う余地があるって話をしているだけです」
男の眉間に、はっきりと皺が寄る。
「先生よ……
本気で教団とやり合う気か?」
「今のところは、
話をしているだけです」
「話だけで済むと思うなよ」
男が低い声で言う。
「教団から指示が出てる。
“しばらく先生を監視しろ”ってな」
(……来たか)
「監視ですか」
僕は落ち着いて頷いた。
「逃げる気はありませんよ」
「逃げる逃げねぇじゃねぇ。
“逃がさねぇ”って意味だ」
男が一歩踏み出し、
胸ぐらに手を伸ばしかけた、その瞬間。
「やめろ!」
鋭い声。
振り向くと、リオが息を切らして立っていた。
「先生に触んな!」
「なんだガキ、引っ込んでろ!」
男が腕を振り上げかけた、その刹那――
僕は一歩、前に踏み出し、
男の腕を軽く外へ押し返した。
「子どもに手を出すのは、
見回りの仕事じゃないでしょう」
一瞬、空気が張りつく。
「……チッ」
男は舌打ちし、距離を取った。
もう一人の見回りが、小声で言う。
「やめとけ。
ここで殴ったら、教団が面倒くさがる」
「……」
二人は僕を睨みつけながら、ゆっくり下がる。
「覚えとけよ……先生」
吐き捨てるように言い残し、
路地の向こうへ消えていった。
◆
「大丈夫かよ、先生!」
リオが駆け寄ってくる。
「大丈夫。ありがとう」
「なんで笑ってんだよ!」
「君が来てくれるとは思ってなかった」
「来るに決まってんだろ。
教団なんかに先生取られたら困るし」
「困るの?」
「授業、続けられねぇだろ」
素っ気ない言い方だったが、
目はまっすぐだった。
ミナたちも駆け寄ってくる。
「先生……!」
「大丈夫。何もされてない」
ミナが不安そうに言う。
「でも……教団が先生を狙ってるなら……」
「安心していい」
僕は静かに言った。
「僕は、まだ“敵”じゃない」
「まだ……?」
「昨日、司祭と話した。
あの人は今、“排除”じゃなく“観察”を選んでいる」
子どもたちが息を呑む。
「問題はね――」
少し間を置いて続ける。
「“話が通じない”と判断されたときだ」
沈黙。
「でも、ひとつだけ確かなことがある」
僕は子どもたちを見回した。
「僕がここにいる理由は、
君たちが“考えようとしている”からだ」
ミナが、泣きそうな顔で言う。
「……先生、無茶しないで」
「無茶はしないよ」
少し笑って、続ける。
「ただ――
“無茶だと思われること”はするけどね」
「それ、結局無茶だろ!」
リオが即座に突っ込む。
笑いが起きた。
まだ、守れる笑いだ。
教団も見回りも、
どこかでまだこう思っている。
――揺さぶれば、折れる。
だからこそ。
言葉の戦いは、ここからが本番だった。
誤字脱字はお許しください。




