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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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15/99

第15話 黒い法衣との対面

15話です

12月11日改稿

日が落ちかけたころ。

僕は教会の裏手にいた。


ミナは「本当に行くの?」と心配していたが、

こういう場面は子どもを連れて行くべきではない。

相手が“言葉の勝負”を挑んでくると分かっているからこそ、なおさらだ。


裏口を軽くノックする。


しばらくして扉が開き、

昼間壇上にいた司祭が現れた。


「……これは驚きました」


穏やかな微笑み。

相手の動機を探ろうとしながら、表情にそれを出さないタイプだ。


「噂の先生が、自ら来てくださるとは」


「噂になっているのは知っていましたので」


僕は軽く会釈した。


「子どもたちに字を教えている者です」


「ええ、承知しております」


司祭は静かに中へ招き入れた。


質素な部屋だった。

机、椅子、本棚――必要なものだけが置かれ、乱れがない。

几帳面な性格か、あるいは“乱れを見せない技術”に長けているのか。


「お茶でもどうぞ」


「ありがとうございます」


断らない。

対話の場では、余計な敵意の種を撒かないほうがいい。


司祭は僕の正面に座り、静かに問いかけた。


「さて。今日はどのようなご用件で?」


「単純です」


僕はまっすぐ言った。


「教会が、僕をどう見ているのかを知りたくて」


司祭は、ほんのわずか目を細めた。


「正直な方ですね」


「回り道は得意ではないので」


「そうでしょうか?」


司祭は口元を僅かに緩めた。


「子どもたちから“問いを持て”と教えていると聞きました」


「ええ」


「“なんで?”と。“本当にこれでいいのか?”と」


「それが、そんなに問題でしょうか」


司祭は考える間をつくった。

沈黙の長さは、“相手に考えを促したいとき”に使う技術だ。


そして――


「問題です」


明確な言葉だった。


「あなたが教えていることは、我々の教えと方向が異なる」


「教会は“考えるな”と言う」


「“必要以上に”考えるな、と申しています」


丁寧な訂正。

しかし本質は同じだ。


「与えられた器の中で静かに生きることを勧めているのです」


「その器を決めるのは誰です?」


「神と、秩序です」


「神はともかく、“秩序”は人が作りますね」


そこで初めて、司祭の表情にわずかな硬さが走った。


「……だからこそ、我々の役割は“静けさを守ること”なのです」


「静けさの中で、誰かが飢えていても?」


司祭の目が鋭くなる。


「飢えは、試練です」


「試練に耐えれば報いがあると?」


「信じる者には」


「信じない者は?」


「堕ちます」


あまりに自然に言うので、逆に恐ろしい。


「先生。

 あなたは“飢えをなくそう”としているのでしょう」


「そうですね。

 少なくとも、“おかしいところを見つけよう”とはしている」


「それは、秩序への反逆です」


「秩序が間違っていたら?」


司祭はため息すらつかず、淡々と答えた。


「間違っているかどうかを人々が判断し始めれば、

 街に静けさは戻りません」


そして、語気は強めずに続ける。


「街が騒げば争いが増える。

 争いが増えれば血が流れる。

 血が流れれば、神は悲しまれる」


「だから“考える前に黙れ”と?」


「言い方は乱暴ですが――概ねその通りです」


司祭はむしろ誇らしげに微笑んだ。


「あなたの教えは、確かに立派なのでしょう」


「しかしそれは、今のバルツには“過ぎたもの”です」


「自分で考えることが、“過ぎたもの”?」


「はい」


間を置かずに即答した。


「先生。

 あなたはどこのご出身です?」


突然の質問。

話題を切ることで、相手のリズムを崩す意図が見える。


僕は迷ったが正直に答える。


「……覚えていません」


司祭は眉を動かさない。


「記憶をなくしても、思考する力は失っていない。

 それがあなたの武器だ」


そして、こちらをじっと見据えた。


「――教団にとっても、厄介な武器です」


その言葉は、挑発ではなく“事実”として述べられた。


つまりこの司祭は、

僕を罵倒する気も、乱暴に排除する気もない。


“危険だと認識しつつ、方法を選んで対処しようとしている”――

そちらのほうが、よほど厄介だ。


対話は始まったばかり。

ここから先は、静かな心理戦になる。


そしてそれは――

僕が望んで足を踏み込んだ場所だった。


誤字脱字はお許しください。

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