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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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14/95

第14話 日曜の説教と、名前の出ない敵

14話です。

12月11日改稿

日曜。

教会の鐘が、いつもより重たい音を響かせていた。


「先生、今日も行くの?」

ミナが袖を掴む。


「行くよ。

 子どもたちがどんな話を聞かされてるのか、見ておきたい」


「怒られない?」


「むしろ、“怒られるかどうか”を確認したい」



教会の中は、普段より明らかに人が多かった。

スラムの住人だけでなく、上の街の人間もちらほら見える。


壇上には、見慣れない男が立っていた。


黒い法衣。

抑えた目の動き。

声の出し方を完全に心得た、教団の人間。


(……来たな)


シスターが紹介し、司祭は静かに一礼した。


「この街の静けさを、神は喜んでおられます」


第一声から、目的が透けて見える。


「皆が、自分に与えられた場所を受け入れ、

 不平を言わず、ただ祈り、働いている。

 それは、美しいことです」


周囲で、安心したようにうなずく大人たち。


司祭の声が少しだけ低くなる。


「しかし――最近、その静けさに“小さな波”が立ち始めています」


空気が揺れた。


「“なんで?”と問い、

 “本当にこれでいいのか”と疑う者がいる」


子どもたちの視線が、反射的に僕の方へ向いた。


司祭は続ける。


「問いを持つこと自体は罪ではありません。

 しかしそれを使って“自らの位置を否定する”なら、

 それは神の秩序への反逆です」


「“与えられた器を越えようとする水は、

 こぼれて地を濁すだけ”」


決まり文句なのだろう。

よく通る声で、迷いなく言い切った。


「子どもに、本来持たぬ望みを抱かせる大人。

 それは本当に、彼らを愛していると言えるのでしょうか」


僕は沈黙を選んだ。

ここは相手の“場”だ。


「名前は出しません」

司祭は穏やかに笑う。


「しかし、皆さんの中には既に“心当たり”があるはずです」


その瞬間、会堂の空気がわずかにざわついた。

一番危険な煽り方だ。


「迷ったときは、教会に相談しなさい。

 “考えるより先に、祈りなさい”。

 祈りは静けさを生み、静けさは街を守ります」


説教は僕の名前を出さないまま終わった。


だが、十分だった。



教会を出るとき、背中に刺さるような視線を感じた。


怯え。

疑い。

警戒。


(……始まったな)


ミナが袖を掴む。


「せんせー……ほんとに大丈夫?」


「僕は大丈夫だよ」


「ほんとに?」


「うん。でもね——」


僕は振り返り、教会の扉を見た。


「“名前を出さずに敵を作るやり方”のほうが、本当は怖い」


「……どうして?」


「“あいつが悪い”って言うより、

 “悪い奴がいる。誰とは言わないけどね”って言うほうが、

 人の頭の中で勝手に敵を作るから」


ミナは難しい顔をしたが、

言葉の重さは感じ取っているようだった。


「ここからは、慎重に動く」


「逃げないの?」


「逃げたら、“やっぱり悪い奴だったんだ”って噂が完成する」


「……ずるい」


「そう。心理戦っていうのは、

 こういう“ずるさ”で人を動かすんだよ」


だからこそ、

こちらも“言葉”で対抗するしかない。


僕は空を見上げた。


(そろそろ、直接話をしてみるか)


司祭と向き合うために——。


誤字脱字はお許しください。

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