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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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13/95

第13話 「先生のせいで」が増えていく

13話です

12月11日改稿

翌日。

リオは、いつも通り授業に来た。


だが、来なかった子はさらに増えていた。


五人。

三人。

最後には、ミナとリオ、それから数人だけ。


路地の空気が、昨日よりわずかに冷たかった。


「……みんな、親に止められたの?」


僕が尋ねると、後ろにいた細い少年がうなずいた。


「“教会の怒りを買いたくねぇ”ってさ」


「“先生のせいで子どもが変になった”って言ってる大人もいる」


ミナの声には、ためらいと怖さが混ざっていた。


「“生意気になった”って言われた」


「“教会の話を素直に聞かなくなった”とも」


ぽつり、ぽつりと、子どもたちの口から噂が漏れる。


(……教団の反応、想定より早い)


そして、広がり方が上手い。

“子どもに最も近い大人”から伝えるのは、心理戦の基本だ。


ミナが僕の袖をつまむ。


「先生、悔しくないの?」


「悔しいよ」


迷いなく答えた。


「でも、“悔しいから吠える先生”は、昨日までに卒業したよね?」


リオが吹き出す。


「それ、自分に言ってんだろ」


「半分はね」


僕は笑い、板の前に立った。



「いい?

 “先生のせいで”って言葉は、これから確実に増える」


「増えて……いいの?」

ミナが眉を寄せる。


「“いい”とも限らない。でも、“反応が出ている証拠”でもある」


「反応?」


「教団が、本気で動き始めたってこと」


子どもたちが顔を上げる。


「もし僕がただの邪魔者なら、名前も出さずに放っておけばいい。

 わざわざ噂を作るのは、それが効いているからだよ」


僕は板に簡単な図を描いた。


 【静けさを保ちたい側】(教団・一部の大人)

        ↓

 【子どもに広がる“問い”】


「今、この流れに“ひび”が入っている」


「ひび……?」


ミナが首を傾げる。


「固く固まった考え方に、小さな亀裂が入るってこと」


「教会の言う“静かな子はいい子”ってやつか?」

リオが言う。


「そう。あれは長い時間をかけて染みつけてきた価値観だから、

 ちょっと触るだけで揺れるんだ」


リオが腕を組む。


「でもよ、ひび入ったら……そっから壊れちまうかもしれねぇじゃん」


「その通り」


僕は肯定した。


「だから、“ひびの入れ方”を選ばないといけない。

 壊しすぎれば、誰も受け止められなくなる」


子どもたちは黙り込む。

この沈黙は、悪い沈黙ではない。考え始めている合図だ。


「じゃあ、先生はどうするの?」

ミナが尋ねる。


「まず、“噂の形”を見る練習をしよう」


板に今日のテーマを書く。


 今日の授業:

 「噂を分解してみる」


「噂は、“感情”と“言葉”のセットで広がる」


僕は、子どもたちが言っていた噂をそのまま板に写した。


 “先生のせいで生意気になった”

 “先生のせいで教会に逆らうようになった”


「これを、“事実”と“意見”に分ける」


子どもたちと一緒に分解していく。


 ・子どもが教会に質問するようになった(事実)

 ・それを“生意気”と呼ぶ(意見)


 ・授業で“なんで?”を考えるようになった(事実)

・それを“変になった”と決めつける(意見)


分けてしまえば、どちらがどちらかは明らかだった。


「事実だけを見ると、そんなに悪いことじゃないよね」


子どもたちが、曖昧にうなずく。


「でも、“生意気”“変になった”という“言い方”がつくと、

 一気に悪い印象になる」


ミナが手を挙げる。


「……言い方で、同じことが良くも悪くも見えるってこと?」


「そう。その通り。

 だから、“噂”の段階で飲み込んだら、心ごと持っていかれる」


リオが小さく笑った。


「先生ってさ……

 教会が一番嫌うタイプの先生だよな」


「かもね」


僕は否定しない。


「でも、“誰にも嫌われない先生”は、

 たぶん何も変えられない」


「そりゃそうだな」

リオが笑う。


子どもたちの顔に、少しだけいつもの明るさが戻った。


その後の残りの授業は、

噂の裏にある“感情の正体”――

“不安”“怒り”“同調圧力”について、軽く触れた。


表情から読み取れる範囲で、反応は悪くない。



ただ、心の片隅で僕は確信していた。


――教団は、次の段階へ移る。


噂は“布石”。

次は、もっと“直接的な手段”を使ってくる。


授業を続けられる時間は、そう長くないかもしれない。


それでも、僕は板にチョークを走らせ続けた。


“問い”という武器を、

彼らから取り上げさせる気はなかった。


誤字脱字はお許しください。

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