第11話 噂という武器
11話です。
12月11日改稿
その日、授業の始まりは、いつもと少し違っていた。
「……あれ? 今日は少なくない?」
板の前に立った瞬間、すぐに違和感に気づく。
いつもなら十人前後は集まっているはずの子どもたちが、
今日はその半分ほどしかいない。
ミナが、不安そうに手を挙げた。
「先生……リオ、来てない」
「他にも、昨日まで来てた子が何人かいないね」
「あのね……」
ミナが言いかけたところで、
後ろの痩せた少年が口を挟んだ。
「先生、たぶん、親に止められた」
「止められた?」
「“変な考え方を覚えるな”ってさ」
ああ、来たか、と心の中でうなずく。
早すぎるとは思わない。
むしろ、ここまで何日も続いたほうが不思議なくらいだ。
「教会でさ、昨日の説教のときに言われたんだよ」
別の子が続けた。
「“最近、悪い風が吹いている。
与えられた場所を疑うことは、神への反逆だ”って」
「それ聞いて、
うちの親、“ああ、あの先生のことだ”って……」
ミナが申し訳なさそうに、ちらっと僕を見る。
「先生、ごめん……」
「謝るのは君じゃないよ」
僕は苦笑して、軽く肩をすくめた。
教団が動き始めた。
単純に、それだけのことだ。
「授業は、いつも通りやろう」
「いつも通りで、いいの?」
「むしろ、“いつも通り”が一番効くよ」
「効くって、なにに?」
「……まあ、いろいろに」
曖昧に返して、
その日の授業は、なるべくシンプルな読み書きを中心にした。
数字や昔話を分解するのも大事だ。
けれど今はそれよりも、
「先生と一緒にいる時間は、危なくない」
という感覚を、子どもたちの中に少しでも残しておきたかった。
授業が終わると、
ミナがもじもじしながら近づいてくる。
「先生……今日は、このあと暇?」
「寝る以外は予定ないよ」
「その言い方やめて」
ミナは苦笑しつつ、それでも真剣な目で続けた。
「リオの家、行ってくれないかな」
「……なるほど」
事情を全部聞くまでもなく、答えは決まっていた。
「よし。行こうか」
ミナの顔に、ほっとした色が浮かぶ。
「怖くない?」
「怖いよ」
「言うんだ……」
「怖いけど、先生だからね」
そう言って、僕は立ち上がった。
誤字脱字はお許しください。




