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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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108/108

第108話 善意の手

108話です。

昼前。


街は、昨日よりも静かだった。



音が減ったわけじゃない。

動きが止まったわけでもない。



ただ――

人の判断が、少しだけ似てきている。



倉庫の前で、

子どもたちが集まっていた。


昨日より人数は少ない。

だが、欠けたのは“好奇心の強い子”ばかりだった。



ミナは気づく。


(来てない子……

 昨日、質問しそうだった子……)



先生は、

それを指摘しなかった。



代わりに、

紐と計量皿を机に置く。


「今日は、

 使い方を決めない」



ざわ、とする。



「決まりを作らないってことですか?」


と、誰かが聞いた。



先生は頷く。


「うん。

 “決まってない状態”を

 少しの間、持ってみよう」



子どもたちは顔を見合わせる。



不安。

だが、拒否ではない。



そのとき、

倉庫の入口で咳払いがした。



振り向くと、

近所の大人が立っていた。



顔見知り。

いつもは穏やかな人だ。



「……先生」


声は低く、

しかし柔らかい。



「ちょっと、いいですか」



先生は、

遮らずに応じた。


「どうしました?」



大人は、

子どもたちを一瞥してから言った。


「昨日の話……

 考えさせるのはいいと思います」



ミナは、

その“前置き”に身構えた。



「でも」



来た。



「最近、様子を見てる人が多い」

「誤解されると、困る子も出る」



言葉は丁寧。

声も荒げていない。



善意だ。



「だから……

 質問は、少し控えた方が

 いいんじゃないかと思って」



子どもたちの視線が、

一斉に先生に集まる。



止めてほしい。

止めないでほしい。



両方が混じった目。



先生は、

すぐには答えなかった。



少しだけ、

間を置く。



「それは」



大人の顔を見る。


「“誰のため”の判断ですか?」



大人は一瞬、

言葉に詰まる。



「……子どもたちのためです」



即答だった。



先生は、

ゆっくり頷く。


「そう思いますよね」



否定しない。



だが、

続ける。


「じゃあ、もう一つだけ聞かせてください」



「その判断は、

 子どもたちが

 あなたに頼みましたか?」



空気が固まる。



大人は、

首を横に振った。


「……いや……

 頼まれてはいない」



先生は、

声を低く保ったまま言った。


「今のは、悪意じゃありません」



「でも――

 “選ぶ権利”を

 先に持ってしまった」



ミナは、

背中に冷たいものが走る。


(これ……

 昨日の質問と……

 同じ形……)



大人は、

少しだけ顔を赤くした。


「……間違ってますか」



先生は、

首を振る。


「間違いじゃない」



「ただ、

 その善意が続くと――」



地面に、

小さな円を描く。



「次は、

 “守るために見る人”が生まれる」



円の外に、

点を一つ。



「その次は、

 “守っているか確かめる人”」



さらに、

もう一つ点。



「最後は、

 “守られていない人を探す人”だ」



倉庫が静まり返る。



大人は、

思わず言った。


「……そこまで、いきますか」



先生は、

視線を外に向けた。



倉庫の影。

壁際。



“見ている人”。



「もう、始まっています」



大人は、

唇を噛んだ。



怒っていない。

だが、納得もしていない。



「……今日は、失礼します」


そう言って、

倉庫を出ていった。



子どもたちは、

不安そうに先生を見る。



「……もう、質問しない方がいいの?」


と、小さな声。



先生は、

はっきり言った。


「今日は、しなくていい」



「でも――

 “したくなった気持ち”は、

 消さなくていい」



それだけで、

何人かの肩が下りた。



授業の終わり。


倉庫の外では、

二人の大人が話していた。



「最近、あそこ……

 何やってるか分かる?」



「さあ……

 でも、変なことは

 させない方がいい」



善意。

善意。

善意。



その夜。


ミナは、

家で母に言われた。


「最近、倉庫で

 変なこと聞いてないでしょうね?」



ミナは、

一瞬だけ考えてから答えた。


「……考えることを、聞いてる」



母は、

少し困った顔で言った。


「それが、

 ちょっと心配なのよ」



その言葉は、

柔らかくて、

優しかった。



そして――

初めて、“監視する目”が

 家の中に生まれた。



先生は、

夜の街を歩いていた。



(質問は、危険じゃない)



(危険になるのは――

 質問を“心配する側”が

 増えたときだ)



塔の灯りが、

遠くで揺れている。



次に生まれるのは、

きっと――

「あの人は、何を考えさせているのか」

という問いだ。



その問いが向く先は、

子どもじゃない。



先生自身だ。


誤字脱字はお許しください。

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