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聖女なのに魔王にされました~助けに来てよ、 王子様!  作者: ノエル
第2章 婚約破棄編(過去回)
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幕間 魅了魔法を疑う

「……婚約者たちの様子が、どうにもおかしい。……とお前らも思うよな?」


カイルが真剣な表情で言った。シオンとアランも、うなずく。


「急に目の色を変えたようにレイモンドに夢中になって……あれはちょっと異常だ」


「誰かに仕組まれているのかもな。今から魔塔に行って調べてもらうか」


三人は顔を見合わせると、王宮の魔術師団を訪れた。応対するのは魔術師団長――見るからに厳格そうな男だ。シオンが子供のころから知っている頼れる男でもある。


「私たちの婚約者の様子が、おかしいんです」


シオンの言葉に、魔術師団長は片眉を上げた。


「おかしい、とは?」


「レイモンドという男子学生に魂を抜かれたようになっているんです。彼の言うことがすべて正しいとでも思っているかのように振る舞うし。まるで……彼に魅了魔法をかけられたみたいに」


その言葉に、魔術師団長は一瞬、驚いたように目を見開いたあと、苦笑を浮かべた。


「“魅了魔法”などという言葉、久しぶりに聞きましたな。最近では物語の中の話だけだと思っていましたが……。ですが、彼女たちの様子が、本当に常軌を逸しているのなら、調べてみる価値はあるでしょう」


この国で、魔力を持つ者は少なくないが、そのすべてが貴族であり、しかも微量しか持たない。


もし規定量以上の魔力があれば、子どもの頃から魔塔もしくは大神殿で育てられる。それは他国でも同様だ。


ちなみに、エリザベスは規定量以上の魔力を持っているが、王太子の婚約者ということで、魔塔にも大神殿にも行っていない。家族と本人の希望により、普通の貴族女性として育てられている。


だが、“魅了”のような特殊魔法など、実在するという話すらほとんど聞かない。

魅了魔法を持つ者は、この国には存在しないことは確かである。しかし彼は留学生だ。

その点があり、団長はシオンの話に興味を示してくれたようだ。


「私に任せてくささい。彼を秘密裏に調べてみましょう。それと婚約者さんたちもね。

この件は内密にしますからご安心を。でもまあ、本当に魅了魔法にかかっていたら、かつてオルドヴァにいた“大聖女様”しか解けませんよ。かけられていないことを願うばかりです」





数日後、魔術師団長がシオンたち三人をこっそり呼び出した。

場所は、魔塔の奥にある魔術師団長専用の応接室。

団長の顔には、微妙な苦笑が浮かんでいた。


「……結論から申し上げましょう。レイモンド殿に“魅了”の魔力は確認できませんでした。魔力そのものは少し持っていますが、たいした量ではなく、使える魔法は感知系のみです。

こっそり調べたため、判別できなかった魔力もありましたが、それが何であるかは本人の許可を得て、特殊な手法で調べないとわかりません。

しかし、少なくともそれは魅了の魔力でないことは確かです。それにエリザベス嬢たちに魅了を受けた痕跡も見当たりませんでした」


「……そうですか」


シオンは、思わずため息をついた。

カイルもアランも、どこか納得できない様子で肩を落とす。


「でも、ありゃ絶対、なにかあるはずなんだがな……」


「うん。何か――魔法みたいなものでも使ってるんじゃって思ったんだけどな」


「そうであって欲しかったよ」


団長は腕を組み、顎に手を当ててうなずいた。


「何か女性を惹きつける魅力が、彼にあるのかもしれませんね。確かに、あの淑やかなエリザベス嬢とは思えないような言動をとっている、と我々も感じました。

……けれど、その原因を突き止めることはできませんでした。残念ながら、現時点では、『魅了にはかかっていない』ということだけしか言えませんな」


シオンは黙って頷き、目を伏せた。

このままでは、何もできない。けれど、見過ごすわけにもいかない。



「魅了魔法の心配はありませんが、一応、以前お渡しした“悪意ある魔力を消すリング”は決して外さないように。念のため、後でお二人にもお渡ししましょう」


魔術師団長の言葉に、三人は複雑な顔を見合わせた。


「……わかりました。ありがとうございます、団長。調査、感謝します」


「また何かあれば、いつでも相談してください。シオン殿下」


応接室を出た三人は、しばらく無言だった。

さきほど貰った“悪意ある魔力を消すリング”をさっそく嵌めながら、カイルがぼそりとつぶやく。


「……逆に怖ぇな。あれ、魔法じゃなくて素でやってたのかよ」


アランがため息まじりに応える。


「魅了魔法であって欲しかったな。では、あれは自分の意思で動いているということか」


「それが一番質が悪いな」シオンも同意する。


しばらく下を向いて歩いていたカイルがパッと顔を上げた。


「でも、物は考えようだ。王族専用の貴重なリングをもらえたから、ちょっと得した気分だな」


「ちょっとどころの話じゃないぞ。これは滅茶苦茶すごいことだぞ。このリングはもう、うちの家宝だ。いや、俺の宝物だ」


アランが中指に嵌めた指輪を撫でながら言った。

二人の言葉に、シオンは苦笑しながら三人で歩いた。

腑に落ちないながらも、彼らは前に進むしかなかった。



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