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森の夜は静かで、虫の声だけが淡く響いている。

シオンたちのいる部屋から少し離れた場所にある小さな部屋。ベッドの上で、リシェルは一人、膝を抱えていた。


さっきから、考え込んでいるのは、シオンのこと。

シオンは日が落ちると、腕の傷が痛み始める。やがてその痛みは身体中に広がり、深夜になると激痛で眠れなくなるほどだ。

だが、昼間リシェルと手を繋いでいれば、彼は日が落ちても痛みを感じることはないという。

夜もよく眠れるらしい。

自分が役に立つのは嬉しい。でも、それはあくまで「呪いがあるから」で。


「呪いが解けたら、お別れね」


ぽつりと、小さく呟いた。


(わかってる。そんなの、最初からわかってた)


シオンは王族。リシェルはただの村娘。普通なら傍にも寄れない存在だ。

たまたまこの別荘で出会った。

そして、リシェルは微量だけど治癒魔法を持っていたから、傍においてもらっている。

それだけの存在なのだ。


「どうせ、叶わぬ恋よ。だから、いいの。早く呪いを解いてあげなきゃ。シオン様には、ちゃんと王族としての未来があるんだもの。そうよ、私は、“きっとできる”わ」


強がってみても、少しだけ、胸が痛んだ。

けれど涙はこぼさない。泣いたって、変わらないのだから。

それなら、シオンの呪いを解いて、すこしでも痛みから解放してあげたい。


それなのに――今はまだ、軽微な治癒魔法すら使えない状態なのだ。


(一体、どうしたら……いいんだろう。どうしたら、私はもう一度、治癒魔法が使えるようになるの? 私は、シオン様の呪いを解いてあげたいのに)


(そもそも、呪いって治癒魔法で解けるものなのかしら?)


その問いは、何度も何度も自分に問いかけた問だった。



リシェルはあの神殿のことを思い出した。

(あそこに、もう一度行けば何かわかるかな)

胸に手を当てて、リシェルは大きく息を吸い込んだ。

(神官様なら、何かよい方法をご存じかも)

(もう一度、神殿に行ってみようかな……)


リシェルの中に、小さな決意の火が灯った。

シオンを呪いから救うために。そして――

治癒魔法師として、人々の役に立つために。


この胸に芽生えた想いに、少しだけ、望みを託して。



◇◇◇



朝日が差し込む森の別荘。

食後のまったりした空気の中、四人はテーブルを囲んでいた。


リシェルは、三人に何の気なしに神殿のことを尋ねた。

ここから神殿に行くには、どれくらい日数がかかるのかと。


カイルが、湯気の立つカップを手にして言う。


「ここから一番近い神殿っていったら、ミラーンの町か。そうだな、あそこなら馬車で行けば日帰りで行けると思うよ。

そう言えば、リシェルの治癒魔法が使えなくなったのって、神殿に行ってからだと言ってたね。あの話をもう一度聞かせてくれる?」


「はい、そうなんです。神殿で診断を受けた日から、です」


リシェルはあの日のことを思い出しながら言った。


「それまでは、小さな怪我なら治せていたんですけど……神殿で力を測ってもらって、それから、ぱたっと……」


アランが眉をひそめる。


「ぱたっと、か。神殿で何か言われたか?」


「いえ……特に。『期待していたけど残念』みたいなことを言われて、診断結果も『無』で、それっきりです」


「何度聴いても不思議な話だな」


カイルが真顔で言う。


「診断後に魔力が出なくなった、かぁ……確かに、何度聴いても不思議な話だ」


アランが腕を組んで唸る。

シオンはリシェルの隣で黙って聞いていたが、ふと顔をあげて口を開いた。


「だったら、もう一度神殿に行って、直接話を聞いてみようか。同じ事例が過去にあったかもしれないしな。あそこの神官長は真面目な良い人だ。相談すれば、一緒に考えてくれるんじゃないかな」


「おう、それがいい! そうしようぜ! 久しぶりの遠出は楽しみだな!」


カイルが嬉しそうに叫ぶ。


「大ごとにならないように慎重に動くぞ」


アランは釘を刺すように言ったが、口元はどこか楽しげだった。

リシェルは驚いた顔で三人を見たあと、頷いた。


「はい。行きたいです。連れて行ってください。王子様が一緒なら、詳しいことを教えてもらえるかもしれませんし。少なくても門前払いにはならないでしょうから安心です」


「よし! 今から行くぞ。みんな支度しろ。場所はわかるな?」


「え? 今からですか?」


「思いついたら、すぐ実行に移さなきゃ。俺は馬を見てくる。場所はだいたいわかるよ」


「俺も、馬を見てこよう。それと馬車の準備だな」


こうして、四人は思い立つと同時に、すぐに神殿に行くことにした。

真相を求めて。

そして、リシェルの力を取り戻すために――。



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