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つきが世界を照らすまで  作者: kiri
落葉の先、黒き猫を追いかけるの事
60/72

漆―続

 捕食される恐怖は持っていても相手が飽食していればそれは薄れてくるだろう。彼らが満足している現状ならいいだろうが、それはとても不安定なものだ。


「雀も鴉も仲良くすればいいのに」


 ああ、そうだね。春夫が言うように、そうあれたら世界は優しい。


「僕はカラスみたいに大きくて強いのがいいな。ちょっと怖いけど」


 秋成の言うことも確かにそうだ。


「仲良くできたらいいけれど、上手くいかない時もあるからね。強くなるのはいいかもしれない。でも、何のために強くなるかは考えなくちゃいけない」


 人を傷つける強さではなく守るための強さならいいだろう。けれど、その二つはとても近いものだから。


「前を向くための強さなら、あっていいと思う」


 皆がキョトンとする。


「ごめんごめん、ちょっと難しかったね。僕も皆で仲良くしようって言えたらいいなって思うよ」

「そっか! それなら僕とくいだよ!」

「秋成はいつも元気だものね。元気で明るいから皆、秋成が大好きだよ」


 えへん、と胸を張って秋成はにこにこ笑う。


「ぼくは? とうさま、ぼくはすき?」

「もちろんだよ。駿は可愛いし、いい子だからね」


 広げた小さな手が僕の首に回される。そんなに抱きついたら苦しいよ。

 抱きつかれたまま僕は春夫に目をやる。


「春夫、いつもありがとう。ごめんよ、僕が弱いから春夫にも心配かけてしまって」

「ううん、父様はすごいよ! だって病気をやっつけて目も見えるようになったんだもん」

「そうだよ、父様はすごいよ」


 すごいすごいと言う春夫と秋成につられて駿も手を叩く。


「ありがとう。それじゃ、またがんばって絵を描かないといけないな」

「うん、父様の絵好き」

「ぼくもすき」


 秋成も駿も、そう言ってくれて嬉しいよ。


「父様、疲れるまで描いちゃ駄目だよ」


 もう、本当に春夫はしっかりしてるなあ。


「さあ、雀も鴉も帰るから僕らも帰ろう」


 家へ帰ろう。

 帰ったら、絵を描こう。



 老いても若木を伸ばす柳。これがこの木の生きたいと思う力なのだ。奔放(ほんぽう)に伸ばされた枝に止まる雀。もう一本の老柳(おいやなぎ)には鴉が一羽止まっている。目線は雀達に向けて。

 背景は描かず、ほんのりと薄茜の夕暮れの色を広げる。


「わあ、スズメがいっぱい」

「そうだね、駿の雀も描いてあげよう。どこに描こうか」

「ぼくみんなといっしょがいいの」


 まだまだ甘えん坊の駿は、とびきり多くの雀と一緒に。


「それじゃあ、駿の雀はここだね」

「あれ? 父様何してるの」


 駿の雀を描くんだと言うと、秋成も描いてほしいと言う。


「僕は枝の先のほう。もしカラスが来たら、みんなより先に友達になろうって言うんだ」

「秋成はすごいな」

「えへへ、春兄は? 春兄ならどこにする?」


 子ども達はそれぞれの性格そのままの場所を指す。この絵はこんな見方ができるんだな。


「そうだね、春夫ならどこがいい?」

「僕は皆を見守れるところがいいな。何かあったら教えてあげられるもの」

「春夫らしいなあ」

「父様と母様は?」

「そうだな……できあがったら探してごらん」


 後で千代さんにも聞いてみた。そうしたら鴉の後ろを指差して言った。


「ここなら何があってもすぐに飛んでいけそうですから」


 同じ事を考えてて、思わず笑みがこぼれた。

 自分の中に鴉を見るか雀を見るか、画面の主役は見る人次第だ。そんな見方で面白く感じてもらえたらそれもいい。


 巽画会に出展した六曲一双の屏風、『(すずめ)(からす)』は銀牌第一席を受け、宮内省にお買い上げいただいた。

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