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つきが世界を照らすまで  作者: kiri
日本美術院奮闘するの事
19/72

壱―続

 僕は気持ちを改めて秀さんを画号で呼んだ。それなのに秀さんは、うわあっ、とあからさまに嫌な顔をする。その反応はどういうことかな。


「……ミオさんにそう呼ばれるのはしっくりこねえな。っていうか気持ち(わり)いな」


 秀さんは本当に嫌そうに首を竦める。


「それは酷くないですか!?」


 僕が秀さんに詰め寄ると、観山さんが横で笑いながら言った。


「君達は家族みたいなものじゃないか、いつも通り名前で呼ぶほうが合っていると思うがねえ」


 少し違うような気もするけれど、その言葉が一番近いように思う。

 秀さんとは年も離れてるし性格も真逆なのになあ。なんで仲がいいんだ、と聞かれたって気が合うからとしか言いようがない。


「それだ、他人行儀な感じがするんだよな」


 秀さんが頷く。

 そうでしょうと観山さんは言って、ふと思いついたようにひと言つけ加えた。


「私は横山さんが私より上の賞を取ったら、画号で呼ばせていただきますね」

「かああっ! 意地が悪いぞ、観山! 次に展覧会に出す時、見てろよ」


 なんだか学生に戻ったみたいで口元が緩む。


「ミオさんは何をニヤついてるんだ? ああ、そうか。久しぶりに制服着られて嬉しいんだろ」

「秀さんも意地が悪いですよ」

「ミオさんは嫌いじゃないんだろう」


 秀さんに言われて僕は口を尖らせた。


「僕だって一年も外で仕事をしてたんですからね。いい加減わかりました」


 この制服は古いなと改めて思う。僕のような者でもしばらく外に出ていたらそう思うのだから、なるほど学生達には評判がよくないと心から納得した。

 観山さんがくつくつと笑う。


「岡倉先生の方針には(おおむ)ね賛成なんだがねえ。大きな声じゃ言えないが、これには異議を唱えたいよ」


 観山さんの言葉を豪快に笑い飛ばして、秀さんは僕の肩に腕を回す。


「古かろうがなんだろうが、俺達はここで絵を描ける」

「はい! そうですね」


 そうだ、絵を描けるんだ。


「楽しそうで結構だ」


 笑い声の間に、戸の開く音と声が割り込む。


「岡倉先生!」


 笑い合っていた僕らは、そのくらいでと(たしな)められた。


「今期の授業について説明しようと思う。教員、皆に集まるように言ってくれないか」


 僕らは皆に伝えるべく部屋を飛び出す。

 今期も岡倉先生の講義はあるだろうか。以前は外部の聴講生も受け入れていたし、予定されているのなら聞きにいってみたい。

 先生は一見(いっけん)すると遠回りに見えて、最後にはなるほどと納得してしまうような不思議な話し方をされるのだ。あまりにもすとんと胸に落ちるから、自分が考えたようにさえ思ったことがある。


 講義も絵を描くことも、これからを思うと高鳴る胸が押さえきれない。

 先生の元で絵を描けるのが嬉しくて仕方がない。

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