星座が見えないプラネタリウム
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恐ろしい夢を見た。夢はたいていの場合、目が覚めた時点で忘れてしまっているものだ。だけど、ほんとうに怖い夢を見たのだろう。でなければここまで汗びっしょりには……。知らず知らずのうちに、涙を流しながら、ベッドの上で明後日の方角に右手を伸ばしていた。「真田君、真田君っ」そんな声が、喉の奥から発せられる。「返事をしてよ!」と大きな声、「お願い! 帰ってきて!」と心の底から叫んだ。顔がくしゃくしゃになる。そんな顔を両手で覆う。ほんとうの痛みが、あたしの胸に去来する。ほんとうの悲しみが、あたしの脳裏を支配する。真田君、忘れられないよ。死と隣り合わせの仕事だとはわかってる。あたしのことをかばってくれたのもわかるけれど、にしたって、死ぬことはなかったじゃない。どう? 間違ったこと言ってる? もしそうでないのであれば、ちゃんと返事をしてほしい。ちゃんと戻ってきてほしい。どれだけだってあたしのこと、あげるから。
涙と鼻水を右手だけでなんとか拭い、あたしはベッドから下りた。
真田君、きみとの思い出の数なんて高が知れてる。それでも、仕事をサボりがてら、プラネタリウムに行ったことは強く覚えてる。きみが「行こう」って言ったんだよ? そうに違いないんだよ? あたしは星なんかにはまるっきり興味はないんだから。
――背もたれが後ろへと倒れ、自然と天井を見上げる格好になる。女性の声、柔らかなアナウンス。それからまもなくしてのことだった。天井からぱっと、星々が――星座が消えてしまったのだ。あれれ? って思っていると、「も、申し訳ございません。機材トラブルです」との説明があった。
背もたれは後ろに倒れたままで、まるっきり暗転してしまったとはいえ、それでも星座は見えないものかと天井を一心に見つめる……なにも見えない。暗い、暗い。まるで人生みたいだ。少なくとも、あたしが暮らしてきた時間はそうだった。とにかく失うばかりで、手に入れたものなんて、そんな、ものなんて……。
両の目尻から涙が伝う。
真田君、どうしたって、苦しいよぉ、切ないよぉ、恋しいよぉ……。
「泣くなよ、飛鳥先輩」
そんな声を、間違いなく聞いた。
真田君の声だった。
天井から聞こえた。
真田君、きみはいる?
あたしのことを、きちんと見守ってくれているの?
「見守ってるさ」
また、そんな声がした。
あたしは泣いた。
しゃくり上げ、好きなだけ泣いた。
ここは星座が見えないプラネタリウム。