冷えたエールは最高です!
こんばんは、皆さん。
私アンズは今、ものすごーく落ち込んでいます。
というのも、異世界で徴税課に就職し半年目にして、まさかの大ミスをしちゃいまして。総長にも多大なるご迷惑をかけちゃいまして。久しぶりにめちゃくちゃ凹んでいるんです。
半年やってこれたという自信が油断を招いてしまったのでしょうか。何事も慣れてきた頃が一番危ないと言いますしね。今回は総長のお陰で丸く収まりましたが、次もこうとは限りません。もっと気を引き締めなければですね。
「おい、アンズ。今から飲みに行くぞ」
「長官、でも私…」
「なんつー顔してんだよ。部下がミスするのは想定内。それをどうにかするのが上司である俺の仕事なんだから、いつまでも気にしてんじゃねぇよ」
総長。本当に総長のこういうところ尊敬しています。
総長は私だけではなく、この徴税課の誰かがミスした時、その人に合わせて全力でフォローしてくれるし、お怒りである相手や総長よりももっと上のおえらいさんにも総長自らが頭を下げ庇ってくれるんです。
厳しい面もありますし、顔は怖いですが、それでもみんな総長の優しさに救われているというか。
どんなに厳しい内容の仕事だって「長官がいれば大丈夫。きっと何とかなる」って思わせれくれるんですよね。それでやっぱり総長に助けてもらったりなんかして「長官に恩返ししたい。長官のために働きたい」なんて思えてきたりもするんです。
徴税課ってやりたがる人が圧倒的に少ない不人気職なのですが、実は離職率が著しく低いんですよ。それはきっとこの総長の優しさがあるんだと思います。
「長官、ありがとうございます。飲みに連れて行ってください」
「おう。ほら、さっさと帰る準備して来いよ」
***
総長が連れて行ってくれたのは大衆酒場「夜月亭」でした。
この世界では珍しく醤油やお味噌を使った和食っぽい料理がメニューにあって、総長に初めて連れてきてもらった時は感動したものです。それ以来、ちょくちょく連れてきてもらっています。
ちなみに総長はこの夜月亭の常連さんらしく、メニューについて詳しいです。異世界料理という事もあり内容がよくわからない料理について尋ねると、使われている具材や調味料、見た目、味、今の時期のオススメ度等など…相当詳しく教えてくれます。
おそらくこれは全メニュー制覇していますね。そしてここまで詳しくなるなんて、好きな物はとことん追求するタイプなのでしょうか?なんだか自分で同じものを作れそうな程詳しいです。実は料理が趣味だとか?
よくわかりませんが、そんな総長お気に入りのお店に連れて来てもらっていると思うとなんだか嬉しいですね。
さて、今日は何を頼もうかなぁ。和食っぽいメニューでいうとジャンボナスのおひたしも美味しいし、ズッキーニの梅肉和えも捨て難いです。あとグリズリーの赤ワイン煮込みもまだ頼んだことがありません。気になります。
ちなみにグリズリーというのは熊型の魔物なのですが、こちらの世界では討伐した魔物のお肉が普通に食べられます。日本で食べられているお肉よりも赤みが多くあっさりしていて、けっこう美味しいですよ。
ふふふ。さっきまで落ち込んでいたのに、メニューを見ていたらワクワクしてきました。私って案外食いしん坊なのかもですね。
っと、そこでちょうどアルバイトらしき店員さんが最初に頼んでいたエールを届けてくれましたので。
「よし、乾杯な」
「はい、乾杯です」
2人で乾杯して一気にエールを煽ります。
「ぷはぁー。うめぇー」
「仕事後の一杯は格別ですね」
はぁ〜、冷えたエールは最高です!
日本酒や焼酎もいいですけど、最初の一杯はやっぱりエールですね。
あ、総長が店員さんにいくつかメニューを頼んでいます。その中にはジャンボナスのお浸しとズッキーニの梅肉和えとグリズリーの赤ワイン煮込みも含まれていて。
さっき私がメニューを見ていて気になっていたものばかりです。総長ってこういうところスマートですよね。デキル大人の男感が漂っています。顔は怖いのに。
一体その技をどこで磨いたのでしょうか?
こんなデキル男感が滲み出ている総長ですもん。きっと過去に綺麗なお姉さん系の彼女の1人や2人余裕でいたのでしょうね。顔は怖いけど。
………あれ、なんか胸がムカムカするような?
「どうかしたか、アンズ」
「いえ、なんでもありません」
うん、きっと今日仕事でミスして疲れているんですね。
よし、明日は休みですし今日はパーっと呑みましょう!
「それよりも、長官、今日はとことん付き合ってもらいますよ」
「はっ、お前がどこまで飲めるか見ものだな」
***2時間経過***
「だいたいですねぇ、ぜいきんをごまかぞうなんて ふざけたはなしでずよ!」
「アンズ。お前酔ってるだろ。そろそろやめとけ」
「なにをいってるんですか、ちょうがん!わたしはよっでまぜん!」
「酔ってるヤツはみんなそう言うんだ」
総長が私からグラスを取り上げようとします。
何するんですか、私はもっと飲みたいんです。
「しがも わたじのときは ぜんぜんあいでに してくれなかったのに ちょうがんが かおだしたら すぐにいうこときくっで。 なんなんでずか」
「はいはい、お前はよく頑張ってるよ」
「ちょうがん! ごどもあつかいは しないで ぐだざい!!」
「別にお前をガキだなんて思ってねぇよ。だから、ほら、マジにそろそろやめとけ」
むむむ。
総長がまた私からグラスを取り上げようとします。私はまだ飲みたいのにイジワルな上司です。
でも、思えば私がこんな風に誰かと一緒にお酒を飲んで酔って愚痴るなんて今まで無かったなぁ。今までは、どちらかというと酔って愚痴ってる友達を介抱する側だったから何だか新鮮です。
なんでしょう。総長と一緒にいるともっと甘えたくなるような。
………私が総長の事を異性として好きかどうかはまだわかりませんが。
総長といると胸が温かくなります。もっと総長と一緒にいたいですし、もっと総長の事を知りたいって思えます。
「ちょうかん わたし………」
お酒に頼るのはあまり良くないのかもしれませんが、少し酔っている今なら素直な気持ちを総長に伝えられる気がします。
『アンズが元気になったのは良かったが………そろそろ本気で止めないとヤバいな。粗相したらまたコイツ落ち込みそうだしな』
だって、ほら。
総長の心の声はいつだってこんなに優しいんですから。
総長の心の声を一方的に聞いているだけなんて、フェアじゃないですよね。
私だって自分の素直な気持ちを総長に伝えて………
『だが、酔って目が潤んでるアンズもそそるな。いっそこのまま酔わせて家に連れ帰るという手も………』
「店員さん、お水くださーい!!」
アンズ 「一気に酔いが冷めました」(真顔)
■おまけ(総長とアンズが職場を一緒に出る前)
「あ、クラム長官、どっか飲みに行くんスか?だったら俺も一緒に奢ってく………ヒイィィ!冗談です!冗談ですってばああぁぁ!お、俺急にお腹が痛くなったからもう帰りますね。失礼しますううぅぅ」
可愛そうなニックを書くのが楽しすぎる(笑)