番外編② 違う呼び方したらお仕置きな
総長と正式にお付き合い始めて1ヶ月程経ったとある休日。
「アンズ、お前俺のこといつまで長官呼びするつもりだ?」
事の始まりは、休日に総長の自宅で言われたそんな言葉でした。
「と、言いますと?」
「いつまでも愛しい恋人から長官呼びされている俺は哀れな男だと思わねぇか?名前で呼べよ」
それは私もなんとなく気になっていた事です。総長の名前はクレイ・クラム。つまりクレイと呼べばいいのでしょうが、さすがにいきなり呼び捨てにするのはハードルが高すぎます。なので………
「クレイ様?」
「却下だ」
「クレイさん?」
「さんもいらねぇ」
「魔王様?」
「何で遠くなってんだよ」
「組長?」
「意味分かんねぇ」
総長がとても不満そうですが、こちとら恋愛経験なくアラサーになった女です。異性を呼び捨てするなんて今まで無かった事なんですから少し慣れるまで時間が欲しいところです。
「そうは言っても、いきなり呼び捨ては厳しいですよ」
「分かった、呼び捨てが嫌なら………
①番 カッコいいクレイ様
②番 好きですクレイ様
③番 愛してますクレイ様
この中から好きな呼び方選べよ」
「なんですか、その呼び方!選べるワケないでしょう!」
というか、それ、たんに総長が言われたい言葉じゃないですか。
「なんだ気にいらなかったのか?なら出血大サービスだ。
④番 もっとシテくださいクレイ様
でもいいぜ?」
「何てこと言わせようとしてるんですかっ!?わかりましたよ。呼べばいいんでしょ、呼べば」
これ、ちゃんと名前を呼び捨てしないと永遠にからかわれ続けるパターンです。正直呼び捨ては抵抗がありますが、変な呼び方をするよりましでしょう。
それに元々自分でも呼び方は変えないとだと思っていたんですし変える時が早くなっただけです。頑張って呼びましょう。
「ク………クレイ?」
顔を少し赤くしながら呟くと総長が満足そうに頷きました。
「ん。いいんじゃねぇか」
なんだかこのやりとり甘酸っぱいというか恥ずかしいですね。でも、呼び方を変えるだけで少しだけ特別感が上がった気がして嬉しいです。
私がちょっとした幸福感に浸っていると………
「ちなみに違う呼び方したらお仕置きな」
総長が爆弾発言をかましてきました。
お、お仕置きですと?それはつまり………
―――ドン!
「俺の名前を呼べるまで今夜は寝かさねぇぜ?」(←床ドン)
「あ………そんな………」
「ほら、ちゃんと俺の名前を呼べよ」(←顎クイ)
「ク………クレイ♡♡♡」
(注意 アンズの偏ったお仕置きイメージです)
こ、こんなヤツですかー!?え?それむしろご褒美では?いけない、鼻血が出そうです。
って、昼間から何を考えてるんですか、私!
大体総長がそんなお仕置きをするはずが………ないとは言い切れないのがコワイところですが、それでも常識的に考えたらそんなお仕置きはないでしょう。とは言っても総長が思いつくお仕置きが何か全くわからないです。
ニックさん相手なら顔だけ出した状態で地面に埋めたり、縄でグルグル撒きにして宙吊りにしそうですが、女性に対しては割と紳士なところがある総長です。私に対してそんなお仕置きはしないはず。
ですが、ここは念のためにお仕置きの内容を聞いていた方がいい気がします。なんとなく。
「あの、お仕置きって何をするつもりですか?」
「俺がアンズを口説く」
ん?総長が私を口説く?なぜそれがお仕置きに?
はっ!お仕置きで口説かれるという事はもしかして………
―――ドン!
「アンズ、呼び捨てにしろって言っただろ」(←壁ドン)
「す、すみません………つい………」
「仕方ねぇな。今から俺がどれだけお前を愛しているかわからせてやるよ」(←膝ドン)
「ク………クレイ♡♡♡」
(注意 アンズの大変偏ったお仕置き&口説きイメージです)
こんな感じですかー!?
え?やっぱりお仕置きじゃなくてご褒美なのでは?それともこれをご褒美と感じるのはヘンタイ大国日本出身の私だからで、異世界ではこれがお仕置きなのでしょうか?
と、ちょっと落ち着きましょう私。何も壁ドンやら床ドンがお仕置きと決まったわけではありません。むしろこれは私の妄想。総長が考えているお仕置きは違う内容という可能性もあります。
というかむしろ違う可能性の方が高いでしょう。知らずに地雷を踏んで本当のお仕置きをされる前に、詳しい内容を確認すべきです。
「長官、あ、あの。お仕置きの内容ですが………」
「なんだ、アンズ。さっそくお仕置きされてぇみてぇだなァ」
はっ!うっかりいつもの癖で長官呼びしてしまいました。
総長がドス黒い笑みを浮かべ、心底楽しそうにしています。
この顔は私をオモチャにする時の顔です。
思わず条件反射で一歩後ずさると総長が一歩前に出て。私がまた一歩後ずさると総長がさらに一歩出て。いつの間にか壁際まで追い詰められてしまいました。
も、もしかしてコレはやっぱり壁ドンからの膝ドンお仕置きダブルコンボですか!?そんな、総長、昼間からそんなヒワイな事ダメです!!
恐怖と期待でドキドキしていると、なぜか総長が私の足元で片膝をつきまして。
ん?
まとっていたドス黒い空気が消えて。
んん?
眉間の皺が消えニッコリと爽やかな笑顔になり。
え、ちょっと爽やかな総長の笑顔って気持ち悪いです。悪どい詐欺師にしか見えないというか、胡散臭いにも程がありますよ!?
さらになぜか背後にキラキラとした綺麗な花のエフェクトが出現しまして。
スゴイ。漫画の世界じゃなくても背後に花を背負えるんですね。初めてみたけど、総長と花の組み合わせって似合わないの通り越して逆にホラーですね。
それから私の手を取り………
「愛しいマイエンジェル。私を魅了してやまない子猫ちゃん。君の美しさの前では太陽の光でさえ霞み、美の精霊でさえ恥じいり嫉妬してしまう。なんて罪作りな子猫ちゃんなんだ………。君の声は天上の甘美なる調べそのもの。私は君の可憐な声を聞いているだけで(以下長すぎるので略)」
ひいぃぃぃぃぃぃ!?
どうしちゃったんですか、総長!?バグですか!?どこかで頭でも打ってまたバグっちゃったんですかぁぁぁ!?気持ち悪い!本当に気持ち悪い!気持ち悪すぎて鳥肌まで立ってきたじゃないですかぁ!!
私が鳥肌を立てながら震え上がっていると、キラキラ花のエフェクトをしまい元のドス黒い空気をまとった総長がクククと笑いながら言いました。
「俺にこんな風に毎回口説かれたくなかったら呼び方には気をつけるんだな」
ギャップが!イロイロとギャップが激しすぎて私の心臓がついていきません(白目)。
こんなの毎回されていたら精神がやられて確実に死んでしまいます。総長の言葉にブンブンと全力で頭を縦に振っときました。
「それから職場でもクレイ長官な」
「え?職場でもですか?」
「職場でも呼び慣れてた方が普段も間違わねぇだろ」
「はぁ」
「もしいつもみてぇに長官だけで呼んだら職場でもこれをやるからな」
「はいぃぃぃ!?」
な、なんてことを!?
こんな総長の姿を職場の皆さんに見せるわけにはいきません。確実にショックで倒れる人が続出します。そうなると仕事に多大な支障が!
それに何より人前であんな風に口説かれたら「クロム長官に跪かせて趣味の悪い愛を乞わせている悪女がいる」的な不名誉な噂が飛び交いかねません。
絶対に!絶対になんとしても呼び方を間違わないようにしなくては!
コブシをギュッと握り硬く決意した私ですが………
ー翌日ー
「おい、アンズ。この資料だが………」
「あ、長官。それでしたら………」
はい、ある意味予想通り、いつもの癖であっけなく間違ってしまいました。
『へぇ………』
あぁ、空気が!総長の周りの空気が一気にドス黒くなってきました。
怖い、これから起こる事が怖すぎる!
『俺があんなに言ったのになァ』
一瞬ドス黒くなった空気が今度はキラキラエフェクトに変わり始めて、総長の顔が爽やか系に変わっていきます。
顔は爽やか系なのに心の声はドス黒いって、どうやってるんですか、それ!表情と心の声が違いすぎて怖いです!
『アンズはよっぽど俺にお仕置きされてぇんだなァ』
ヒイィぃぃ、私の前でゆっくりと片膝つくのやめてください。しかもどこからかバラの花束まで出して昨日よりもさらにパワーアップしてます。その小道具、絶対に私が呼び間違う事前提に用意してましたよね!?
あぁぁ、ほらすでに徴税課の皆さんがザワザワしてるぅ、めちゃめちゃ私と総長を注目してるぅ!
『さぁて、今からどんな噂が立つのか………楽しみだなァ、アンズ』
ひいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!
後日、大変不名誉な噂が徴税課だけではなく王宮内全体に流れまくり、私は二度と総長を長官呼びしないと決心しました。
◼️おまけ
ニック「クロム長官、なんであんな事したんすか?」
総長 「あぁ?タヌキジジィ達が爵位とって自分の娘と結婚しろって煩せぇんだよ」
ニック「そういえば、以前からその手の話がありましたね」
総長 「陛下に結婚の許可をとった事である程度はあきらめてくれたんだが、まだしつこいタヌキがいてな。俺が職場でベタ惚れしている女にイカレタ愛を囁くバカだとわかれば、さすがにあきらめんだろ」
ニック「それ、アンズさんに知らせてるんすか?」
総長 「何でんな事する必要があんだよ?知らせねぇ方が面白いだろ」
ニック「………クロム長官って時々マジで鬼畜ですよね(アンズさん、可哀想)」




