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私、長官のところに行ってきます


翌日、起きたらマブタがパンパンに腫れていて。あまりにも酷い顔すぎて職場へそのまま行く事ができずに。


この世界に巻き込まれ召喚され、徴税課で働くようになって半年以上。今まで一度も使ったことがなかった有給(午前中のみの半休ですが)を使ってしまいました。


ちなみに職場への連絡は魔法石を使って行う事ができます。ちょっとした電話みたいな感じです。とは言っても予め登録していた場所(今回の場合は職場と私の自宅)しか通じないのですが。どうにかしてもう少し便利にならないでしょうか?スマホまでとは言いませんけど、せめて携帯電話くらいの機能を持った魔道具を誰か早く開発してください。



っと、電話の話は置いといて、昨日の事ですが、泣いたらだいぶスッキリしました。昔から私は嫌なことがあったらひたすら泣いて、それでスッキリさせる方なんです。


で、ですよ。スッキリした頭で冷静になってよくよく考えたらですね。

昨日、総長なにか言いかけてませんでしたっけ?



「私が誤解してる」とかなんとか………。



しかもですね?スキル“好意を持っている人の心の声が聞こえる”で今まで総長の声が聞こえていたという事は、少なくとも総長は私に対して好意があるわけで。


私を見張っていたというのは事実なのでしょうが、何か事情があったのではないでしょうか?


いくら混乱していたとはいえ、総長の事情も聞かずに一方的に総長を拒否してしまうなんて。しかも言いたいことを言い終えたら、雨の中総長を置き去りにして走って家まで帰ってきてしまうなんて。いい大人としてかなり恥ずかしい行為だった気がします。それに………




あの時の総長、すごく傷ついた顔してました。




昨夜の総長の顔が頭から離れません。あんなに辛そう顔、初めて見ました。そんな顔を私がさせてしまったなんて。傷ついただろう総長のことを思うと、私の心までも締め付けられたように痛くなります。


スミマセン、総長。私、酷いこと言いました。きっと総長は私以上に心が痛かったですよね。


決めました、総長に謝りましょう。そして事情を聞きましょう。これからどうするかは………事情を聞いた後に考えればいいのです!





***




「お、お疲れ様です」


午後になり、徴税課まで出勤して恐る恐ると入り口のドアを開けた私ですが。



「アンズさん、待ってたっすよ!」

「アンズちゃん、お願いだからアレをなんとかしてちょうだい!」

「あんずさんー、私たちじゃー、どうにも出来ないんですー!」



前のめりなニックさんとシルヴィアさんとエスメちゃんに出迎えられました。

いったいどうしたんでしょうか?



「午前中は休んでスミマセンでした」

「そんな事はどうでもいいっすよ!それよりアレ見てくださいよー!!」



うん?アレとは?

ニックさんが指差した方を見てみると………



ひいぃ!います。ドス黒くて重たい空気を纏った例のあの人がいます。

自分の机に座ってガリガリと仕事をされていますが、当社比10割増しで眉間のシワが濃くなり悪人顔の凶暴さが増しています。

しかも気のせいでしょうか?あの人の周り半径数mで空気が重くなり重力が増しているような。ミシミシと机や椅子が軋んでいるような。ちょっとしたホラー現象ですよ!



「長官がスゴイ事になっていますね」

「朝からあの調子なのよ。みんな怖くて近づけないし、怯えて仕事にならないからアンズちゃん、なんとかして。他部署からも空気が重いって苦情が来てるんだから」

「え?なんとかしてと言われても私では(そしてなぜ他部署からも苦情が来るんですか!?)」

「クラム長官があんな風になるなんてー、アンズさんが原因に決まってるじゃないですかー。昨日長官と何かあったんじゃないんですかー?」



………はい、心当たりがありすぎます。

ほぼほぼ間違いなく昨日の事が原因かと。

ああぁぁぁ、なんだか罪悪感が。私のバカな言動が職場全体に影響を及ぼしてしまったのかと思うとすごく罪悪感が。

とはいっても、この状態の総長を私がなんとかできるものでしょうか?



いえ、ここで怯んではダメです。今朝、ちゃんと総長に謝って、それで事情を聞くと決めたばかりじゃないですか。それに、どちらにしろ半休を頂いたことと出社したことを徴税課の長である総長に伝えないとですしね。




「私、長官のところに行ってきます!」




正直、今、総長に会うのは怖いです。でも、このままでいいワケありません。

昨日の総長の傷ついた顔や、私が言ってしまった最低な言葉を思い出すと足がすくんでしまいます。逃げ出したくなってしまいます。でも、きっと今逃げたら後悔してしまう気がするんです。



「お疲れ様です、長官。午前中は半休ありがとうございました」

「お疲れさん。お前は今まで有休使って無かったしな。何かあれば遠慮せず使えよ」



総長はいつも通りの優しい態度です。

こんな時にいつも通りに振る舞えるなんて、さすが大人ですね。


でも、どこか表情がよそよそしいというか、硬い部分があり。

声もいつもよりも少しだけ無機質になっていて。

やっぱり昨日のことが尾を引いているようです。



「あの、それで………。昨日の事なんですけど………」

「待て。それは今、ここで言う内容か?」



総長がすかさず私の言葉を遮ります。

確かにその通りです。

正論過ぎて、言い返すことができません。


そして、それ以上に一つ。


気付きたくなかったのに、気づいてしまいました。



「いえ、違います」

「仕事後に時間取るから、そん時な」




―――総長の心の声が全く聞こえないんです。




今までは総長の近くにいると、私のことかどうか関係なく何かしらの心の声が聞こえてきたのに。

今はそれが全く聞こえないんです。


私が女神様から頂いたスキルは“好意を持っている人の心の声が聞こえる”というもの。

昨日まで聞こえていた総長の声が聞こえなくなったということは。

つまりそれは、もう総長は私に対して好意がないということで。



あぁ、私、失恋したんだ。



私が考えもなしに酷いことを言ったから、呆れられて、それで嫌われたんだ。

きっともう総長は前みたいに笑いかけてくれないし、私に触れてくれもしないんだ。


総長の温もりをもう二度と感じられないのかと思うと、段々と涙が込み上げてきます。

ダメです。職場で泣くなんて最低です。我慢しなきゃ。


私が立ったまま、うつむき涙を堪えていると。




「おい、アンズ。どうした?」




総長が席を立ち、私の前まで歩いてきて。

いけない。泣いてる姿なんて絶対に見せたくありません。

なんとか誤魔化して自分の席に戻らないと。



「なんでもないです。戻って仕事しますね」



言って自分の席に戻ろうとしたけど、総長は動きを止めずにゆっくりと私に近づいてきて。

伸ばされた手で頬に触れられたと思ったら。

なぜか前から身体ごと抱きしめられて。




えっ!?いったい何が起こって………




「長官、どうしたんですか!?ここ職場ですよ!?」

「・・・・・・・・・」


あぁ、耳の近くで総長の荒い息遣いが聞こえます。

それに段々と総長が自分の体重を私にかけてきて、重さで動けなくなってしまいます。

このままでは床に押し倒されてしまいそうです。


総長は比較的いつも積極的ですが、今はそれ以上に積極的といいますか、いつもと様子が違うような。




………ん?んん?




「きゃー、アンズさん、見せつけないで下さいよー」

「若いっていいわね」

「ちょっとクラム長官!さすがに職場でアンズさんを襲うのはどうかと思うっすよ!」

「皆さん、違います、誤解です!長官、すごく身体が熱いんです!」

「熱いってー、そりゃぁー、熱くなりますよねー」

「うふふ、若いっていいわね」

「俺はこの前失恋したばかりなのにいぃぃぃ」

「いえ、そうじゃなくて!長官、熱があるみたいなんです!!」

「「「えっ?」」」



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