俺らのために生贄になってください
総長とデートした翌日。
いつものように職場に歩いて通勤している私です。いつも通りの支給された制服。いつも通りの通り道。すれ違う人も代わり映えのない人達。のはずなのに。
なぜかいつも通りの光景とは少し違って見えます。
総長とキスしてから世界が色づいて見えるんです………という単純な理由ではなく、何かが…そう、何かが変なのです。
どのように変なのか具体的な例をあげると、時々すれ違う人の何人かが私の方を見てビックリするんです。しかも、人によってはヒイィとか言って怯えたりするんです。ガクガクと震えだす人までいるんです。
そう、まるで「目つきの悪いどこかの誰かさん」にでも遭遇したかのような反応です。
とはいっても、全員が全員そのような反応をするワケではなく。時々そんな反応をする人がいるだけなのですが。なんなんでしょうね。
私の格好が何かおかしいのでしょうか?改めて見える範囲で自分の服装を見てみてもいつも通りですし。先日出勤した時と何か違うところといえば、総長にいただいたピアスをしているところしか思いつきません。
でも、ピアスは小さいデザインだから目立ちませんし、十数メートル離れた人まで驚くのは明らかにおかしいです。
「あ、アンズさん、おはようございます!」
いつもと反応が異なる人がいる理由について考えていたらニックさんに後ろから声をかけられました。どうやらニックさんも出勤中のようです。
「おはよう」
うん、ニックさんはいつも通りの反応ですよね。
と思っていたら………
「アンズさん、クラム長官と付き合い始めたんすね。あの鬼上司がどうなるのかとハラハラしてたので俺も安心しましたよ」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「え?」
「えっ!?」
私と総長が付き合い始めた?いつから?
そりゃ総長から惚れてると言われましたし、キ、キスなんかもしましたが、「付き合おう」的なことは言われてないですよね。それって付き合っている事には入らないのでは?
いや、でも大人なお付き合いはそう言った言葉はいらずにキスしたらもう付き合ってる認定でいいのでしょうか。いやでもそれだと「一度キスしただけで彼女面しやがって重たい女だぜ」的な事になりませんか!?
私が悶々としていると
「えっと、アンズさんのそのピアスって長官からですよね?」
「うん、そうだけど………なんで長官からって分かるの?」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「え?」
「えっ!?」
なんなんでしょうか。普通ピアス見ただけで誰からの贈り物とか分からないですよね。それともこの世界では贈り物には何かしら特徴があって誰から誰にプレゼントしたか分かるようになってるんですか!?
「………あ、そうか。アンズさん、魔法使えなかったすね。えーと、魔法は自分自身の魔力を使って発動させるもんなんすけど、人それぞれ魔力の色というかイメージみたいなのが違ってですね。俺からしたらクラム長官は重くてひたすら真っ黒なイメージなんすけど………」
そこで、ふいにニックさんが言葉を切りました。
何かこの先を言いにくそうにしていますが、どうしたのでしょうか?
「………出てるんすよ………ピアスから………」
え?何が出てるんですか?
出ると聞いて嫌な物といえば、日本の台所でよく見かけた黒光りするアレが真っ先に思い浮かぶんですけど!?え?アレが出てるんですか!?そんなの嫌すぎます!
「しかも………アンズさんの周りを囲ってるんです」
ひえぇ!なんですか、それ!黒光りするアレに周りを囲まれるなんて地獄じゃないですか。今すぐやめて欲しいのですが!?
「クラム長官のドス黒い魔力が!!」
あ、なんだ、魔力でしたか。
………って、ドス黒い魔力が私の周りを囲ってるのも普通に怖いですよ!
なんの心霊現象ですか、それ!?どうりで時々すれ違う人が怯えるワケですよ。怖すぎます!
私が青ざめていると、ニックさんが慌てて両手を横に降りました。
「あ、でもですね!魔力が見えるのは魔力感知使える一部の人だけですので。一般人にはただのピアスですし、その魔力でアンズさんに悪影響があるワケじゃないので気にしなくていいっすよ」
え?そうなんですか?というか、そんなに軽い反応でいいんですか?私の周りに総長の魔力が漂っているのはけっこう大事なのでは?それともやっぱりこちらの世界では、こういう事は気にしないでいい範囲なのでしょうか?
「聞きたいんだけど」
「はい、なんすか?」
「魔力感知できる人が長官を見たら、いつも周りに長官の魔力が見えるの?」
「そんな事ないっすよ。クラム長官、魔力操作うまいし、普段は魔力を完全に見えないように調整しているというか隠してますね」
「そうなんだ。物体に魔力を込める場合は隠せないの?」
「あー、物体に込める場合は調整がさらに難しくなりますね(長官は普通にできるけど)。それにアクセサリー関係に魔力込めて人に贈る場合は魔力隠さない場合が多いですね。………そっちの方が虫除けになるんで」
ん?最後の方がよく聞こえませんでしたが………つまりこの世界ではアクセサリーから他の人の魔力が出ていても割と普通って事ですよね。
「逆に聞きたいんすけど、アンズさんはクラム長官からピアスについて何か聞いてないんすか?」
「えっと、そう言えば………ピアスに自分の魔力を込めていて、いざという時に私を守ってくれるって言ってたかな」
「あー、そうでね。確かに(虫除け的な意味でも)アンズさんを守ってくれますね」
そっか。やっぱり総長は私の身の安全を心配してこのピアスを作ってくれたんですね。ピアスから何か出ていると聞いて、思わず気持ち悪い黒光りするアイツや恐ろしい心霊現象を思い浮かべてしまいましたが。そん事なかったですね。誤解してすみません、総長。
「・・・(クラム長官、絶対にワザと魔力が溢れ出るように調整してるな。魔力感知できる人ならこれだけ強い魔力でマーキングされた女性に手を出す勇気なんて出ないっつーの)・・・」
ん?その割にはニックさんの視線が妙に呆れているような………。
いやむしろ深く同情しているような複雑な表情なのですが。
「・・・(アンズさん、この様子だと自分に虫除け用の首輪的な物が嵌められてるって気づいて無いんだろうなぁ。長官もエゲツない事するなぁ)・・・」
しかも時々こちらを可哀想な物でも見るかのように………。
なんなら今から売られていく子牛でも見るような目で見てくるのですが。
なんなんですか、その反応!
「・・・(でも、長官。アンズさんが働き出してから丸くなったしな。前はもっとギスギスして苛烈だったからなぁ。あの頃の地獄に戻るのは嫌だ。というワケで、スミマセン、アンズさん。俺らのためにも長官ストッパー用の生贄になってください!)・・・」
と思ったら、なぜかニックさんが目頭を押さえて遠くを見始め。
ついには私に対して両手を合わせて拝み始めました。
ニックさん、ついに頭でもおかしくなったんですかね?
「………と、そういえば俺、長官から言われた急ぎの書類があったんでした。アンズさん、また後で!」
そして最後には爽やかに笑って走って行っちゃいました。
もう、なんなんですかね!?
ニック 「すみません、アンズさん!俺、長官には逆らえないというか、長官の味方なんで!」




