じゃあな、ちゃんと鍵閉めろよ
「今日は付き合ってくれてありがとな」
「いえ、こちらこそアクセサリーありがとうございます。しかも家まで送ってもらって」
「もう遅ぇしな。家まで送るのは当然だ」
迷子のナナリーちゃんですが、あの後ナナリーちゃんを探していたママと出会い、無事に家族の元に返すことができました。
そして現在、私は総長から自宅まで送ってもらっている最中なのですが。
私のアパートの部屋まで、もう数メートル。
なんとなく部屋に着くのが嫌で。総長と繋いだ手を離すのが嫌で。少しずつ歩くのがゆっくりになってしまいます。
「ほら、着いたぞ」
「はい」
いくらゆっくり歩いても必ず家には着き、繋いだ手も離さないといけないワケで。ずっと手を繋いだままなんてできるはずもないワケで。
総長の体温を名残惜しく思いながらも、絡まれていた指をゆっくりと離します。
一生の別れでもあるまいし、明日また普通に職場で会えるのに。どうしてこう別れ難いと思ってしまうのでしょうね。心なしか総長も別れを惜しんでいるように見えます。
ですが、いつまでもこのままでいるわけにもいきません。私がいつまでもぐずっていると、その分総長の帰りが遅くなってしまいますからね。
心を決めてアパートの古いドアを開け。
数歩進んで中に入り、くるりと振り返ってから。
「本当に今日はありがとうございました」
「あぁ」
できるだけ笑顔でお礼を伝えました。
ちゃんと笑えているか自信がないですが、そこは深く追求しない事にします。
「それじゃぁ、また明日」
「あぁ」
よし、お別れも言いました。
ペコリと頭を下げてから、開けたままだったドアを閉めようとしたのですが、
「ちょっと待て」
突然ドアの間に靴を挟まれてしまいました。
え、どうしたんですか、総長!?今のけっこう痛くなかったですか!?
ビックリして固まっていると、閉めようとしたドアが開かれて。
総長も玄関の中に入ってきて。
「悪りぃ、忘れもんだ」
「え?」
忘れ物って何を忘れたんですか?
なんて事を悠長に思っていたら、腕を力強い総長の手で引かれてしまい。
「きゃ、何するんですか、長官!?」
バランスを崩して転んでしまいそうになったのですが。
私が地面にぶつかるなんて事はなく。
気がづけば、引き締まった総長の身体で正面からしっかりと抱きしめられていました。
「ち、長官!?」
「いいから黙ってろ」
黙ってろって、そんな横暴な。どこの俺様ですか。
あと、この状況は大変まずい気がするのですが。
わずかに身じろぎ、細やかな抵抗をした私ですが。
私の抵抗なんて許さないとばかりに、腰と背中に回された腕にぐっと力を込められ、先ほどよりもさらにきつく抱きしめられてしまいました。
グググと腕を伸ばそうとしても総長はびくともせず。
当然ながら、総長の腕の中から逃げる事ができません。
なんて事をするんですか。これでは全く動けません。
あぁ、でも………
総長と私の胸がぴったりとくっつき。
私のドキドキと大きく震える心臓の音が総長に伝わってしまいそうな程2人の距離が近くて。
同じように私の胸に総長の力強い鼓動が伝わってきてしまう程ぴったりと合わさっていて。
なんだかとても気持ちがいいです。
どのくらいそうしていたのでしょうか。
おそらく1分も経っていないと思うのですが、まるで何十分も前からずっとこうして抱き合っていたような。
このまま合わさった部分から溶け合って1つになってしまいそうな。
そんな甘い錯覚に酔いながら、しばらく無言で互いの温もりを分け合い。
ようやく身体を離した後。
総長が右手をそっと私の頬に当て。
耳のピアスを確認するように、親指で耳たぶに触れてから。
今度は左手で私の右手を取ったかと思うと、私の右手を総長の左頬に当てました。
お互いの頬に手を当てた状態で、見つめ合い
「嫌だったらビンタしな」
低いバリトンボイスでそんな事を囁かれ。
この場でビンタできる女性がどれだけいるでしょうか。
なんの抵抗もできない私に、鋭い目を細めた総長が猛烈な悪魔のような笑みを浮かべ。
――――噛み付くように唇を重ねられました。
わわっ、私、総長とキスしてる。こんな時、目は瞑るものなのでしょうか。
あっ、でも、総長も目を開けてますね………って、すごいこっちを見てますけど!?
何をどうしたらいいのかわからずに真っ赤な顔であわあわしてると。
総長が唇を離して、それはそれは愉快そうに口角を上げました。
「ビンタしねぇの?」
クククと黒い笑みを浮かべながら、
総長の左頬に当てていた私の右手をそっと離したかと思うと、そのまま横を向き、まるで見せつけるかのように手のひらにキスをされ。
かーーっと顔面に血が集まり、赤かった顔がますます赤くなります。
「長官はイジワルです」
私が小さい声で拗ねたように呟けば、クククと楽しそうに笑った総長が今度は先ほどよりも深いキスをしてきて。
唇を割って侵入してきた厚い舌に口内をいいように貪られ、息をする間も無く吐息さえも奪われて。
それなのに脳内が甘い痺れでくらくらし。
このままだと窒息してしまうんじゃないかという時に、ようやく満足したらしい総長から解放されたのですが。
こういった経験がほとんどなかった私には、もうこれだけで息絶え絶えです。
ふわふわとした足腰には全く力が入らずに、立ち続けることなんてとてもじゃないですができず。
そのままずるずると腰を落として玄関にペタリと座り込んでしまいました。
『本当はこのまま続きをしてぇところだが………今日はここまでだな』
そんな総長の心の声にも反応を返す余裕も少しも残されておらず、
「じゃあな、ちゃんと鍵閉めろよ」
総長が外に出て、そっと閉めたドアをしばらく呆けたまま見続けたのでした。
デート編、終了です!




