オジサン、顔は怖いけどいい人だね!
「オジサン、顔は怖いけどいい人だね!」
「俺はまだ32歳だ。オジサンじゃねぇ」
「長官、ナナリーちゃんは5歳です。5歳児からしたら32歳はもうオジサンなのかもしれません」
「ほら、お姉さんもオジサンって言ってるよ」
「なんで俺はオジサンでアンズはお姉さんなんだよ」
「私は29歳でギリギリ20代ですので」
「納得いかねぇ」
イケ爺様のお店で総長からピアスを頂いた後、
「長官、黒猫ちゃんの首輪をまだ選んでませんよ!」
「あぁ?てきとーでいいだろ」
「ダメです!黒猫ちゃんに合う首輪をちゃんと選びましょう!」
的なやりとりを行い、無事に黒猫ちゃん用の首輪も購入しまして。
その後、2人でぶらぶらしていたところ。
人通りの多い市場で「迷子のナナリーちゃん5歳」を見つけ、現在保護しているところです。
街の衛兵さん(お巡りさん的なもの)に預ける事も考えたのですが、ナナリーちゃんはこの市場でお母さんとはぐれたらしく。もしかしたらお母さんもこの辺でナナリーちゃんを探しているかもしれません。なので、しばらく市場で一緒に待ってみる事にしました。
ちなみに現在「高い方が遠くからでも見えやすいだろ」との総長の案で、ナナリーちゃんは総長に肩車されています。
始めは総長を怖がっていたナナリーちゃんでしたが、もうすっかり総長になれきっていますね。子供は順応力が高いです。
「ねぇ、ねぇ、オジサンとお姉さんってどんな関係?もしかして付き合ってるの?」
ナナリーちゃん、なんて質問をするんですか?最近の幼児はませてますね!
「あぁ?まだ付き合ってねぇが、もうすぐ付き合う予定だ」
そして総長。子供相手に真面目(?)に返答しないでください。そしてそれ私の前で答える内容じゃないですよね?なんで自信満々に付き合うの確定的な回答になってるんですか。
「だったら、オジサンはお姉さんが好きってこと?」
「そうだ」
「なら、キスはもうしたの?ママがね、好きな人にはキスするって言ってたよ!」
ナナリーちゃんのお母さん、子供になんて事を!いえ、ナナリーちゃんのキスはきっと深い意味ではなく挨拶のキスなのでしょうが、それでもその質問はちょっと危険なような。
「キスもまだしてねぇが、もうすぐする予定だ」
総長、私達もうすぐキスする予定なんですかっ!?
というか、子供相手にそんな事言わないでくださいよっ!!
………いえ、落ち着きましょう、私。きっとこのキスは挨拶のキス。友好と親睦のキスであり、深い意味はありません。ええ、それ以上の意味はありませんとも。
そもそも総長は平然としているじゃないですか。きっと大人からしたらキスの話題は慌てる内容ではないのでしょう。私だってアラサーでいい大人なのですから、キスの話題の1つや2つで狼狽える必要はないはずです。ここは大人女子らしく凛とした態度を貫きましょう!
「ママはね、ナナリーのおでことかほっぺにキスしてくれるよ!」
「そうか、ママはお前の事が好きなんだな」
「うん、ナナリーもママのことが大好きなの」
ほら、いくらキスの話題といっても、よく聞くと微笑ましい話題じゃないですか。
いちいち反応していた私の方が恥ずかしいですね。
よし、このまま平静を保って………
「でね、オジサンはお姉さんのどこにキスするの?」
って、ナナリーちゃん、なんて事を総長に聞いてるんですかーっ!?
もうキスの話題で狼狽える情けない女でいいので、お願いですからキスの話題はやめませんか?どんな顔して2人の会話を聞けばいいのかわからないのですが。
というか総長はなぜいつも通りの顔で幼女とキスの話ができるんですか?
「そうだな、キスしたい場所はイロイロあるが………」
って、総長。途中で言葉を止めないでください。なんで私を見るんですか。
そしてキスする場所ってそんなにたくさんないですよね?迷うことありますか?
ヤメてください。私の足元から頭まで舐めるように見てくるのはヤメてください!
『・・・・・・・・・・』
眉間にシワを寄せて無言で私を見続けるのやめてください。絶対頭の中で変な想像してますよね?
総長が険しい顔して無言な時はイヤらしいこと考えてる時だって私もう気付いてますからね!?
「………1番は口だろうな」
総長が明らかに私の唇を見ながら答えました。口の端がニヤリと持ち上がり獲物を狙う猛禽類のようでもあり。普段は怖いだけの顔から、言いようのない色気が滲み出ていて。
総長、それ子供の前で見せちゃダメな顔です!昼間からなんて顔してるんですか。もういっそ顔全体にモザイクかけてください。いえ、もう存在そのものにモザイクかけてください!
「そっか。ママがね、口へのキスはトクベツな人だけって言ってたよ。オジサンはお姉さんがトクベツなんだね」
「あぁ、そうだな」
「ねぇ、オジサンはもうすぐお姉さんとキスするんでしょ?」
「あぁ、そうだな」
「もうすぐっていつ?」
!?!?!?!?!
ナナリーちゃん、いつまでこの話題続けるつもりなんですか!?
本当にもうそろそろやめにしませんか?私の顔から凄い勢いで火が噴き出そうなのですが。
「あぁ、それはな………悪りぃな、ナナリー。アンズが真っ赤だからもう質問は終わりだ。代わりに好きなアイス買ってやるよ」
「本当?やったー!」
良かった。ナナリーちゃんの興味は完全にアイスに逸れたようです。
それにしても最近の5歳児はませているというか、スゴイですね。まぁ、ナナリーちゃんも女の子ですしね。女の子は何歳でも恋バナが好きなものなのでしょう。
というか、総長、さっき私の方を見てクククと笑っていましたよね?さては今までのやり取りで私の事からかってましたね?私をオモチャにして遊ぶのやめてくださいよ!
さて、今、ナナリーちゃんは総長に肩車されたままで近くのアイスクリーム屋さんでアイスを選んでいます。どうやらチョコ味アイスを選んだようですね。あ、総長がイチゴ味のアイスも追加で購入しています。
総長は甘いものはあまり得意じゃないので、あれはおそらく私のために買ってくれたアイスなのでしょう。総長ってこういった気遣いがスマートですよね。しかも何気に子供の扱いも上手いです。
総長がナナリーちゃんを肩車に乗せたまま、イチゴアイスを持って私の方に歩いてきて。
あぁ、この光景いいなぁ。
なんだか本当の親子みたいですね。総長との子供だったらきっと可愛いんだろうなぁ。
って、私ったら何を考えているんでしょう。総長と私はまだ付き合ってもいないのに。いくらなんでも妄想が飛躍しすぎですね、恥ずかしい。
「ほらよ、イチゴ味でよかったか?」
「ありがとうございます。イチゴ味好きです」
総長に渡されたアイスを受け取り、食べていると
『なんか、こーゆーのもいいな。家族みてぇだ』
総長のそんな心の声が聞こえてきて。
同じ事を考えているだと思うと、なんだか嬉しくなっちゃいますね。
『アンズとの子供なら可愛いんだろうな………ってまだ付き合ってもねぇのに気が早いか』
ふふふ、こんなところまで同じですね。
ここまで同じ事を考えているとなると、面白くなってきます。
同じ風景を見て。
同じように感じて。
同じように笑い合って。
総長といつかそんな風に過ごせたら………
『いや、待てよ。いっそ先に既成事実を作っちまう手も………』
総長、アイス投げつけていいですか?
総長 「アンズ、なんだその手は!?何をする気だ!?」
アンズ「なんか急にアイスを投げたい気持ちになりまして」
総長 「???」
*アイスはちゃんと食べました




