目がぁっ、目がぁぁぁああーっ!
総長に抱きついて泣きじゃくった後、残っていたご飯を食べて夜月亭を後にした私たちですが。チェイソンさんとマーサさんに大変生温かい目で見送られ居た堪れないったらありませんでした。
きっとあれは抱きついてたところ見られてます。下手したら泣いているところも見られてます。恥ずかしすぎます。
ちなみに総長はニマニマしたチェイソンさんとマーサさんに対しても、いつも通りの悪人顔でしれっとした態度というか、平然としていました。ある意味ポーカーフェイスです。こういう時って普通、身内に見られた総長の方が照れるものじゃないでしょうか。総長の心臓は鋼でできているに違いありません。
さて、月夜亭を出た私たちは本来の目的である黒猫ちゃん用の首輪を買うためにペットショップに向かったのですが………
「長官、本当にここに入るんですか?」
「あぁ」
目の前には洗礼されたデザインの白を基調とした重厚感のある扉。どう見ても庶民ではなく貴族が利用してそうな雰囲気です。そもそも場所からして普段は平民が通らない高級通りなのですが。
というか、このお店本当にペットショップですか!?
「でも、わたし普通の格好ですよ?こういったお店ってドレスコードとかあるのでは?」
「あぁ?問題ねぇよ」
「いや、でもですね」
「つべこべ言ってねぇで、入るぞ」
あぁ、言いながら総長が高級扉を押してしまいました。総長が扉を開けたポーズで止まっているのはアレですよね。エスコートですよね。一瞬後ろを向いて逃げようかと思いましたが、総長をこのポーズのまま放置しておけません。私も勇気を出して総長と一緒にお店の中に入ると………
「いらっしゃいませ」
出迎えてくれたのはロマンスグレーな白髪とモノクルメガネが特徴な紳士な店員さんでした。私と総長を見ても顔色変えず笑顔でお辞儀をしています。さすがプロですね。イケてるお爺さま。略してイケ爺様とお呼びしたいです。
ちなみに本当にペットショップか怪しかったお店ですが、隅のスペースの方にペット用らしき首輪がいくつか置かれていました。どう見ても貴族の愛玩用オシャレ首輪ですが、ひとまずペット物も取り扱っているようで少し安心しました。
が、お店の中央にはガラス製のショーケースが並べられ、そちらには指輪やネックレスといったキラキラとしたアクセサリーが飾られていて。同じくキラキラした綺麗なお姉さんがキラキラした貴族らしきお客さん相手に接客をしています。
全体的にキラキラしすぎて眩しいです。「目がぁっ、目がぁぁぁああーっ!」とか言いながら目を覆いたくなります(いえ、そんな奇行はしませんが)。というか、完全に私たち場違いですよね!?
あまりの煌びやかさにガクガクしていた私ですが………
「これはクロム様。ようこそおいでくださいました」
ロマンスグレーなイケ爺様が総長に話しかけました。
名前を知られているという事は総長はこのキラキラで眩しいお店に来た事があるのでしょうか。
「邪魔するぜ、店主。この前頼んだ品はできてるか?」
あら、店員さんかとも思ったイケ爺様は店主さんでしたか。
そして、あ、なるほど。先にもう黒猫ちゃんの首輪を注文していたのですね。こんなキラキラしたお店で首輪を購入するなんて、案外黒猫ちゃんの事を可愛がってるですね、総長。
でも、既に首輪を選んでいるなら私が一緒に来る意味がなかったのでは?
「はい、後は宝飾を選ぶだけです」
「今見る事はできるか?」
「もちろんでございます。もしやお隣のお若いレディが………」
あ、なるほど、なるほど。
首輪の素材等は選び終えてて、飾り部分だけを私に選んでほしい、と。そういう事ですね。
それからイケ爺様。私はアラサーです。お若いレディには入りません。
どうも日本人顔だと幼く見えるらしく、年齡を低く間違われる事が多いのですが。訂正するのも面倒なのでそのままでいきましょう。それにこんなイケ爺様にお若いレディと言われるのもちょっとレアですしね。
「そうだが、余計な事言うんじゃねぇよ」
「それは失礼しました。宝飾は二階にご用意しますので、こちらに」
***
イケ爺様に案内され、2階個室のソファーに総長と一緒に並んで座っている私ですが。ソファーの質が良すぎて座るのに緊張します。これは絶対に本革ですよね。こちらの世界の革なので、もしかしたら魔物の革なのかもしれませんが、おそらく、きっと、絶対に、お高い革です。
ちなみに総長はいつも通り平常運転です。背にもたれ掛かって足を組んで座っています。なんかその座り方といい、本革ソファーといい、どっかのマフィアのボスみたいですね。今から闇取引でも行われそうな雰囲気です。いきなり銃撃戦が始まらないですよね?(注 アンズの偏ったマフィアイメージ)
総長とマフィアについて思いを馳せていると、綺麗なお姉さんが長方形の薄いケースを持ってきてくれました。中に白い粉とか入っていたらどうしましょう。
アヤシイ物が入っているのではないかと思ったケースですが、中身はなんと様々なデザインの装飾品でした(いえ、最初からイケ爺様がそんな風に言っていたのですが)。花をモチーフにしたものや、雪の結晶のようなもの、月や星をイメージできるもの。それはいい。はい、それはいいのですが。問題が1つ発生しました。ずばり………
宝飾品の全てに見るからに高級そうな宝石が埋め込まれていてキラキラ輝いているのです!
コレ、絶対にお高いヤツですよね。かなり質が高い宝石ですよね。眩しい。キラキラが眩しい!もうおかしいと思われてもいいから「目がぁっ、目がぁぁぁああーっ!」とか言いたい気分なのですが。いっそ今すぐ家に帰りたい気分なのですが。
「アンズ、好きなの選べ」
ちょっと待ってください、総長。
コレ、本当にペット用の装飾品でしょうか?それにしては高級すぎませんか?いえ、ここは異世界ですし、このお店は貴族用。そして総長は元貴族。でしたらペットにお高い首輪を購入する事もあるかもしれません。でも、あの総長が、黒猫ちゃんにここまでしますかね!?
ここは選ぶ前にハッキリとさせておいた方が良さそうな気がします。私のノミの心臓のためにも使い道をハッキリさせておくべきです。
「この中からですか?」
「なんだ、気にいる物が無かったのか?」
「いえ、そういうワケではなく。あの長官、これ………黒猫ちゃんの首輪用ですよね?」
意を決して総長に尋ねると、総長が私をじっと見たまま動きを止めました。
『・・・・・・・・』
ちょっと総長、なんで私を見続けるんですか。しかも何でこんな時だけ心の声まで止めちゃうですか。これでは本当は何用の装飾品なのか分からないじゃないですか。
私を見つめたまま、総長がこちらに手を伸ばしてきます。
私の顔の横で一瞬頬に手を振れ、それから私の純日本人的な黒髪を一房そっと優しく握り。
「あぁ、………確かに黒猫だな」
口の端を持ち上げながら、そんな事をのたまいました。
総長それどういう意味ですか!?!?!?
かーーっと顔に熱が集まります。ちょっと総長、しかもいつまで私の髪を触れているんですか。優しく目を細めないでください。総長の目の周りにモザイクを掛けたくなるというか、空気が甘すぎて死んでしまいそうです!!
はっ!しかもここはお店で今はイケ爺様とキラキラした綺麗なお姉さんが接客をしてくれている最中です。思わずギギギと音が鳴りそうな動作で首を横に動かすと。イケ爺様と綺麗なお姉さんが何事も起きていないかのような営業用スマイルを浮かべながら、2人揃ってそっと窓の外を遠目で眺めていました。
プロすぎる!!
アンズ 「長官、人前で触るのはダメです」
総長 「あぁ?だったら2人の時ならいいんだな?」ニヤリ
アンズ 「!!!!」
長くなったので途中で切りました。
まだまだ続くよデート編。




