手ぇ握っとけよ。はぐれると困るだろ?
しばらくタイトルがコロコロ変わるかもですが、「変なことやってるなぁ」と生温かい目で見守って頂けたらと思います(笑)
「アンズさんと一緒に買いに行ったらどうっすか?」
ニックさんのそんな言葉から、本日のよく晴れた日曜日。
私アンズは総長と待ち合わせして、総長が飼っている黒猫ちゃんの首輪を買いに行くことになりました。
男女が休日に待ち合わせして一緒に出かける。
これって所謂デートって事でしょうか。私と総長がデート。なんでしょう、こう、心がむず痒くなるというか、嬉しいような恥ずかしいような。
決して年甲斐もなくはしゃいでいるワケではないのですが、私は今日のデートのためにワンピースを新調しました。あと、こっそりとセクシーな下着(上下セット)も買っておきました。
いえ、別にはしゃいでいませんし、セクシー下着を総長に見せる予定もありません。ええ、そんな予定はありませんとも。が、やはり大人な女性の心得としてですね。質の良い下着を身につけるのは当然のことなのです!
と、よくわからない言い訳を頭の中でしていたら、もうすぐ待ち合わせ場所に着きそうです。ちなみに今日の予定は…
1、お昼前に待ち合わせ
2、一緒にランチ
3、ペットショップで黒猫ちゃんの首輪を一緒に選んで買う
4、解散
となています。
今は待ち合わせ10分前ですが、総長はもう着いているでしょうか。ニックさんのオススメで「駅前公園広場の時計塔下」で待ち合わせたのですが………。
あ、手を繋いで幸せそうに笑い合うカップルを発見。お互いに柔らかい笑顔で見つめ合ったりなんかして、仲良さそうです。ふふふ。こういった光景って平和でいいですよね。幸せな人が多いのはいいことです。
って、あれ?あっちにも手を繋いでいるカップルがいますね。あらら、こっちにも同じくにっこりと微笑み合いながらも照れている初々しいカップルの姿が………。
私がこの世界にやってきて約半年。基本的に家の中に引きこもり、必要最低限の外出しかしてこなかったから分かりませんでしたが、も、もしかしてこの駅前公園広場は恋人同士の定番待ち合わせ場所やデートスポットというヤツではないでしょうか?
定番デートスポットで待ち合わせ。
今まで恋愛経験がほとんど無かった私にまさか異世界でそんなリア充イベントが起こるなんて。なんだか胸がくすぐったいようなドキドキワクワクしますね。枯れたアラサーとはいえ、私も女子の端くれ。こういった恋愛イベントにはドギマギするものなのです。
もしかして私も総長とあんな風に手を繋いで微笑みあったりなんかして………?
って、落ち着きましょう私。あの総長とそんな激甘なイベントが起こるワケありません。そして恋人に甘く微笑む総長を想像できません。想像しようとすると目のところにモザイクや黒い線が入ってしまいます。なんだか犯罪者みたいですね。変な想像してスミマセン、総長。
それにしても、ここまで若い男女が多いと総長とうまく会えるか心配ですね。
………と、あれ?さっきまでカップルが多かったのに、段々と少なくなってきているというか、なぜか一部分だけ極端に人が少ないような………。
ま、まさか………(ゴクリ)。
人が異様に少ない空間にそっと目をやると、そこにはドス黒い空気を纏った目つきの鋭い男性が。背景に効果音を付けるとしたら「ゴゴゴゴゴゴ」とか「ザワザワ ザワザワ」とかそんな音が似合いそうな人物の姿が!
はい、間違いなく総長です。
周りが恐れ慄きながらもヒソヒソと総長を指差しています。そうですよね、ウフフアハハと浮かれた多幸感いっぱいのピンク色カップルの中に「見るからにヤクザの若旦那的なガラの悪い人」が混じってると悪目立ちしますよね。周りもザワザワザワザワしちゃいますよね。ある意味、新手の観光スポットです。
スミマセン、総長。好奇の目に晒させてしまって、スミマセン。もっと別の場所で待ち合わせすればよかったですね。今助けに行きます!!
「長官、お待たせしました!」
慌てて駆け寄ると、総長が一瞬目を見開き、それからいつもの顰めっ面に戻りました。
ちなみに今日の総長は黒ジャケットの下に白シャツ、黒のスラックスみたいな感じです。なんとなく背中に龍がついたスカジャン的な服をイメージしていたのですが、ちょっと違いましたね。まぁ、この世界にはスカジャンは存在しないのですが。
「まだ待ち合わせ時間前だ。別に待ってねぇよ」
総長の顔は普通の人から見たら不機嫌モードで。出会ったばかりの頃なら殺されるかもと怯えたものですが。今なら声の調子から別に怒っているワケではない事がわかります。私もずいぶんと総長に詳しくなったものです。
「でしたら丁度良かったですね。では、行きましょうか」
笑顔で言うと、総長が頷き、そして右手を差し出してきました。
うん、なんでしょうか、この手?
「手ぇ握っとけよ。はぐれると困るだろ?」
な、なるほど。この手は手繋ぎのお誘いだったワケですね。
手を握るとか周りの幸せいっぱいカップルみたいで、ますます恋人同士のデートみたいですね。
過去にも私と総長は手を繋いだ事があるワケですし(私が酔っぱらったからですが)、ここで断るのも変な話ですよね。
「よ、よろしくお願いします」
若干どもりながらも総長の手を握ります。
うわぁ、総長の手って私と違って硬いですね。ペンダコ以外にも剣ダコらしきものが。総長って時々騎士団の練習に参加されてましたものね。それでできた剣ダコでしょうか。文官に分類されるはずの徴税課の長が騎士団の練習に参加するのは相変わらず謎ですが、私的に男性の筋張った手に魅力を感じるのでこれはこれでありです。というか、かなりドキドキします。
って、総長、なぜ普通の握り方ではなく、指と指を絡める恋人握りなんですか!?
その握り方は私にはハードルが高いです。しかも何気に親指で手の甲をスリスリ撫でるのヤメテください。公衆の面前でなんてことを!
いえ、別にヤマシイことをしているワケではなく、手を握っているだけですし、きっと普通の恋人同士はこのくらい普通にすることなのでしょうが。でも、恋愛経験が低い私には敷居が高いと言いますか、手の甲を擦られるだけでエロスな想像に発展してしまうと言いますか。
って、あ、そうだ!赤くなっている場合ではありません。
気になっていた事を聞きそびれていました。
「長官、私の服装おかしくないですか?こちらの世界のオシャレ基準がイマイチ分からずにですね。一応店員さんのオススメを購入したので変ではないと思うのですが」
普段職場で着ているのは支給された制服ですからね。選ばなくて良いので楽ではあるのですが、オシャレとは言い難いですし。
それに、いくら枯れたアラサーとはいえ私も女子なワケでして。気になる男性には少しでも可愛いと思ってもらいたいのです。
「普段のカッチリしたのもイイが、今日の格好も可愛いくてイイと思うぜ。………よく似合ってる」
総長が私を見つめながら言います。
いつもは険しい黒い瞳が優しそうに細められ、
『それに、俺のためにオシャレしてくれたと思うと、それだけで嬉しいしな』
心の声までなんだかいつもよりも優しく穏やかで。
その事実が私の心をほんわかと温かくしてくれます。
今日、頑張ってオシャレしてきて良かったです。
総長が嬉しいと私も嬉しい………
『ってか、今すぐ脱がせてぇ。もうデートやめてどこか近くのホテルにでも………』
………総長、身の危険を感じるのでもう帰っていいですか?
総長 『確かこの辺りに景色が綺麗なホテルが………』(←頭の中で周辺ホテルを検索中)
アンズ 『長官、絶対に行きませんよ?』(←ニッコリ笑いながら無言の圧力中)




