どう見てもヤがつく職業の方です
新連載です。よろしくお願いします(*^^*)
「ざけんな!王宮側の尻拭いをコッチにさせんじゃねぇ!いい迷惑だ!」
こんにちは、皆さん。
私はアンズ・タチバナ(立花杏)。
今流行りの「巻き込まれ召喚」というやつで、異世界にやってきたアラサーOLです。
簡単に今の状況を説明しますと…
会社へ通勤中に制服姿のピチピチ女子高生と一緒に白い空間に着いたと思ったら、自称女神様が現れ「あら、ごめーん。間違って聖女と一緒に一般人も召喚しちゃった。代わりに“あなたに好意を持っている人の心の声が聞こえるスキル”あげるから許して(テヘペロ)」と軽い感じの説明を受けた後に、この世界に召喚されまして。
ピチピチ女子高生はイケメン王族らしき人にチヤホヤされながら丁重にもてなされたのですが。枯れたアラサーの私は苦労人っぽいお役人さんに間違えて召喚してしまった事を平謝りされまして。
1ヶ月くらいは王宮の一室で監禁…ではなく様子見され、「あ、こいつ完全に巻き込まれただけの一般人で害も利益もないわ」とわかった所で「王宮で一般人を養うわけにはいかん。どこかに押し付けて働かせ、自立させよう」という流れになりまして。
そして、現在、私の押し付け先候補である、クレイ・クラム長官のところに挨拶にきたところです。
「だいたいウチは徴税課だぞ。金を取り立てる仕事を異世界の女ができるワケねぇ!」
さて、押し付け先候補のクレイ・クラム長官ですが、国のお金を扱う財務省の中でも「税金を徴収する部署」の長をされているようなのですが…
1、大の大人でも即泣きしそうな鋭い三白眼
2、形がつき固定されていそうな程寄せられた眉間
3、ワックスでビシッと固められた黒髪オールバック
4、背中に渦巻いているドス黒い空気
はい、どう見てもヤがつく職業の方です。ありがとうございます。
私を生んでくれたお母さん、お父さん、今までありがとう。そしてごめんなさい。
異世界に召喚されながらも生きていた私ですが、さすがに今回で寿命が尽きそうです。親不孝な私を許してください。
クラム長官のあまりの人相の悪さにガクガクと怯えながらも、私は彼を心の中で「総長」と呼ぶことにしました。(組長とどちらにしようか迷ったのは秘密です)。
「でも、クラム長官が預かってくれないと彼女の行き先がなくてですね」
「ウチにテメぇらの事情は関係ねぇ!」
「でも、ほら。いつも事務処理できる新しいスタッフ寄越せって言ってたじゃないですか」
「あぁ゛?」
「彼女、異世界で『経理』という仕事していたらしく、数字に強いらしいですよ」
と、そこで鬼総長が初めて私に目を向けまして。
「お前、計算はできるのか?」
「はい、計算は得意です」
「だったら、ほら。この書類やってみろ」
渡された書類は商人から提出された税の報告書ですね。日本で言うところの確定申告書みたい感じでしょうか。
この国の税率やら免税やらの詳しい内容を聞きながら、再計算を行い、商人から提出された納税報告書の間違い…つまり「脱税」を指摘しておきました。
脱税、よくない。
鬼総長は私が「正しい数字を書いた付箋」を貼り付けた書類を、しかめっ面+クマでも殺せそうな凄みのかかった目でマジマジと睨みつけた後、
「よし、採用!」
と、あっけなく私の採用を決めてしまいました。
へ?さっきあれ程、嫌がってたのにですか?もう少し粘って不採用にしてくれませんか?こんなに短時間で雇用するかどうかを決めるのはよくないと思うのです。というか、私はできたらもっと心穏やかに過ごせる場所で働きたいのです。
ちらりと横を見ると、私を連れてきた苦労人っぽいお役人さんは明らかにほっとしています。
売る気です。確実にこの極悪総長に私を売る気です。
「あ、ありがとうございます?」
嫌々ながらも就職先が決定したみたいなので職場の上司にお礼を言ってみたのですが、鬼総長は…
「これで税金を誤魔化そうとする腹黒野郎どもからたっぷり金を巻き上げられるなぁ!」
ニタァと悪魔でも召喚できそうなドス黒い笑みを浮かべています。
うん、どう見ても正義の味方じゃないです。悪巧みをしているヤクザです。
「お前、名前は?」
「アンズです。アンズ・タチバナって言います」
「歓迎するぜぇ、アンズ。ただしチンタラしてたら追い出すからな。チャキチャキ働けよ」
こうして私は異世界で強面上司の部下になり、一緒に働く事が決定したのです。
アンズ 「ドナドナされた気分です」