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「あっ、これは夢の中だ」
楓流は、声に出したつもりだったのに、音にはならずに空気の中に声は溶けていった。
俺は無意識のうちに、唯に会いたいと願った。すると、今いた場所とはちがう場所に飛ばされた。
体と意識が別々になっているようだった。意識体しか持っていないようで、どこでも好きなところに行けるようだった。
ふわっとした感覚だけになり、体が感じられなくなってきた。夢だとは思っていたのに、
ああ、このまま死ぬのかなあと漠然と考えていた。
気がつくと、我が家が見えていた。死んだら天国に行くと思っていたのに、どうすればいいんだろう。
隣の家の庭を歩いていたネコと目が合った。すると、すーっとネコの中に吸い込まれたのだ。
なんだ、これー!!
と驚いていると、ネコと同化したのだ。ネコとの同化は、抵抗なくすっと馴染んでいた。ずっと昔からここにいるような懐かしいような感じがしていた。
いや、違う。帰ってきたのだ。
そう、俺は昔、このネコとして生きたことがあったのだ。そう、前世ってやつだ。
「うにゃーん」
声を出そうとしたら、ネコの鳴き声だった。
「どうしたの?」
と頭の上から声がした。それは、唯の声だった。さっき会ったときよりも随分と幼い感じがした。
「おなか、すいた?ごはん、あげる」
頭をなでられたときに、懐かしい手だと感じた。泣きそうになる。
「おいしい?」
唯は子ネコである俺をなでながら、満足そうに笑っていた。子ネコである俺は、生まれてすぐに捨てられた。段ボールに入れられて道端に置いていかれた。まだ子ネコだったから、捨てられたということがよくわからなかった。でも、親ネコから引き離され、お腹がすいて、みーみーと泣くしかなかった。泣いたところで誰も助けてはくれなかった。
このまま、ずっとこのままなのか。と意識を手放しそうになったとき、唯が俺を見つけてくれた。
「ネコ、ネコがいる」
そのまま、唯が家に俺を持ち帰り、唯の家のネコになった。
唯の目に映る俺は耳がかじられたように欠けていた。
可愛らしい姿でないから、捨てられたのだとそのときに思った。
そんな俺でも唯は弱っていた俺にミルクをやり、甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
俺は涙が出た。
いや、ネコだから、そんな器官はないのかも。