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第85話 最後の戦い(2)

「ごめんなリエナ、最後にダメな勇者をしちゃってさ」


 俺は勇者としての責務を全うできないことを謝罪した。


「いいえ、勇者様が謝る必要はありません。私の役目は勇者様が迷われた時に神託によって道を指し示すこと。ですがその道を進むかどうかを選ぶのは、あくまで勇者様なのですから」


 だけどリエナは、まるで俺の選択がなんでもないことことだと言わんばかりに、明るい声でそんな風に言ったのだ。


「リエナ……」


「だから私は勇者様がどんな選択をしたとしても、それを全て肯定します。もちろん今この瞬間もそれは変わりません」


 そうだよな。

 リエナはずっとそうやって俺がちゃんと勇者をやれるように、母親のように優しく見守っていくれていたんだよな。


「そう言ってくれて嬉しい。今この瞬間だけでなく今までもずっと、リエナには心を軽くしてもらってきた、救われてきた。本当に感謝してる」


「ふふっ。勇者様は負けることが許されず、世界の命運を背負う勇者であることを求められ続けたんですから。全肯定してくれる母親のような存在が1人くらいいても、罰は当たりませんよ」


「リエナ、今まで本当にありがとうな」

 俺は最後にリエナにそれだけ告げると、


「偉大なる女神アテナイの加護とお導きが、御身にありますように──」


 リエナの祈りを背中に受けながら、しっかとハスミンに視線を向けて一歩、また一歩と距離を詰めていった。


「来るなって言ってるでしょ! 『魔弾ノ流星雨(メテオ・バレット)』!」


 四たび無数の魔力弾が放たれると、その全弾が直撃し、猛烈な痛みが俺を襲う。


 衝撃で跳ね飛ばされそうになるのを必死に踏ん張って(こら)えながら、それでも俺はハスミンへと向かう足を止めはしなかった。


「ごめんなハスミン、こんなに思い悩んでたのに気付いてやれなくてさ。全部俺のせいだ、本当にごめん」


「今さらそんなこと……!」


「本当に今さらだよな。でも言わないよりは、今さらでも言った方がいいって思ったんだ」


 俺は痛みを堪えながら笑顔で語りかける。


「そんな浮ついたセリフでわたしを騙そうったってそうはいかないから! そんなお為ごかしはわたしには通じないもん! 行けっ、『魔弾ノ流星雨(メテオ・バレット)』!!」


 ハスミンが俺の目の前、超至近距離で雨あられの魔力弾を放った。

 その全てがまたもや俺を直撃し、滅多打ちにする。


「ぐぅっ……! 騙すつもりなんてないさ。言ったのはただの俺の自己満足だから。ハスミンに伝わってくれたらいいなって、そう思っただけでさ……」


(くっ、やばい、身体中に痺れるような痛みがある。意識もぐらついてきた……)


 しかも今の攻撃を受けて、俺の身体をうっすらと覆っていた白銀のオーラが完全に立ち消えた。

 女神アテナイから授けられた防御加護がついに限界を超え、その機能をほとんど停止してしまったからだ。


 至近距離での数十の魔力弾による衝撃は、ダンプカーに時速100キロで連続して突っ込まれるようなものだ。

 とても防御加護無しでは耐えられはしない。


 さらにはダメージを少しずつ回復してくれる勇者スキル『リジェネレーション』も完全に停止してしまう。


 今の俺は女神アテナイから与えられた戦うための力を――勇者としての力を全て失っていた。

 今の俺はもう、ちょっと身体を鍛えているだけのただの男子高校生だった。


 でも俺は。

 それでも俺は――。


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