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第84話 最後の戦い(1)

「勇者様!? どうして()けなかったんですか!?」


「おいおいリエナ、避けれるわけねえだろ。お前に当たるし、なによりこれはハスミンの想いなんだからさ」


「ハスミンさんの想い、ですか?」


「そうだ、これは荒れ狂うハスミンの心の叫びなんだ。ハスミンがそんな風に激しく想いをぶつけてきたってのに、俺が受けとめてやらないでどうするってんだ?」


「言いたいことはなんとなく分かりますし、一見クールに見える勇者様の無駄にロマンチックなところは素敵だとは思いますが」


「……褒めてるんだよな?」


「もちろんです。ですが勇者様は高機動・高火力を武器とする先手必勝の戦闘スタイルです。女神アテナイの防御加護があるとはいえ、耐久力や防御力はそうは高くありません」


「そんなことは関係ないんだ……ああ、事ここに至ってはそんなことは関係ないんだよ」


「勇者様……?」


「そうさ、ハスミンの想いはひとつ残らず受け止めるって、俺はもうそう決めたんだからな! だからハスミン! 好きなだけ想いをぶつけてこい! 上辺だけの言葉じゃないってことを、今から俺がトコトン証明してやるからさ!」


 俺は大きな声でそう呼びかけながら、ハスミンに向かって歩き出した。


「だからそうやってキザなことばっかり言って、わたしを惑わせないでよ! 近づいてこないでよ! さっさと死んじゃえっ! 『魔弾ノ流星雨(メテオ・バレット)』!」


 再び数十の魔力弾が生まれ、俺へと向かって津波のように押し寄せる。


「ぐぅぅぅっ――!!」


 もちろん俺は今度も全て受け止めてみせた。

 足を止めたりもしない。


 しかしダメージがないわけではなかった。

 俺の身体を覆う白銀のオーラが、不安定に明滅し始める。


「勇者様! だから言わんこっちゃないんです! あんな高威力の魔力弾を3回も全弾直撃したら、いくら女神アテナイから授けられた強力な防御加護でも、耐えきれるものじゃありませんよ!」


「それでもだ! 加護が撃ち抜かれようとなんだろうと、俺はもうハスミンの思いは全部受け止めるって決めたんだ!」


「……あれはもうほとんど魔王カナンです。勇者様の想い人ではありません。私たちと顔を合わせてから急激に魔王カナンとの同一化が進んでしまったことくらい、勇者様だって分かっているはずです」


「そんなもん分かるわけないだろうが! あれはハスミンだ! 魔王カナンじゃない!」


「いいえ、勇者様はちゃんと分かっているはずです。ここで勇者様が負ければこの世界は魔王カナンによって滅ぼされます。勇者様のご友人も、クラスの皆さんも、ご両親も。みんな死んでしまうってことを、勇者様は正しく理解しているはずです」


「俺は――」


「情に厚いのは勇者様の美徳です。ですが情に溺れてはなりません。今までもそうだったではありませんか。魔王四天王の1人でありながら騎士の中の騎士と呼ばれた誇り高き魔装騎士アルリケイオンを討った時だって、勇者様は情に溺れることはありませんでした」


「……そんなこともあったな」


「今までと同じように、ここで魔王カナンを――世界の敵を倒さないといけないんです。まだ魔王カナンは完全覚醒を果たしていません。史上最強の勇者と呼ばれた勇者様なら、勇者シュウヘイ=オダなら、今ならまだ討滅することが可能なはずです」


 女神アテナイの神託を授かる神官として、勇者シュウヘイ=オダのパートナーとして。

 俺をずっと支えてくれたリエナの真摯な想いを込めた言葉が、背中越しに届けられる。


 だけど――。


「ごめんリエナ、それでも俺はハスミンを殺すことだけはできないんだ。そんなもんが勇者の選ぶ道だとは思えないし、何より俺はハスミンが好きだから。だからそれだけはできないんだ」


「勇者様……」


 俺の心情を(おもんぱか)るような悲しげなリエナの声。


 それでも俺はこれだけは譲れなかった。

 ハスミンを俺の手にかけることだけは何があってもできないから。


 好きな女の子を自分の手にかけるなんてことを、俺は絶対にできないから――


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― 新着の感想 ―
[一言] 頭の中になぜかGガン○ムの 「お前が好きだ、お前が欲しい!!!」っという恥ずかしいすぎる告白シーンを浮かぶのか...
[一言] とりあえずリエナには 「お前が言うなw」 とだけ伝えたいw
[一言] よく考えたら無双下克上とかしたっけ……?本人の脳味噌が鈍感主人公とお花畑共存してるせいでヌルゲーしてた記憶もあんまりないような……。 とりあえずアルリケイオンは第二部とかで女子剣道部部長の先…
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