第81話 1週間ぶりの再会
ハスミンの家の門の少し手前まで行ったところで、まるで俺たちの来訪を予想していたように、ガチャリと音がして玄関の扉が開いた。
家の中からハスミンが現れる。
「こんにちは修平くん」
外見上は何も変わらず、笑顔で挨拶をしてくるハスミン。
しかしその笑顔の裏に濃密な邪悪を内包していることは、もはや疑いようがない事実だった。
「よっ、ハスミン。1週間ぶりだな。長期欠席してる割には存外に元気そうじゃないか」
「まぁね」
「おいおい、中学からずっと無遅刻無欠席だって新田さんに聞いたぞ? そんな真面目なハスミンがまさかズル休みしてるのか?」
「そんなことをわざわざ言いに家まで訪ねてきたの? っていうか修平くんにわたしの家って教えたことあったっけ?」
「ハスミンのことが心配で新田さんに聞いたんだ」
「ふぅん、メイって意外とおしゃべりなんだね」
「あー、しらばっくれなくていいぞ。俺が何者なのかハスミンが分かっているように、俺もハスミンが今どうなってるのか分かってるからな。俺たちが来たのを察知して自分から出てきたのがその証拠だ」
「ふふっ、そうだね。わたしが分かってるように、当然そっちも分かっちゃうよね。勇者シュウヘイ=オダ。修平くんがまさか異世界を救った勇者だったなんて、驚きだよ」
「そっちこそ、まさかハスミンが魔王カナンの異世界同位体だったなんてな」
「なんかそうみたいなんだよね。この世界とはまったく別の異世界があってそこの魔王がわたしのもう一つの姿だなんて、なんだか不思議な感じかも?」
ハスミンがクスリと笑う。
(あの、勇者様。これどうも魔王カナンじゃなくて、ハスミンさんの意識がまだ残ってるみたいですよ?)
そんなやりとりを見て、ここまで俺の斜め後ろで話の成り行きを見守っていたリエナが、こそっと耳打ちをしてきた。
(そうみたいだな。俺もハスミンの意識が残ってるのを強く感じてる)
(ですよね)
(ただそうは言っても、かなり悪い影響を受けてるのは間違いない。何らかの心の弱みに付け込まれて、心が闇落ちしてしまった感じだ)
(推測なんですけど、魔王カナンは世界を渡った時にかなり力を消耗したんじゃないかと思うんです)
(なるほど。それでハスミンの身体を完全には乗っ取り切れなかったわけだな?)
(おそらくそうだと思います。ですが力の回復とともに、ハスミンさんの身体も魔王カナンに完全に乗っ取られることでしょう)
そんな風にリエナと小さな声でやり取りをしていたんだけど。
それを見ていたハスミンの顔が、猛烈な怒りに染まっていく。
同時に、ハスミンから猛烈な邪悪な力が爆発的に噴き出してきた――!
「そこの女! お前がいるからっ! 今すぐ死んでっ! 『魔弾ノ流星雨』!!」
ハスミンからあふれ出た膨大な邪悪な魔力が、流星雨のごとき無数の弾丸となってリエナに殺到する――!
(これは魔王カナンの遠距離技『魔弾ノ流星雨』か!)
「リエナ下がれ! 女神アテナイよ、俺に邪悪を退けし勇者の力を――『女神の祝福』!」
俺の全身をうっすらとした白銀のオーラが覆い、身体中に強大な勇者の力が駆け巡っていく。
俺を勇者たらしめる最強の勇者スキル『女神の祝福』を開放したのだ。
「ぐぅ……っ!」
俺はリエナの前に出ると勇者の力をフル開放して『魔弾ノ流星雨』を全弾受け止めた。
俺のまとった強大な聖なる光が、ハスミンの放った闇の魔弾を触れた傍から中和し、爆散させていく。
「勇者様!?」
「痛っててて……大丈夫だったかリエナ?」
しかしまぁ身体で受けているので痛いものは痛い。
それに勇者は攻撃専門で、防御はあまり得意じゃないからな。
「は、はい。ありがとうございます勇者様。ですが私のせいで全弾直撃してしまいました」
「これくらい気にするな。あとここは危険だ、少し下がっていろ──っと、これはまさか――」
喋りながら、俺はいつの間にか周囲の景色が失われ、闇一色に染まったおどろおどろしい空間にいることに気付かされていた。