第72話 リエナとラブホにインする高校生な元勇者(2)
「すみません、私もそこまでは分かりかねます。王立図書館で古文書をひも解けばなにかしらの似たような事例は出てくるのかもしれませんけど。ですが直感的にはやはり女神アテナイのお力だろうと思います」
「まぁ俺の両親も、もし5年後の成長した姿を見たらびっくりしただろうし。そう言う意味では身体が若返ってたのはすごく助かったな」
「それはそうですよね。息子がある朝いきなり5年分成長しちゃってたら、ご両親も驚かれますよね」
「しかも勇者スキルはちゃんと今まで通りに使えるし、身体はバッチリ鍛え上げられてるしでいいとこ取りだったからな。おかげで戻ってきてからは、だいぶ楽をさせてもらってるよ」
リスタートした学校生活は想像していた以上に充実している。
「そう考えると色々好都合なのはきっと、世界を救った勇者様への女神アテナイからのご褒美だったんでしょうね」
「さすがは全知全能の総合神、女神アテナイだな」
「ふふっ、無宗教と言っていた勇者様もついに女神アテナイへの信仰に目覚められましたか?」
「いやそこまではちょっと……せいぜい困ったときに神頼みする明確な先ができたかな、くらいの軽い気持ちかな」
「それは残念です」
「ごめんなリエナ」
「とんでもございません。信仰とは誰かに強制されるものではなく、自らの心によって自発的に欲するものですから」
「おっ、さすが高位神官のリエナだ。相変わらずいいこと言うじゃないか」
「ですがもし女神アテナイへの信仰に目覚めた時は気兼ねなく言ってくださいね。僭越ながら私が1からサポートさせていただきますので。あ、お試しでもオッケーですよ? 物は試しという言葉もありますし」
信仰は自発的に欲するものですから、とか言いながら最後にちゃっかり勧誘してくるリエナに、
「まぁ気が向いたらな」
俺は苦笑せざるをえなかった。
「でもほんと不思議な感じです。お別れした頃の勇者様って、言葉も立ち居振る舞いもどこをとってももうすっかり大人の男でしたから。だから今の幼い外見の勇者様を見ていると、出会った頃に戻ったみたいな気がしちゃうんです」
「最初の頃の情けない姿を見られているリエナにそんな風に言われると、ちょっと恥ずかしくなってくるな」
泣き言を言ったことも。
実際に辛くて泣いてしまったことも。
勇者という重責に圧し潰されて逃げ出そうとしたことも。
異世界で過ごした5年間の間に、リエナの前でだけは色んな弱い俺を見せてしまったから。
「ふふっ、それは一緒に戦った私だけの特権ですから。世間の誰もが称賛してやまない絶対不敗の最強勇者様の抱える人間らしい弱い一面を、私だけが特等席で見ることができたんですから。勇者様と過ごした5年間は、私のかけがえのない宝物なんです」
「そっか、うん、そう思ってくれて嬉しいよ。はぁ、ほんとリエナと話してると懐かしいなぁ。時間が巻き戻ったみたいだ」
「はい、私も懐しさでいっぱいです」
「あと俺が若返ってるのにリエナはそのままだから、俺もちょっと変な感じがしなくもないんだよな」
「前は私が3歳年上でしたけど、今は8歳も年上ですもんね。あーあ、勇者様から見たらすっかりおばさんになっちゃいました」
「なに言ってんだよ、今も昔もリエナは綺麗な年上のお姉さんだよ。全然変わってない、どころか大人の色気が増している。そこは安心してくれ」
「ほんと最初の頃と違って、そういうこともサラッと言えるようになったんですよね」
「魔王を倒す旅の過酷さと比べたら、綺麗なリエナを見たまま綺麗だって褒めることくらい朝めし前さ」
「もう、勇者様ったら……」
俺に褒められてまんざらでもなさそうにリエナが頬を染めた。
しばらくそのまま、共通の過去を懐かしむ静かな間があってから、
「久々の再開で旧交を温めるのはこれくらいにして。一体何があったんだ? どうして異世界の魔獣がこっちの世界にいたんだ? それにリエナまでいるなんて」
俺は真面目な勇者の顔になると、本題を切り出した。