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第68話 帰り道

 そんないろいろあった体育祭からの帰り道。


「今日は本当にありがとね。最後の追い込みなんてほんとすごかったもん、見ててドキドキしちゃった」


 隣を歩いていたハスミンがすっかり茜色に染まった秋の空を見上げながら言った。


「ハスミンが繋いでくれたバトンだからな、いつにも増して気合が入ってたんだ」


 本当に久しぶりに限界を超えて全力を出した気がする。


 位相次元空間とかいう特殊な亜空間に閉じ込められて、味方の支援を受けられない状態で戦った魔王カナンとの最終決戦以来じゃないだろうか。


「でもほんと速かったよね。あーあ、あそこで落とさなかったら余裕で1位だったのになぁ」


 悔しそうに言うハスミン。

 でももうその言葉には、リレー直後のような悲壮感は少しも感じられなかった。


(うんうん、もう完全に立ち直ったみたいだな)


「俺としてはそれもこれも全部込みで、すごく楽しい体育祭だったよ。ハスミンに手作り弁当も作ってもらえたし、一緒にリレーの練習もしたし。俺は今日っていう日のことを、きっと一生覚えていると思う」


「わたしもすごく楽しかった。多分今までで一番に。修平くんのおかげだね」


 そう言ったハスミンがふんわり柔らかく微笑みかけてくる。

 茜色の夕陽を受けているせいか、頬が赤く染まったハスミンは恋する乙女のようで――。


(あれ? 冷静になって考えてみると、今すごくいい雰囲気だぞ? なんていうか甘酸っぱい青春の気配がする)


 しばらくお互い無言で歩きながら、俺は心の中でとある決意を固めつつあった。


(気持ちを告げるならこんないいシチュエーションはないよな。一緒にリレーを頑張ったし、文化祭とかクラス委員で2学期を通してすごくいい関係も築いてきた。よし、今からハスミンに告白しよう!)


 思い立ったが吉日。


 陰キャ時代のようにダメだった時のことをうだうだと考えて尻込みすることもなく、俺がハスミンに好きだと告げようとした、その瞬間だった。


(なんだこの気配!? これって!? いやでもまさかこの世界でか!? そんな馬鹿な!)


 俺は突然、背筋が凍るような悪意の塊のごとき邪悪の気配を感じ取って、足を止めた。


 それは異世界『オーフェルマウス』では日常的に感じていた「ある存在」の気配で――!


「どうしたの修平くん?」

 急に立ち止まった俺を、ハスミンが振り返る。


「悪いハスミン、俺ちょっと大事な用事を思い出したんだ」


 居てもたってもいられなくなった俺は、ハスミンとの会話を強引に打ち切った。


 もう告白とかどうの考えている場合じゃなかった。

 すでに俺の頭の中は、勇者の思考へと完全に切り替わっている。


「え? あ、そうなんだ?」


 いいムードから一転、ハスミンがきょとんとした顔をした。


「ごめんな、俺すぐに行かないと行けなくてさ。だからまた明日な」

「あ、うん。バイバイ」


「バイバイ、また明日学校でな!」


 俺はハスミンと別れるや否や、気配のする方向へ向かって全速力で走り出した。

 今日は朝からとかく走ってばかりだが、そうも言ってはいられない。


(俺は戦闘専門で、遠距離での気配探知はそこまで精度が高くない。頼むから何かの間違いであってくれよ――!)


 しかし近づくにつれてまさかという思いは、間違いないという確信へと変わっていった。


「間違いない、これは――これは魔獣の気配だ! でもなんでこっちの世界に異世界『オーフェルマウス』の魔獣がいるんだ!?」

 

 俺は気配をたどって市内を流れる1級河川の大きな川沿いの堤防へと急行する。

 そして川にかかった橋の下の河川敷に、5メートルほどの巨体を誇る黒々とした狼の魔獣――キングウルフがいるのを発見した。


「あれはキングウルフか!? 中上位の魔獣がこっちの世界に居るなんて――!」


 そしてそこには魔獣だけでなくさらにもう1人、ありえない人間がいた。


 アニメに出てくるような可愛い制服のようなデザインをした、特徴的な『オーフェルマウス』の聖職者の白服を身にまとった女の子が、杖を持ってキングウルフと戦っていたのだ――!



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― 新着の感想 ―
[一言] ぶっちゃけリレーよりワープフラグがあったからいつ来るのかスゲー気になってた
[一言] あ、ついに…(以下自粛)
[一言] 女の子(20代中盤)
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