ポンコツ文学少女の非文学的恋
――失敗した失敗した失敗した!
他にも空席はいっぱいあるのに、どうしてここに座ったんだ私!
ホンノ出来心だった。
いつものように図書室で本を選んで、そしたら閲覧席に偶然住田君を見つけて。
自由席だしどこでもいいよねとか自分に言い訳しながら気づいてないフリして斜め向かいの席に座ったのが間違いだったんだ。
おかげで読書が全然捗りません!
彼の真剣な眼差しが、静かな図書室に響く衣擦れ音が、どうしても意識から離れてくれなくて。
胸の奥がきゅぅと締めつけられる。顔が熱い。
「……ん? あれ、園部じゃん。全然気づかなかった」
透きとおった声に、心臓がドクンと跳ね上がる。
視線を上げると、住田君と目が合った。
ときめいてる余裕なんかない。喉の奥が引きつって一気に汗が噴き出る。
ヤバい、どうしよう。
「あ、ああれ、住田君、わ私も気づかなかったよ」
キョドった。最悪だ何やってんだよ! 自分で自分を叱責する。
おかしいな、恋愛なら小説でたくさん予習したのに、物語みたく体が動いてくれない。見つめ合って胸キュンとか絶対無理、心臓と脇汗がヤバくてそれどころじゃない!
私いま顔どうなってる? ニヤケ顔とかキモくない? あ、てか鏡見るの忘れてた! 前髪は? 眼鏡のズレは? あああそれより汗の量が尋常じゃない! 臭いとかシミとかできてたら絶対引かれるああああ!
処理すべき情報量に思考が追いつかない。
鈍くさすぎて、自分が自分じゃないみたい。
「あ、その本」
住田君が私の本の背表紙を見て呟いた。
私も視線を追って……とっさに文庫を閉じて両手で隠した!
しまった、よりによって今日読んでたのラノベだった!
マズイ。私が隠れオタクだってバレたかも。
落ち着け私、ごまかせばまだ挽回できる。感情を押し殺せ。「これ友達から勧められただけなんだ」だ。さあ言え! 言うんだ!
「面白いよなそのシリーズ。俺も結構好きでさ」
「! わ、わわかる! 特に3巻のアレク様のセリフ超かっこいいよね! 135ページの3行目! 『殺れ。生きたければ、俺を斬り捨てろ』ってレイズに囁くシーンとかもうゾクゾク感と鳥肌がヤバくて――」
ああああああああああああああああああ!
恨むぞ私のコミュ障脳!
「……ふふっ」
あ。
笑われた。
最悪だ引かれた絶対引かれた死にたい消えたいもうおしまいだあああああ……。
「マジか、意外だったな。園部が同士とか嬉しすぎる」
「え……あ、あ……」
――感情、オーバーフロー。思考停止中。
誰か助けてください。
第2回なろうラジオ大賞 参加作品
文字数:1000文字
使用キーワード:文学少女