表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/39

8話 レッド

村から戻り手に入れた道具を一先ず、洞窟へと下ろす。



そして使用頻度が1番高くなるのはナタだろうと思い、少しばかり手入れすることにした。



河原に出てコップに水を掬ったあと、石でナタのサビを削っていく。

刃こぼれもあったが、まぁどうにかなるだろう。



とりあえず表面のサビをざっと落とし終え、1息つこうと思った時、いつの間にか狼が居なくなっていることに気付いた。



周囲を見回しても姿はなく、何処かに旅立っていってしまったのだろうかと考えていた矢先、森の方からガサガサと音がした。



それに驚くと同時に、あの狼が姿を見せたのだが、その口には額に角が生えた兎が咥えられている。



首筋をガッツリ牙が貫通している所をみると狼が仕留めたのだろう。



狼はその兎を俺の前にそっと下ろすと、お座りして、俺を見ていた。



「え?くれるのか?…………いや、ダメだ!それはお前が仕留めたんだ。お前が食いな」



そう言っても狼は鼻先でその兎を俺に差し出そうとしてくる。



「うーーーん……………やるしかないか」



幸い短剣をもらったばかりだし、捌く手順はマニュアルでなんとかなる。



なのだが…



俺はご都合主義が極まってしまうが、血や内臓、さらに肉を切り裂くといった行為がとても苦手だ。それらを平気で食べているのに…だ。



俺は死が怖い。

恐らく、その死を連想してしまうそれらが苦手なのだと思う。



グロい映画とかも見る分にはまだ平気なのだが、愛犬が死んだ時も、死後、怖くて触ってやれなかったほど、俺は最低なヤツだ。



田舎にいた時は、釣りを趣味にしていた時もあったが、魚も触れないし、捌けない。なのでイカ釣りを主にしていた。



勿論、楽しさがあったからなのだが、イカは血が出ない。



そんな俺なのだが、そんなことを言っても代わりにやってくれる人はいない。



覚悟を決めて、兎を捌くことにした。



皮を剥いだり、内臓を取り出したりと、正直何回か吐きそうになった。

手は震えてるし、足もガックガクだが、それでもなんとかやり遂げた。



兎の命を奪ったのだ。なるだけ無駄にはしないよう心掛けてはいるが、内臓系は好みとか関係なくどうやっても食べれない。

火を通したとしても、間違いなく腹を壊す。



それに狼…というか野生の動物達にとって内臓が1番のご馳走だと何かで情報を得た気がする。

なので内臓系は狼に食べてもらう事にした。



美味しそうに食べていたので、内臓系は任せよう。



馴染みのないことだった為か、兎1匹捌くのにとても時間がかかり、空はすでに真っ暗。



加えて、食欲もあまりなかったが、せっかく狼がとってきてくれたのだ。食べないのも勿体ない。



なので腹回りの美味しそうな所は狼に、俺は背中部分の肉を少し貰い、焼いて食べてみた。



前世でも兎など食べたことはなかったが、鶏肉っぽい感じで普通に美味しい。



食後、さらなる問題が浮上した。

角はともかく、皮や骨、その他の処理だ。



例えば目玉なんかはマニュアルでしらべても現時点では活用法が見い出せないので焼却するしかないのだが、皮や骨は加工することで活用法がある。しかし、ちゃんとした処理を行なっておかないと、虫が湧いたり後々大変なのだ。



当然、そんな処理をする道具がないわけで……



兎には大変申し訳ないが、角を含め全て焼却し、明日、土に埋めることにした。



色々と慣れないことをしたせいか、疲労感が限界で倒れ込むように寝床で横になった。



狼もそんな俺に寄り添うように体を丸めている。



(何か狼にもお礼しないとなぁ……)



そんな事を考えていると、いつの間にか眠りに落ちていた。



翌朝、昨夜決めた作業を行い、主食にしている木の実を採取しに行った時のことだ。



そこには狼も同行していたのだが、狼が突然、臨戦態勢に入る。



獲物を見つけたのかな…なんて考えていると、狼の毛が血のような赤色に変色したのだ。



それを見た瞬間、狼は消えたかと錯覚するほどの速度で移動し、狼を見失った俺はガサガサと音がする方に視線を向ける。



その先ですでに狼は獲物を捉え、貪っていた。



(やっぱり自分の分は自分でとって食べるんだな…)



そんな感想と共にこの狼、ルプレックスという魔物が強い種族であり、野生に生きる生き物なんだなと改めて実感した。



そんなことを考えながら狼の食事が終わるのを待っていると、口周りを真っ赤に染めた狼が駆け寄るように帰ってきた。



そして洞窟へと帰ってきたあと狼にとある提案をしてみた。



「ずっと狼なんて呼び方するのもなんか嫌だから名前勝手に決めても良いか?」



すると狼は尻尾をブンブン振り回し、俺に擦り寄ってくる。



なんでこんなに懐かれたのか謎なのだが、名前を付けることにした。



「安直だけど、レッドってどうだ?赤って意味だ」



ルプレックスという種族の狼は気持ちが昂ると体毛が変色するらしい。

この狼の場合、ホントに綺麗な赤だった。



狼は名前を気に入ってくれたのか、俺を押し倒す勢いでのしかかり、顔を舐め回された。



こうして名前は決まったが、レッドとはどれくらい一緒に居られるんだろう……



俺の方から離れる気はないが、レッド次第といったところか。でもそれを直接聞くのが怖くて、この時は聞くことが出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ