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5話 初遭遇

川はまだ凄い勢いで流れている。



「ホントに良く無事だったな俺……他の場所に転生してたら死んでたかも」



ホントにこの場所は都合が良かった。

身を隠す洞窟、豊富な食料に水。近くに人里もある。



最初はノアに腹を立ててしまったが、今では物凄く感謝している。



散歩ついでに川を遡っていると、轟音を響かせ流れる川の音に混じって違う音が聞こえてくる。



それは何かを引っ掻くようなガリガリという音。



(やば……ちょっと調子に乗って奥まで来すぎたかも)



魔物はおろか野生の動物でさえ、襲われたら俺なんてひとたまりもない。



慎重に音の出処を探ってみる。



恐らく大雨で流されてしまったのだろう。小型犬くらいの動物が川の中で丸太に噛み付き、必死に這い上がろうと藻掻いていた。



俺は助けようと近付くが、1歩間違えば俺も川に転落。そのまま流されてしまう。



慎重に川の上から木を掴んで半身を乗り出し、小犬に太い枝を差し出すが、犬も噛み付いている丸太を離すと流されてしまう為、状況は変わらない。

だが俺にはそれ以上の事が出来ない。



「このままじゃダメだ!」



覚悟を決めて、木を両足で挟み、木の枝を左右の手それぞれに持つ。

ぶら下がる要領で2本の枝で犬の脇を挟み、呼びかける。



「どっちかの枝に掴まれ!!!」



丸太を離し、瞬時に俺の差し出した枝に犬は噛み付く。

俺は噛み付いた方の枝を両手で力いっぱい引き上げた。



「はぁ、はぁ、良かったぁ……」



何とか陸まで引き上げることが出来、安心してしまったが、ここは異世界だ。

そのまま犬にガブッといかれてしまう可能性もある。

現に犬はすぐに俺から距離をとって警戒しているようだった。



(やっば………くそ怖い)



俺の後ろは川だ。

襲われたら飛び込むしかないが、実質逃げ場がないのと同じだ。



だが犬は襲いはせず立ち去ろうとしていたのだが、歩きだそうとする度にコケていた。



よく見ると片方の後足が結構な幅で裂けている。



とりあえずマニュアルを通してこの犬の状態を調べるが、名称や特徴など今はどうでもいいので、表示せず、怪我の具合だけをみてみる。



すると衰弱、全身打撲、裂傷と表示された。

裂傷も手持ちの傷薬で応急処置が可能と記されている。



「よし!」



俺はそのまま近付き手を差し出すが、前足で引っ掻くように払われる。



「っつぅ………大丈夫、何もしないから…」



そう言って再度手を出した瞬間、間違いなく噛まれると予感がした。

その予感は当たり、俺の腕にその犬は噛み付き、唸りながらブンブンと首を振る。



「あ゛ぁっ………………大丈夫だから…な?」



そう告げて優しく撫でてあげる。

すると犬もゆっくりと腕を離し、ぺろぺろと手を舐めてくれた。



「よしよし…」



その後、魔法で水を出し傷口を優しく丁寧に洗ったあと、傷薬を塗るというより、傷口を覆うように貼り付けた。



そして、犬を抱えて洞窟まで戻り、焚き火を用意して自分の傷も同様の手当てをする。



服を脱いで、濡れていないところで犬を拭いてあげていると、最初は濡れていて分からなかったが、薄灰色の毛色をしているようだ。



どれぐらい川に浸かっていたかは分からないが、衰弱もしているようだし、ご飯も用意することにした。



木の実を調理したものを更に細かく砕き、水と混ぜて与えてやると、フガフガ言いながら一瞬で平らげた。



水も魔法で出し手皿で与える。

これでようやく一段落だ。



俺も一緒に食事を済ませ寛いでいると、犬は足に付いた薬草か気になるのか、舐め取ろうとしている。



「ダメだぞ!」



手で傷口を覆いそう告げると、犬も理解してくれたようだ。



そして色々あったから疲れたのだろう。火のそばで胡座をかいている俺の太腿に背中を預け、犬も寛いでいるようだ。



そんな犬を撫でながら、改めてこの犬をマニュアルで調べてみる。



どうやらこの犬、犬ではなくルプレックスという種族の魔物で、とても知能が高い狼なんだそうだ。



個体数が物凄く少ない代わりに強靭で、感情が昂ると体内の魔力がそれに呼応し体毛の一部が鮮やかな色に変色、さらに強さが増すのだとか…



なるほど、某 戦闘民族みたいなものか…



さらに父となるオスは子作りしたのちすぐに離れ、母親も出産したその日だけしか、子供と一緒にいないらしい。

出産の際には子宮ごと産み落とすため、以降の出産は出来ないが、子宮を失った代わりにさらに魔力が増し強くなるのだとか。



そして子供も厳しい世界を生き抜くため成長が早く、半年もすれば体は成熟し、最終的には個体差はあるが軽自動車程の大きさになるらしい。



「は??いやいや、こいつ、こんなにちっこいのに……ということは、まだ生まれたてってこと??」



マニュアルには更に上位変異種と呼ばれるものも記載されており、魔力を操り、纏うことが出来るようになった個体を上位種と定めるようだ。だがこの世界では上位種の存在は確認させていないとのこと。



さらにマニュアルには続きがあり、そこには異世界ニュースと銘打ったものが記載されていた。



「異世界ニュース?……違う世界にはルプレックス上位種を3体確認しており、うち2体は人間と行動を共にしている………はぁ…凄い人間もいたもんだ……」



異世界にもこの魔物がいたことに驚いたが、そんなことよりもっと重大なことに気が付いた。



それはこの狼が生まれて半年以内の子供であり、現在、生まれてどれ程経過したかは分からないが、近くにその親である強力な魔物が居たことは間違いない。



俺が転生する以前なり、すでに何処か遠くにいっているなら良いのだが……現在地にも強力な魔物がいることはしっかり覚えておこう。

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