3話 厳しい現実
俺はひたすらにマニュアルを読んでいた。
とにかく気になったことは片っ端から検索をかける。
なにぶんその辺に生えている草が食べれるのか、毒があるのか、もっといえば目の前の川の水を飲んでも大丈夫なのか。とにかく右も左も分からないのだ。
幸い川の水は飲むことが出来るようだ。含まれている成分その物を1つ1つ検索して調べたので、体に悪影響を及ぼす物がないことは確認済みだ。
1番気になったのはこの世界にいる種族についてだ。
大まかに分けると、人間、動物、魔物、獣人、亜人となる。
獣人はなんとなく理解出来る。動物の特徴をもった人型の生物だ。
魔物は魔力を宿した"人型でない"生物を指すらしい。
そして亜人。これがかなり幅広く分類される。
例えば鳥の特徴をもった人型の種族。これは獣人ではなく亜人に分類される。
変わり種としてオオカミ男。狼の獣人も存在するが、オオカミ男は亜人となる。違いは変身するか、しないからしい。
そしてファンタジーでお馴染みの種族であるドワーフやエルフも亜人に分類される。
ノアの言う通り、この世界には様々な種類の生物がいるようだ。
そしてドラゴンも勿論存在し、そのドラゴンの中でも飛び抜けて強力な種族も存在するようだ。
まぁ関わることはないと思いたい。
さらにこの世界にはスキルと言われるものが存在する。
そしてなんと!
スキルの習得方法までマニュアルには記載されているのだ。
「やっぱりマニュアルチート過ぎるだろ…こんなのスキル片っ端から覚えたら無敵じゃねぇか……」
早速スキルの欄を見ていくと、数がかなり多いらしく、カゴテリーごとに分けられている。
その中で分かりやすく、必要そうなものを見つけ出し、習得方法を確認してみる。
―観察眼―
・習得方法
よく見る。
「……………………………はぁ?」
ま、まぁとにかく物は試しだ。
すぐ近くにあった石ころを良く見てみる。
………
……
…
確かに、表面がザラザラしてるなぁとか、変な模様があるなぁとか見て取れたけど……そりゃ良く見ればスキル使わなくても分かるだろ……
マニュアルを出す要領で自分のステータスを表示してみる。
―アベル―
・16歳・旅人(仮)
―所持スキル―
・魔法(火)Lv1
・観察眼Lv1
いやいやいや!
なんか思ってたのと違う。
すぐにマニュアルで調べてみる。
「とんだ落とし穴だこれ………いや、俺の思い込みが原因なんだけど………」
この世界でスキルとは免許証のような物なのだ。
スキルのLvが高いとそれに見合った技能が発揮されるわけではなく、その逆。
技能を身に付けることでスキルとLvで反映され、ステータスとして表示されるのだ。
つまり高レベルの無双スキルを数多く習得したければ、それに見合った努力と才能が必要になるわけだ。
これは結構厳しい……俺の異世界生活はかなり厳しくなりそうだ……
しかし、だからといってスキルが不要な訳では無い。
それは取得している技能を証明してくれるものでもあるのだ。
当然だが、先程習得した観察眼であっても、Lvが高ければその分野に関しての信用を得ることが出来る。
製造系のスキルを持っていれば腕の証明に繋がるため、重宝されるはずだ。
さらにスキルは偶然取得することが出来ないようだ。
例えば鍛治スキル。
無意味に金属を熱してカンカン叩いていても習得出来ないのだ。
学ぶ姿勢とでもいえば良いだろうか。心持ちも大切なようだ。
その後少しの間、休憩がてら目を閉じ、ぼーっとしていたのだが、急に不安が押し寄せてきた。
正直なところ、スキルの存在を知ってから、スキルで多少なりとも楽が出来ると思っていたのだ。
しかし結局は自分の努力次第。
色々とやるべき事もある。のんびりしている時間は無さそうだ。
今はスキルは捨て置いて、生きることに注力しよう。
まずは怪我をした際に治療が必要だろう。
ここは道が整備され尽くした世界ではないのだ。転んで怪我をすることなんてざらにあるだろう。
さらに毎日お風呂に入れて清潔な状態を維持できる訳でもない。
今はまだ問題にならないだろうが、清潔な状態を維持できなくなった時、怪我でもしたら例え小さな傷でも化膿して、そこから死。なんてことも考えられる。
まずは傷薬を調達しよう。
治癒魔法も存在するが、生まれつきの素質と高い魔法適正、さらには結構な量の魔力が必要なようで、異世界に生まれたての俺が使えるわけがない。
ここでもマニュアルが大活躍だ。
傷薬や解毒薬などの調合法も記載されており、素材もどの辺にあるか地図上に示してくれるのだ。
ここで更にマニュアルに関して、新たな発見があった。
なんと世界地図を網羅しているのだ。
地図はパネル上に表示され、縮小、拡大が可能。現在地も示してくれる。
まさに至れり尽くせりだ。
そして歩いて移動するには少し遠いが、比較的近い場所に人が住んでいる場所がある。
傷薬をつくって売ることも可能かもしれない。
傷薬、解毒薬の素材は共に現在地の周囲にある。
集めてマニュアルを参考に調合してみる。
………
……
道具がない!!
だから出来ません。では済まされない。良く会社の先輩が言っていた言葉だ。
なるだけ平な石と丸い石を選び、早速調合!と思ったのだが、洗わなくて良いのだろうか……
念には念を!魔法で綺麗な水を作り出せばいい!
そう思って集中し、不純物の一切ない真水をイメージしてみる。
だが、何故か途中で頭が真っ白になり、成功しない。
ここでもマニュアル。
結果、魔法発動に必要な魔力が足りない場合に起きる現象のようだ。
ならば発動出来るギリギリまで水の量を減らしやってみる。
すると手が濡れる感触のあと、俺の意識はぷっつりと途切れてしまった。