2話 始まる異世界サバイバル
なにやら顔周りがくすぐったい。
そんな感想と共に意識が覚醒していく。
ゆっくり目を開けると、背の低い草が視界に入った。
俺はどうやら、うつ伏せで寝ていたようだ。
(ん!?俺なんで外に……)
そう思って体を起こした際にいつもより何だか軽いという感覚と、自分の腕が目に入る。
なんていうか、引き締まってややハリがある気がする。
ハッ!と思い出し、体を色々調べたら全く馴染みのない体だった。それと一緒に周囲を見渡してみると、ここはどうやら深い森の中のようで、近くに水溜まりがある。
その水溜まりを恐る恐る覗き込む。
「ふはっ……くっそイケメン」
その水溜まりには35年見続けた顔ではなく、全く別のイケメンが映っていた。だが、主人公というより、その主人公の仲間であり、兄貴分のようなキャラ!みたいなイケメンだ。
そして身長も伸びており、見た目は完全に勝ち組。まったくの別人になっていた。
改めて水面に映った自分を見てみたが、少々幼さも残っている。16、7歳くらいの年齢だろうか。
だが、浮かれてばかりもいられない。もう異世界サバイバルは始まってしまったのだ。
まずは安全の確保。といっても出来ることが無い。
次に自分の身の回りを調べてみる。
服装は麻?のシャツ。長方形の大きな生地の中央に穴を開けて、そこから顔を出しているといえば分かりやすいだろうか。ちゃんと袖もある。それをベルトで留めている。下は会社の作業ズボンみたいな素材と形状。靴はショートブーツといった具合だ。
さらにベルトには小さな布袋が吊されている。他に身につけている物は無さそうだ。
(いや、そもそも異世界マニュアルの使い方は?)
改めて現状を確認すると、神様とはいえノアに少しばかり腹が立った。
森の中に丸腰で放り投げられたら、誰だって死ぬわ!そんな愚痴がついついこぼれてしまう。
とにかく頼れる物は異世界マニュアルしかない。
「異世界マニュアル…異世界マニュアル」
そう口に出すと突然目の前に、半透明の操作盤のような物が現れる。大きさはPCのモニター位だろうか。
「うっわ……マジで2次元の世界だ。これが異世界マニュアルか」
それはまさにゲームやアニメで良く見る、操作パネルの様なもので、指で直感的な操作が出来る。
色々と調べてみた結果、この異世界マニュアル、驚くことに俺の思考とリンクしているのか、対象に視点を合わせて念じると詳細が頭に流れ込んでくるのだ。
例えば木に視点を合わせて念じると、名称や、用途、一般的な物との比較した現在の状態など、色々と分かってしまうのだ。
「くっそ便利!普通にチートだろこれ」
そうは言ってみたが、結局のところ木を切る道具や、加工する道具、それらを使う特別な労力が俺には無い。
つまり現状では木を切る事は出来ないわけだ。
まぁそれはこの際割り切ろう。
もう1つ気になる物がある。ベルトに付いている布袋だ。
視点を合わせると……
―魔除の匂袋―
・最高品質
神自ら作り出した至高の逸品。悪意あるあらゆる生物を近寄らせない。また万が一の場合には魔法防壁を展開し、アベルを守る。だが自らが悪意を持って近づいた場合、効果は適応されない。
効果期間は30日
こんな感じで脳内表示されるのだが……
確実にノアによる手助けの内の1つだろう。名指しだし。だが、30日以内で何かしらの対策をしないといけないようだ。
すぐに行動を開始しないと。
少し森を歩くと、チョロチョロと水が流れる音が聞こえてきた。
その音の方に歩いていくと、河原と川があり、すぐそばには身を隠すには十分過ぎるほどの洞窟があった。
中を確認しなければいけないのだが、正直とてつもなく怖い。
中に猛獣でもいたらその瞬間終わりだ。
河原の石を拾って洞窟に投げ込み、反応がないことを確かめて、虫とかもマジで勘弁してくれ!そう心の中で叫びながら中に入ってみると、特に何事もなく広い空間があった。
「もう……マジで怖ぇよ」
とりあえず中はワンルーム程の広さがあり、安全も確保できた。入口の隣には目線より少し高い位置に覗き穴っぽい隙間もある。
外の様子を見るには完璧すぎる位置だ。
最悪、今日は飯抜きでも我慢出来る。
火をおこして、異世界マニュアルに目を通すことにしよう…そう目標を定めた。
石同士を擦り合わせて火を!なんて流石に無理なのはいくらサバイバル知識がない俺でもわかる。あれはそれ専用の石が必要だったはずなのだ。
「…っ!!早速魔法やってみるか!」
こういう時の魔法だ。
しかし魔法の使い方が分からないので、マニュアルを表示し、魔法の使い方を検索してみる。
難しいことが色々と書いてあったが、今はやり方だけ分かれば良い。読み飛ばしつつではあるが、なんとか方法を見つけた。
魔法には魔力が必要であり、イメージが大事なのだそうだ。
色々と試しながら、右手に意識を集中しつつロウソクに灯った火をイメージしてみる。
すると手のひらが温かくなるのを感じ、目を開けると、イメージ通りの火が灯っていた。
「よっし!!!………ふへへ、これで俺も魔法使いだ」
手を握るように火を一旦消して、落ち葉や枯れ枝、薪の代わりになりそうな太い木も集めて洞窟の中まで運ぶ。
入口を塞ぐことが出来そうに無かったため、入口のすぐ側に焚き火を設置したのだが、動物避けになるのだろうか…
「神様特製の匂袋もあることだし、大丈夫だよな…」
正直なところ、火を着けた瞬間、壁とかに張り付いてる虫がいたらどうしよう…と少し戸惑ったのは内緒だ。