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1話 異世界転生

 俺の名前は阿部 優(あべすぐる)

 現在35歳、童貞のエリート自宅警備員だ。



 田舎で生まれ、工業高校に進学。その後、地元の企業に新卒で入社。

 特にブラックだったわけでもなく、耐え難い不満があったわけでもないが、25の時に一念発起し都会に進出。

 まぁ、一人暮らしに憧れもあったし、ただ遊びたかったって理由が大きい。



 都会でもすぐに就職することは出来たが、もっと楽な仕事を求め、ある程度貯金が出来たことで数年で退社。



 少しくらい遊び呆けても良いだろうと、貯金を崩しながら職も探さずゲームをしたり、イベントに遠征したりと、自由を満喫していた。

 彼女も作ろうと色々と努力はしたが、如何せんイケメンではない。さらに低身長が1番のコンプレックスだ。



 とはいえ絶望はしていなかった。イベントなどに参加していれば、いずれ良縁があるだろうと淡い期待も僅かに抱いていた。



 しかし女性関係はさて置いて、好きな時間に起き、好きな事をして、好きな時間に眠る。

 そんな自堕落な生活をいつしか抜け出す事が出来なくなった。



 不摂生が続き、頭の生え際が薄くなったことで外出が嫌になってくる。

 益々家に引きこもるようになり、運動不足でみるみる腹が出てきた。



 貯金も空になり、両親に嘘をついてまで仕送りをさせて自堕落な生活を続けていた。



 流石に不味いと思い、ネットに動画を投稿してみたり、ネット小説を書いてみたりしてみたが、素人の思い付きで成功出来るほど世の中上手くできていない。



 なんとか自宅で出来る仕事を手に入れたが、その日暮らしがままならない事の方が多かった。



 余計な金は使えないと、引きこもりはさらに加速し、田舎に帰ろうかとも思ったが、余りにも情けなく、ちっぽけなプライドがそれを許さなかった。

 そして時間はあっという間に過ぎ去っていき、気付けば30代も折り返しとなっていた。



 そして死は突然訪れる。



 普段から疲れるようなこともしてないし、体を酷使するようなこともしていなかったが、体の調子が悪かったり、肩が痛かったり、足が痛かったり、急に目眩がすることもあった。



 そんな状態にも関わらず病院へは行かず、変わらず自堕落な生活をおくっていると、ある日突然、激しい目眩に襲われ、胸が苦しくなった。



 そうして俺は呆気なく死んでしまった。


 ………

 ……

 …



 はずなのだが、意識が覚醒してしまった。



 そして見知らぬ部屋に居て、椅子に座った人影が目に入った瞬間、再び寝たフリを決め込み、過去を思い返していたのだ。



(ドッキリ!?いやいやいや、俺をドッキリにかける理由もないし、そんな知り合いもいない。マジで意味が分からん…)



 そんな事を考えていたのだが、考えても状況が変わるはずも無い。意を決して体を起こし、自身の置かれた状況の把握を試みた。



 そこは床も天井も壁もない、真っ白な空間。



 そして俺からすこし離れた場所には、椅子に座った人影。それは良く見なくても女性のシルエットだった。

 その女性は椅子に座った状態で足を組み、太ももに肘を置いて掌に顎を乗せている。



「やっと起きる気になったみたいだね」



 寝たフリしていたのはバレていたようだ。再び起き上がるのを待ってくれていたのだろうか。



「えっと………俺、死んだ?と思ったんですが……」


「そうだね。君は死んだよ。間違いなくね!……まぁ先に言っとくと、異世界転生のチャンスを掴んだって所かな。やったね!」



 当然俺も漫画やアニメは好きなので、そういう題材があるのは知っている。

 しかしそんな非現実的なことが自分の身に起こるとはとても信じられない。だが、目の前の人物を見れば、無いとは言いきれなくなった。



 この女性、とても美人なのだ。まさに理想を体現したかのような美しさ。

 全てが現実離れしたその女性を見ると、異世界転生が本当にあるかも知れない…なんて思ってしまう。



 だが、その一方で全てが夢なんじゃないかと思い始めた。

 体を動かしている感触も実感もあるのだが、どうしても疑ってしまう。



「随分と混乱しているようだね。まぁ無理もないか…だけど、これは現実だよ。決して夢、幻なんかじゃない」



 これだけ分かりやすく動揺していれば、俺の心の中なんてスケスケだろう。



「……俺、ホントに異世界転生するんですか?」


「んー、勿論断っても良いよ。君じゃないといけない理由は無いからね。君を選んだのもクジ引きだし」


「く、クジ引き!?………つまりは誰でも良かったと?」


「そゆこと!定めた期間内に死んだ者の中からクジ引きをしたってわけ!転生を断るのであれば、そのままゆっくり眠らせてあげる。転生者はまたクジを引き直せば良いだけだしね」


「………あの、じゃあ、どうして転生させられるのでしょう?理由が分からないのはちょっと……」


「理由ならちゃんとあるよ。これからそれを話すね。勿論、話を聞いた後、断っても良い。おっと…自己紹介がまだだったね。私はノア。君には神って言ったら伝わるとおもうんだけど…」



 こうして俺は自称?神のノアと名乗る女性から異世界転生について色々と話を聞くことになった。



 まず世界とは無数にあるらしい。そして世界毎に背景が異なるそうだ。



 魔法がある世界もあれば、無い世界もある。俺がいた世界より文明が発達している、いわゆるSFのような世界もあるとのこと。



 そして俺が転生する予定の世界は剣と魔法、つまりファンタジーな世界らしい。だが、過酷でもあるそうで……

 しかし、それはあくまで俺が元いた世界に比べて。という意味だ。



 なんの取り柄もない俺が自堕落な生活を出来ていたのだ。そんな世界よりもぬるい場所はそうそうないだろうし、転生する意味もあるように思えない。

 だが危険度で表すならトップクラスにヤバい世界だそうだ。



「君が転生する世界は、それはもう様々な種類の生物がいる。そんな生物の中でも、飛び抜けて強い種族もいるし、個体もいる」とのことだ。



 しかし脅威度で表すなら、それほど高くないとのこと。



 その理由というのが、強力な個体が必ずしも敵であるとは限らないから。

 分かりやすく言うと、ゲームのように明確な敵というのは存在しないらしい。



 悪の王率いる軍勢と勇者一行が!なんてことはないようだ。



 そして強力な個体と友好関係を築く事も、可能性としてはあるらしい。

 ここまで話を聞いた限り、転生する理由が神様の気まぐれ、ぐらいしか思い浮かばないのだが……



「さっきも言ったけど、転生する理由はちゃんとある。それはね……世界に変化をもたらすきっかけになって欲しいんだ」



 黙って話の続きを聞くと、長らく世界の歴史は止まったままなんだそうだ。それを転生した者の力で刺激を与えて、変化を促したいとのこと。



 白の絵の具に、白の絵の具を混ぜても変化がないように、別の色…つまり別の世界の者を混ぜて刺激を与えたいらしい。



 さらに異世界転生は頻繁に行うことでもないらしく、約500年に1度の周期らしい。そして俺が転生する予定の世界では俺が初めての転生者になるそうだ。



 世界が出来て500年経過したのではなく、歴史が止まって500年経過したから異世界転生を実施したということだ。



 そう考えると凄く長い歴史がありそうな世界だ。



「世界を変えるきっかけ……こう言うと勘違いしちゃいそうだから先に言うけど、君には特別な力なんてコレっぽっちも無い!だから勘違いしちゃダメだよ?」



 ふーむ!なるほど…これでチートを授かる流れになるんだな。そう俺も思っていたんだけど……



「あ、チート能力なんてあげないから。君の体1つで頑張って!」


「…………いや、無理!!!」


「あははは……まぁそれも当然だね。さっきは力をあげないなんて言ったけど、手助けはするよ。勿論チート能力なんてものじゃなくてね」



 そういうとノアは超分厚い本を右手に出現させる。



「それは?」


「これは、君のいく世界の全て、森羅万象を記した本。異世界マニュアルといったところかな……チート能力はあげないけど、その代わりに世界の知識を君にあげるよ」



 おお!?それってなんか凄いんじゃないのか?

 そう思ったのは一瞬。すぐにその背景に気が付いた。



「つまり知識を得ても、その知識を活かす力が俺にはない…と」


「そういうこと!知識を活かす為には努力あるのみ。別の世界の話なんだけど、自分には特別な力があるって信じ込んで転生したその日に無茶をして死んじゃった子もいるからね。勘違いはしちゃダメ!」



 そう、例えば超希少な金属があったとしよう。それを採れる場所も分かる。だが、そこに辿り着く事が出来ないのだ。そして仮に辿り着いたとしても、採掘する手段もない。



 当然、市場に出回らないから希少なのであって、人の手が入り整備されている。なんてことはないだろう。

 さらに危険な地形や生物がいれば、なんの力もない一般人の俺にはどうすることもできない。



 なら、目的を変えて知識チート。現世の知識を使って1発当ててみるか?


 素材、技術、肝心の現世の知識もそれほどない。


 ………

 ……



 どうやら俺には派手なことは無理なようだ。



「例えばさっきの話みたいに俺や転生者が当日死んだらどうなります?」



 泣きのもう1回とかあるのだろうか……



「君自身に関してなら当然そこで終わり。新しい転生者もまた500年後かな」



 まぁ、当然だな。そして異世界転生はどうやら急務というわけではないようだ。

 話を聞いているとそんな印象を受けた。



「どうする?転生、やめる?」



 正直、俺なんかが行っても…そういう気持ちはかなり強い。



 しかし!



「行きます!何が出来るか分かりませんが、やってみたいです」


「そっか…酷い事を言うようだけど、君には期待してないんだ。正確には異世界転生者全般かな?だから無理に気負う必要はないんだよ?変化をもたらしたいのはその通りなんだけど、転生したとしても、それはもう君の人生だ。使命に生きる必要はない」


「それでも!お願いします」



 俺はそう言いつつ頭を下げた。



 たとえすぐに野垂れ死ぬことになったとしても、2度目の命を拾ったのだ。やるだけやってみたい!



「分かった。じゃあ転生する代償として君の名前を少し貰うね」


「えぇ!?……いや、まぁ良いか…」


「阿部優…アベ スグルか。よし!今この時より、君はアベルだ」



 ノアがそう告げると俺から淡い光と共に何かが抜けていく気がした。



「心の準備は良いね?あ、そうそう!魔法を使う素質はあるから。当然、一般人相応の素質だけどね。訓練次第では魔法を使えるよ!あと異世界マニュアルは君が扱い易いようにしてあるからね!……………じゃあ2度目の人生、楽しんでおいで」



 その言葉と共に俺は光に包まれ、急激な眠気と共に意識が薄れていった。

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