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4 暗殺

 ジャファルが過去を思い出しながら道を走っていると、暗殺対象がいる屋敷が見えてきた。現在は夜中で、黒のローブを着ているジャファルとカノンは夜の帳に溶け込んでいる。更にカノンのおかげで警備の配置場所も分かっているため、警備の穴を抜け、誰にも見つからず屋敷へと侵入することは簡単な事であった。


「そんじゃあさっさと殺って、さっさと帰るか」

「うん。帰ってからのご飯楽しみ。大盛り希望」

「……なぁ。お前本当に貴族か? 暗殺した後の食事が楽しみなんて言うやつは滅多にいないぞ」

「貴族だった。だよ? それに殺しても動かなくなるだけ。何も気にしない」


 カノンの言葉にジャファルは音を集中して聞く。


(心音の上昇は無しか。嘘をついていないようだ。……ってことはこいつ。まじで人を殺すことに何も感じてないのか。俺だって最初は嫌だったぞ)


 肉を突き刺す感触、暗殺対象の悲鳴、あふれ出る血。ジャファルは子供の頃はそれが嫌いだった。暗殺した日は復讐しに来るのではないかと食事が喉を通らなかった思い出もある。数年かけて何も感じなくなったが、最初から何も感じないと言ったカノンに精神が壊れてるのか? とさえ、思ってしまった。


「……暗殺者に向いてるな。何かあった時の護身用に覚えさせるか。今回はお前が暗殺してみろ」

「いいの? でも、武器使った事ない……」

「ちょっと待て」


 ジャファルは自らの腹に手を突っ込み、ゴソゴソと何かを探し始める。普通であれば痛いどころの話ではないが、ジャファルは平然としていた。


「【影収納】便利そう。私も覚えれない?」

「お前の適性次第だな」


 この世界【フィスト】では、誰もが魔法を使えるわけではない。魔法を発動するには2つの条件がいる。

 1つは当たり前だが、魔力があること。魔力は生まれつき量は違うが、修行することで増やすことは可能である。なので、一つ目に関しては努力次第で誰でもクリアできる。

 2つ目は適性があること。特殊なアイテムを使うことで自身の適性を知る事ができる。大半は適性無しだが、適性がある場合、火、水、土、風の4元素。闇、光、無の3属性。大体はこの7つのうちどれかに当たり、火の適性であれば火魔法を、水の適性であれば水魔法を使うことが出来る。ジャファルの影適性のような適性もあるが、それは極めて稀だ。


「影の適性ない?」

「無いだろ。俺以外この適性は見たことがない。と言うより、貴族だったのに自分の適性を知らないのか?」

「うん。適性を知るアイテムは神殿とか冒険者ギルドとかにある。けど、私は例外を除いて外に出るのを禁止されてた。外に出るとみんなが嫌がる」

「……まぁ、過去は見られたくないしな。俺もあまり見られたくないし」

「もう遅い。ジャファルの過去は全て見た。休日にーー」

「無駄話は終わりだ。これを使え」


 ジャファルは嫌な予感がして話を無理やり変え、1つの武器をカノンに手渡す。それは弓のような形をしていて、既に矢が装填されている黒色のクロスボウであった。何故か装填してある矢の隣に複数の矢が並んでいる。


「クロスボウ?」

「ああ。弓と弓床の部分はトレントの木で作ってある一般的な物だ。けど、少し細工していて、矢を撃つと自動的に装填されるようにしてある。気をつける点は矢尻には触れるな。デススパイダーから取れた致死性の毒がたっぷり塗ってあるからな」


 デススパイダーと言うのは成体で2mを超える蜘蛛型の魔物だ。その牙と糸には致死性の毒があり、当たった箇所が一瞬で緑色と変わり、全身へ広がっていく。その脅威は1匹いれば小さな村を壊滅させることが出来るほどだ。

 カノンはそんな毒矢を装填されているクロスボウをマジマジと見ていた。子供がおもちゃをもらった時のような目だ。


「ほほう。足に当てても死ぬ?」

「体のどこにでも当たれば死ぬぞ。解毒薬や解毒の魔法がない限りな」

「分かった。どんどん殺す」

「……暗殺対象だけだ。しかし、元貴族で4大公爵家の娘がこれか……」

「人の過去を見てると、盗賊とか人を殺す所を沢山見る。だから耐性ついた」


 ジャファルはその言葉を聞き、「なるほど」と呟いた。

 カノンは過去を見る魔眼がある。そして人の過去を見れば、殺すところなどどんどん出てくる。それを、何度も何度も見ているうちに耐性がつき、カノンは暗殺しろと言われても表情1つ変えなかったのだろう。


「ふーん。それはそれで苦労するな。まぁ、耐性がついているなら問題ないだろう。今回は任せる」

「お前じゃない。カノン」

「……分かった。じゃあカノン。行くぞ」

「うん」


 カノンがジャファルの背中にくっ付くと、ジャファル達は影へと沈んだ。影魔法の1つ、【影移動】である。選択した対象が影の中を自在に動くとこが出来る魔法だ。ジャファルはそれと【影操】で影を自在に操り、音を立てず凄まじい速度で移動する。

 現在は夜中で明かりも少なく見えにくいが、明るい場所から見れば、影が独りでに凄まじい勢いで動いているように見えるだろう。


「影の中って意外と涼しい」

「夏にはずっと閉じこもるのもありだ。影の中は自由に変えれるし、部屋の形にも出来る。明かりは無いけどな。まぁ、俺には関係ないが」

「凄い……これって攻撃されない?」

「普通に入ってくるぞ。そんなにうまい話はない。それに光に弱いのも欠点だ」


 影に入っている間、影が攻撃されればその攻撃は影の中に入ってくる。それに外から光を浴びせられ、影の形を無理やり変えられたりすれば、影を維持するのは難しくなる。


「それより、そろそろ着くぞ。覚悟はいいか?」

「うん。大丈夫」


 影の中は光を通さず真っ暗で普通であれば今どこにいるかも分からない。しかし、十数年もの間、盲目で暮らしていたジャファルは、察知能力、聴覚、嗅覚に関しては群を抜いている。相手がどこにいるか、何を話しているかなど調べることは朝飯前だった。


「……よし。この辺りだな。気配は3つ。護衛がいて戦闘になる可能性はあるが、それは俺がやる」

「分かった。いつでも大丈夫」


 初めての割に緊張をしていないカノンがクロスボウを握りそう言うと、ジャファルは跳んで背中にいるカノンと一緒に影から出る。

 そこにいたのは高級そうな椅子に座っている1人のデップリとした男とその横にいる2人の黒騎士。急に現れた黒色のローブと黒の仮面をつけている姿の分からない2人に、部屋にいた3人は驚くが、2人の黒騎士はすぐにデップリとした男を庇うように立ち、1人は長槍、1人は両手斧を構える。


「豚以外の2人も黒。一般人の殺人、強姦。物資の強奪。闇商人の護衛」

「分かった。暗殺対象の追加。殺すに値する屑だ」

「な!? 何者だ貴様ら!? ここがデバブの部屋と知っていての狼藉か!?」


 2人が話していると、デップリとした男ーーデバブが叫び出す。だが、ジャファル達は無視して次の行動へと移った。


「まずはお前からだ。【影狼(シャドーウルフ)】」

「な、何だ! こいつ! 新種の魔物か!?」


 ジャファルはローブから褐色の右腕を出し、騎士に手を向ける。すると、褐色の腕が一瞬で漆黒色へと変化し、黒色の靄を纏った。

 黒色の靄を纏った漆黒色の腕は急速に伸びて徐々に肥大化していき、騎士の元へと辿り着く頃には人1人なら余裕で飲み込めるほどの巨大な狼の顔に変化していた。その狼は大きく口を開け、騎士へと迫る。


「な、何だこれは!? 来るな!? 来る、ごぺ!?」


 騎士は長槍で防ごうとしたが、大きさが圧倒的に違う狼の攻撃を防げるわけが無く、狼は鎧ごと騎士の上半身を喰い千切った。

 影魔法の1つ【影狼】。普通は影から狼が出るのだが、ジャファルはとあるスキルで自分の体から狼を出すことが出来ていた。


 もう1人の黒騎士は少しの間呆然としていたが、何が起きたか理解し、顔を真っ赤にし激昂する。


「てめぇ!! 良くも弟を……モブルを殺りやがったな!! このクソ野郎がぁ!!」


 激昂した黒騎士が未だにガリゴリと上半身を喰っている影狼を横から両手斧で両断しようと振りかぶった。


「【影武器(シャドーウェポン)】」

「ぎゃあぁぁ!?」


 しかし、突然、影狼の頭から複数の槍が伸び、騎士を貫く。影狼も影から作られた魔法。そこから別の【影魔法】で攻撃することも可能だ。

 頭や胴を貫かれた黒騎士は溢れんばかりの血を流し、ピクリとも動かなくなる。

 そんな黒騎士2人を見たデバブは、テーブルを思いっきり叩いた。


「モブル!? モブン!? くそ!! 何が裏ギルドのCランクだ!! 役立たずどもが!!」


 デバブがそう言い放った後、どこからか出した金貨をテーブルの上にジャラジャラと乗せ始める。そして、慌てながらジャファルとカノンを方を向いて、口を開く。


「お、おい。儂の護衛にならんか! お前達の腕前ならこの金で雇おう! それだけではっ!?」


 滝のように汗を流しているデバブが言葉を言い終える前に、カノンは手に持っていたクロスボウを躊躇いなく撃った。とても始めての暗殺とは思えないほど躊躇いなくだ。

 致死毒の矢はデバブの右目に当たり、デバブの顔が瞬く間に緑色に変色していく。


「暗殺した」

「躊躇がなく当たり場所も良い。初めての割には上出来だ」

「ふふん。クロスボウを使っている人の過去も見たときある。真似した」

「……やっぱ、その能力は凄いな。技を盗むのか……」


 カノンは褒められたことにドヤッとする。仮面をつけているから見えないが、上機嫌なのは分かる。

 人の過去を見て、その人の技術を盗む。ジャファルはとんでもないものを報酬で貰ったなと心の中で思った。


「さて、早く脱出するぞ。護衛の断末魔で人が集まってきてる」

「うん。いつでも良いよ」


 ドタドタと部屋の外が騒がしくなってきていることをジャファルはいち早く気づき、カノンに言うとジャファルの背に抱きついた。

 ジャファルは窓を割って屋外へと移動する。そして、ジャファルとカノンは影に潜り、屋敷の中で死体を見つけたのか悲鳴が聞こえる中、夜の闇へ消え去った。

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