3 出会い 2
「何で指名手配なんてされてる? 何かやらかしたのか?」
「旦那様が反乱を企てていると人形の愚王……ゴホン。帝王は判断して、一族全員を殺せと命令したからです。残念ながら旦那様と奥様はすでに亡くなっております。お嬢様は逃げ出せましたが、手引きした私とお嬢様は指名手配となりました」
「指名手配、反乱……4大公爵家の1つ。ルーハート家か」
ジャファルの言葉にセバスは頷く。ルーハート家は帝国の貴族の中で大公には劣るが、それでもトップクラスの力を持ち、4大公爵家と呼ばれているものの1つだ。そのルーハート家が反乱を企てているとは、誰しもが思わなかった事で一時期はお祭り騒ぎだった。
ルーハート家は帝国に忠誠を誓い、帝国に様々な形で貢献してきたのは、帝国内でよく聞く話だからだ。
「反乱を企ててたのか?」
「まさか。そんなはずありません。旦那様も奥様も良い人格を持つお方で、とてもじゃありませんが反乱を企てたりしないでしょう」
「うん。セバスの言う通り。父上と母上の過去は良く見てた。反乱を企てたりしてない」
セバスに続き、少女も頷きながらそう言った。それを聞いたジャファルは音に集中する。
(心音の上昇はない。息も乱れていない。嘘はついていないな。と言うことはルーハート家の反乱は冤罪の可能性が高いか)
ジャファルは集中すれば10km先の音でも聞くことができる。スキルで強化されている点もあるが、ジャファル自身、視力が無いため、聴覚や嗅覚、気配察知の訓練をしていた。そのおかげでもあるだろう。
そんなジャファルは2人が嘘をついていないと思っていた。
「話はわかった。それで国を頼れず、冒険者も頼れないから俺のところにきたのか」
「はい。伝説の暗殺者の話は聞いておりました。どんな人物かはお嬢様自身が見れば、わかる事なので」
「はぁ。それで俺がゴミみたいな性格だったらどうするつもりだったんだ? 最悪、そっちの少女は帝国に売られ、あんたは殺されてるぞ」
「そこは賭けでしたね。ですが、どのみち私たちはあなたを頼る以外はありませんでしたので」
「危険な賭けだな」
「ええ。ですが、勝ったようです。実力もあり、心優しい貴方であればお嬢様を安心して任せられる」
「はっ。心優しい訳ないだろ。何千人殺してると思ってるんだ」
「好きな物は甘味と影狼。嫌いな物は辛いものとーー」
「勝手に俺の過去を見るな! 依頼を断るぞ!」
「受けてくれるの?」
過去を見られ、声を荒げたジャファル。無表情の少女の隣にいるセバスは笑わないように必死なのか下を向いて肩を震わせていた。
(この魔眼、本当に厄介だな。隠したい過去だけじゃ無く、相手のスキルも攻撃方法なんかも分かる。……本人に実力があれば、最強ではないか?)
ジャファルはそう思い、不満ながらも心を落ち着かせるように深く息を吸い、口を開く。
「……期間と報酬次第だ」
ジャファルはSランクの暗殺者だ。指名依頼ともなると一般人では手が出せないほど高くなるのが普通だ。
セバスはジャファルの言葉を聞くと、待っていたとばかりにすぐに答えを出した。
「それは私が答えましょう。期間はお嬢様が死ぬまで。報酬はお嬢様です」
「…………ふざけてるのか?」
「本気ですよ。お嬢様も同意してます。それにこれはジャファル殿にも良い報酬だと思いますよ? お嬢様が貰えるという事は、お嬢様の魔眼をいつでもどこでも使えます」
「いや、確かにそうだが……」
「更に、男と女の関係であれば、性欲のはけ口として使うのも良いでしょう」
「お前本当に執事か?」
ジャファルにとって、少女の魔眼は非常に有益なものだ。依頼者は嘘をつけず、報酬を減らされる事がなくなり、暗殺対象が本当に殺すべき対象なのかもすぐに分かる。他にも警備している相手から、誰が何処を警備しているのかも分かるのも良い点だ。得する事が多いだろう。デメリットとしては少女を連れて歩かなければならないという点だが、ジャファルにしてみればそれは問題なかった。
「……お前はそれで良いのか? 男の俺と一緒なら、大変な目に合う可能性もある」
「ジャファルなら問題ない」
「即答だな……しかし……」
「……はっ!? ジャファル殿はもしかして、お嬢様のような貧相な体では嫌なのですか!?」
「そういう事じゃねーよ!」
「しかし、ご安心を。今は貧相ですが! 奥様は美しく、胸が大きくてスタイルが良かったですよ。今のお嬢様は可愛くて胸は貧相ですが、奥様の血筋ならいずれお嬢様もそうなるかもしれません。……ふっ。今は貧相ですがね」
セバスは哀れみの視線を少女に向けてそう言った。少女は表情を凍らせ、セバスの方を睨みつける。
「……一年前。とある変態執事はお母様の下着を盗み、自室で隠れて嗅いでいた」
「お、お嬢様?」
「10ヶ月前、お父様が庭を歩いていると、突如上からナイフが数本降ってきた。お父様は全てを剣で防いだ後、何事だと上を見ると、とある変態執事が手を滑らせたと全力で謝っていた。小さく舌打ちをして」
「お嬢様ー?」
「半年前、とある変態執事がまたお母様の下着を盗んだ。それでーー」
「心の中を人前で読むのはやめて下さい! この通りです!」
セバスは椅子から降り、土下座をする。
少女はそれをゴミを見るような目で見下し、少しドヤ顔をしてジャファルの方を見る。
ジャファルとしては土下座している姿は見えていないが、気配で執事がどういう状態のなのか理解していた。
「どう? こうやって脅迫にも使える」
「……分かった。その依頼受けよう」
ジャファルがそういうと、セバスがガバッと起き上がり、少女と一緒に驚いた表情を浮かべる。
「本当に? 良いの?」
「良いのですか!?」
「何でそんなに驚いてるんだ? お前達がそう言ったんだろ」
「まさか受けるとは思わなかった。帝国を相手にするんだよ?」
「別に腐った帝国如きどうにでもなる。それに一度受けると言ったら、俺は達成するまでこの依頼を捨てたりはしない」
ジャファルはそう言って、さらに話を続ける。
「この依頼を受けるにあたって、これからお前は俺のものだ。俺の目としてそれなりに手伝ってもらうぞ」
「うん。分かってる」
「それなら良い。俺も全力で護衛しよう。……そういえば、お前の名前を聞いていなかったな」
「そうだね。セバスから言うなって言われてたから」
少女は一呼吸置いた後、綺麗な目でジャファルを見ながら、口を開く。
「私はカノン・ルーハート。今はただのカノン。これから宜しく。ジャファル」
ジャファルとカノンは手を取り、握手をする。
これが、盲目の暗殺者ジャファルと過去を見通す少女の出会いであった。