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観察記1 とある放課後の話

私たちは、中学生である。

よって、中高一貫校のこの学校では、私たちの最終下校時刻はもちろん高校生より早い。18時下校だ。一時間早い。まぁ、妥当な時間ではある。中学生ならばそれぐらいだろう。しかし、私は今日ほどこの一時間早い下校時刻を恨んだことは、きっと無い。



――現在時刻、17時50分。最終下校時刻10分前。


最終下校時刻が間近に迫った2年E組の教室は、数分前とは打って変わり一気に騒がしくなる。イツメン4人と、バスケ部メンツしか居なかったこの教室は、授業時みたいにうるさく、息を吹き返したみたいだ。


「早く帰ろー」

「待ってー!」

「たまごうぜぇ、部活で怒られた」

「それはお前が悪い」


意識しなくても勝手に聞こえてくる会話(ざつおん)。声のする方を見ると、実質1つしか使えない入口から、なだれ込んでくる部活終わりの生徒達。それとぶつかる様に、大きなカバンを背負った生徒達もドアから出ていく。


互いの肩と肩がぶつかり、恋が……! なんてことはさすがに無く、「帰りたいんだけど」「教室に入りたいんだけどね」とちょっとした小競り合いができていた。


うーん、またやってんのか。よく飽きないなぁ。


言い合うのは、外に出ようとする生徒の中の川原さんと、卓球のラケットを持った、部活終わりの大口。細い針で突き刺してくるような、鋭い怒気を放つ川原さん。大きな瞳から出るその怒気ビームは、正直尊敬に値する代物だ。凡人はあんなの出せん。


「あのさ、この後バレエあるの」


さらにさらに、教室中に轟いた川原さんの怒声。大口にダメージを与えるだけで無く、まさかの入り口から離れた場所に居る私達にも、それなりのダメージが。


「全体攻撃だね。それに、“痺れ”もあるよ」

「あいちゃんに50のダメージ!」

「何で私だけ……てか、意外と少ないね」

「“痺れ”でじわじわと来るさ」

「ああ、確かに」


ふざけたことを言ってるが、実際、ダメージは結構する。耳鳴りはするわ、体がジンジンするわで、川原さんはモンスターの素質、かなーりあると思う。酷いこと言ってるのは自覚してる。


私たちがこんなんになっていると言うのに、あの大口は、なんとまぁ、余裕そうな顔で微笑んでいる。顔を顰めることも無く、にこやかに佇んでいる。攻撃なんて諸共しない。鉄壁の護りだ。

川原さんが刺す様な怒りならば、大口はじわじわと侵食して行くタイプの怒りに思える。黒いもやの様な物が、アイツの周りに漂っている様に見える。


正に一触即発。入口だけで無く、教室中がこの先どうなるのかと、耳を立て、静まり返っていた。

これは良い話題を与えてくれたものだ。私は川原さんと大口に、心の中で感謝を言う。そして、緒方が教室に入ってから、顔を紅くし硬直している、私の友達の肩を叩いた。


「ねぇ、亜樹さん。亜樹さん。アレ、どっちが勝つと思う? どっちがWINNER?」


私の友達――亜樹の肩が、ビクリと震える。

ある一点だけを見つめてた瞳が、ようやくこちらを見た。魂が抜かれた様だった樹胡の瞳に、少し光が灯る。どんだけぞっこんなんだ、こいつ。


「ウィナーだけ発音良くしないで」

「そこじゃなくてさぁ」


私の質問にちょっとズレた回答。語尾が震えている。

違う、そうじゃない。そうじゃないんだ。

眉を上げて首を横に振ると、「え~」と面倒くさそうに答える。


「あ~~川原さんじゃない? 今までもそうだし。

てか、川原さんに勝てる人って、そうそう居ないよ。祟らぬ神に触りなし。変に関わるよりは、みんな上手く躱してんじゃん」

「……え? あ、おう」


何かが引っかかったが、その違和感は川原さん達に動きが見られたことで消え去った。


「……はぁ、しょうがない……。いいよ、どーぞ通って。こんなのに時間取られてたら、俺たち下校時刻過ぎるし」


なんと、大口が川原さんに道を譲ったのだ。

さすが大口。大人な対応。心の中で大きな拍手。


「ふん、あっそ。早く退けば時間取らなかったのにね」


そう、憎まれ口をたたく。川原さんは、友達の手を引き一直線に教室から出る。ふと、彼女の足が止まる。踵を返し、大口の方を向いた。


「ばーか」


そう言い残し、彼女はそそくさと帰って行った。


これはもしや……もしかして?

なんて思う自分が居る。


大口は、何故バカと言われたのか分かって無い様子だ。首を傾げ、危機が去ったことに対し長いため息を吐いた。その音を聞き、教室中に安堵のため息が零れ落ちる。


「良かった~、変なことになん無くて」

「やっぱ川原さんだね」

「そりゃぁなぁ~?」


ドヤ顔で見てくる亜樹。そんなに勝者を当てたのが嬉しいのか。今までの戦いも全て、川原さんが勝っていると言うのに。


それにしても、亜樹の緊張が解けた気がする。緒方が教室に入ってから、亜樹はやっぱり何処か緊張していた。普段より口数が少なく、いつもであれば、茶野ピにちょっかいを仕掛けると言うのに、何もしない。ずっと、取り憑かれた様に緒方を見ていた。


それが今やこうだ。いつも通り笑い、いつも通り軽口を叩く。安心した。緒方と付き合い始めてから、亜樹はぎこちなかった。初めての恋なのかどうなのかは知らないが、今の恋は、凄くドギマギしているのが見て分かる。


まぁ、面白いから別に良いんだけど。










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