魔道具
《よしよしっ、良い感じに仕上がっているみたいですね》
共和国の交流館にてテトラポット・ダージリン姫が、順調に事を犯したのを見てアイストークは近くの屋根から見ていた。そして計画が今のところ、順調に行われているため嬉しそうな声を出す。
実際、金庫頭なために彼が本当に笑顔なのかどうかは分からないけれども。
けれども順調なのは、順調。
世界をしろしめるアイストークの計略は、今のところ問題なく、順調に推移していた。
《頑張ってくださいよ、テトラポット・ダージリン姫。あなたは我々の組織が世界をしろしめすのに一番重要な部分を引き受けたのですから、その引き受けた分の役目くらいは果たしてもらわないと困るのですよ》
彼女の役割は、【王位継承権を持った者達を配下にする】。
そのために彼女には魔道具を扱うための金庫を取り付け、その中にはとっておきの魔道具を用意しておいた。
ダージリン姫がアイストークに協力するようになった経緯については詳しく話すべきではないが、簡単に言えば利害の一致である。
世界をしろしめたいアイストークと、それを利用したいダージリン姫。
その目的が一致したからこその、協力である。
もっとも、足に金庫を埋め込む覚悟を考えると、相当な覚悟を持って協力したのは確かだろう。
《仕方ないよね、あの金庫がないと魔道具は使えないんだし。
協力するのなら、利用させて欲しいのなら、それだけの覚悟を見せつけてくれないと》
ここで魔道具について、説明させていただこう。
魔道具は古代、魔法を使えない人間が使える人間を倒すために作った古代の道具、いわゆるアーティファクトなるモノである。その力ははっきり言えば強大、1つで国を作ったり、逆に滅ぼしたり、そう言った伝承が数多く伝わっている。
あるモノは、身体の大きさを自由自在に変える帽子だったり。
あるモノは、自身の空間を拡張できる本だったり。
あるモノは、どんな傷だろうと一瞬で回復できる腕輪だったり。
あるモノは、空の星を落とす王冠だったり。
あるモノは、"かける"に関する事ならなんでも出来るようになる花模様のアクセサリーだったり。
多種多様な力を持つ魔道具は、古代の人間が使うように調整されたモノであるため、現代を生きる者達には使えない。それを使えるようにするため、必要なのがあの"金庫"なのだ。
金庫の中に入っていれば魔道具が使える。手にしている者の生体エネルギー、いや生体電気を媒介として、古代の者しか使えない奇跡を再現できる。
細かい理屈なんかはどうでも良い、とにかくあの金庫こそが重要、それだけの話である。
‐‐‐‐今、テトラポット・ダージリン姫はその金庫を自らの足に埋め込んでいる。
埋め込むというのは【魔術師殺し】として操ったココアが持っていた金庫の槍とは、覚悟も威力も違う。最も、操った人間に覚悟うんぬんを求めるのは、どうかと思うのだが。
《まっ、ダージリン姫には頑張ってもらいましょうよ。
それだけの覚悟を見せ貰わないと、世界をしろしめす我らが組織に入った甲斐を見せつけてほしいよねぇ~》
と、そんな事をアイストークが思っていると‐‐‐‐2人の人間が共和国の交流館に近付いているのが見えた。
《えっ? そうなる? イヤだなぁ、本当にイヤだなぁ。今はあんた達が出しゃばるタイミングじゃないんだよ。
……仕方ない、邪魔をするならこらしめる。これって、とーーーーっても"人間的"な自然な行為、だよね?》
次の瞬間‐‐‐‐アイストークの頭の金色の金庫が淡く光り輝くと共に、彼女の姿は一瞬で消え去っていた。
☆
その頃、共和国交流館前の道路に2人の人間と1人の妖精の姿があった。そう、コビーとココア、そして妖精のカフェオレである。
ココアはあの戦いで唯一得た金庫槍ムラージュムレを手に、コビーは魔法力を高める杖を持っていた。カフェオレはと言うと、コビーがどこかに行くのでついていく、ただそれだけだと思うが。
「コビー兄様、ラムネール姉様は大丈夫でしょうか? もし仮に兄様が言っていたような、得体のしれない化け物が相手だとすれば……」
「そう、だな。けれどもその点に関しては俺は心配していない」
単純な武器の技術の面で言えばラムネールよりもココアの方が上である。
魔法の才能的な面で言えばラムネールより、コビーの方が才能はあるだろう。
けれども、それでも2人ともラムネールに勝てたことは一度もなかった。
‐‐‐‐だから、ラムネールがやられるという所は2人とも想像してなかった。
「……問題はあの金庫頭がなにを考えているのか。なにをしようとしているのか。
もしこの首脳会議でなにかしようとしたら、世界がひっくり返るぞ?」
今、この場には5つの同盟国の後継者候補が揃っている。
仮に今回の首脳会談でなにか大事が、事件なり衝突なりがあれば‐‐‐‐戦争は避けられないだろう。
戦争となれば、人が死ぬ。
数人? 数十人? いや、もっと死ぬ。
《尊い犠牲》という言葉で置き換えるのも悪くないが、少なくともそう言った言葉で誤魔化せるほどコビーは出来た人間ではなかった。
人は死んでほしくない、そう思うのはごく当たり前の感情である。
コビーはアイストークの姿を見た際、感じたもの。それが狂人の気配。
あいつは自分さえ良ければいいと思っており、戦争を引き起こす気配も感じられた。
だからこそ、取り越し苦労で終わればいいと思いつつ、こうして首脳会談の場所までやって来たのである。
「コビー兄様、交流館が見えてきました。ところで、交流館に行ってなにを?」
「なにをするかは入ってから考える。今はともかく、首脳会議が無事かどうかを確かめる。
取り越し苦労なら俺の継承権が低くなる程度で済むし、もし何かがあったら‐‐‐‐」
《‐‐‐‐その"なにか"を今、行っているのでして。なので立ち入りしてほしくないなぁ》
と、今から交流館に入ろうとしたその瞬間だった。2人の目の前に真っ白い光属性の魔法で作られた龍が生まれ、2人に襲い掛かった。
「「‐‐‐‐っ!」」
"やメて! ヤめて!”
光の龍が2人の前を通り過ぎ、そして龍が消えた後、そこには1人の人間モドキ、アイストークの姿があった。
《今、会場は大盛り上がり。もうすぐ、ですよ。
もうすぐ、世界はワレら組織の手によってしろしめされる》
顔は黄金、左肩のは漆黒、そして右腕のは白銀の色。
色は違えども3つのダイヤル式金庫を身体に埋め込んであるという、なかなかに奇抜な格好をしたアイストークは、両手に魔法を構えていた。
左手に暗黒の闇で作った龍を、右手に光り輝く光で生み出した龍を。
2匹の龍、正反対の性質の物質で生み出された龍は、アイストークの身体を自らの住処のように自由自在に動き回っていた。
《今は一番重要なタイミング、それなので残念ながらここから先は、このアイストークが君達を足止めさせていただきましょう》
「……最悪だ、これが当たってるのかよ」
頭を抱えるコビー。
「コビー兄様、私はどうしたら?」
"マすたー……"
「今、ちょっと考え事をしているから、下がっていて」
コビーは交流館にてなにかよからぬ事が起きているという最悪な未来、正解だと思ってほしくない未来が現実のものになっていると知って、ため息を吐く。
が、会場の中に自身の姉のラムネールが居ることを知って、最悪な状況ではないという事を知ってそこだけはホッとしていた。
「(まっ、姉さんなら上手くやるだろう。最悪、あの人が死ぬことはあるまい)」
《えっ? そうなる? なんで、ホッとしてるの? 状況分かってる?
今、ワレらは世界をしろしめすため、この交流館にて事件を起こしている。それが分かっているのに、何故ホッとしていられる? それは、人間的ではない反応です》
「しろしめす……統治する、だっけか? そんな事、可能なのか?」
アイストークが何を言っているという感じだが、コビーは最初からその部分について懐疑的だった。
「世界を統治する、それって夢物語みたいなものだろ?
全世界統一を果たそうとも、それはただ一時の夢。十人十色、千差万別……人間だけでもそんなに多種多様な感情にあふれているのに、それを1つに統一しようという考えが理解できないんだけど?」
《確かにねぇ。常人ならそこまでが限界だ。
世界をしろしめすなんて、絵空事、普通だったら出来るはずもないじゃないですか》
あっさりと、アイストークは世界統一を否定した。
出来ないと、否定した。
‐‐‐‐普通、だったら。
《‐‐‐‐【根の生えた友達】。今、交流館の中で力を振るっている、世界をしろしめす我らが組織の友人に与えた魔道具の名前ですよ。その魔道具は植物を育て、そして植え付けて人を洗脳するための魔道具。
武器を持ち込めないあの場所で、"持ち込んだかどうかを確認する人間も"、"継承権候補の人間も"、すべからく等しく洗脳する》
洗脳、それこそが重要だとアイストークはそう答えた。
《人に植え付けられた植物は根を張り、その人の脳まで根深く浸透する。浸透された人間は植物と一体化して、気が付かないうちに洗脳が完了されている。
植物は花を咲かせ、実となり、新たな種を生み出す。脳まで浸透するまでがこの植物の全盛期の生育、そこから後は種を生み出す。それは新たな洗脳のため》
「……1人の継承権候補がその植物に洗脳されて、国に帰る頃には新たな媒体となっている、か」
《えっ? そうなる? いやはや、そこまでは考えてなかったよ》
アイストークは驚いたような声を出しているけれども、恐らくそれこそがアイストークの目的だったのだろう。
人を洗脳させる植物、それをこの首脳会談に来ているそれぞれの王国の後継者候補へと撃ち込む。
根を張り、そして国に帰る頃にはそれは新たな洗脳の種を生み出している。
そしてどんどん、どんどん、王国に洗脳の花畑は広がっていく。
「そうやって洗脳する植物を国に広げていって、自分達に都合のいい人間を増やしていく。
‐‐‐‐それがお前のいう、"世界統一"って奴なのか?」
《イエスっ! だってそれが一番合理的にして、世界をしろしめるのに相応しい方法なのでね。
‐‐‐‐言いたいことは、最後に話しておきたいのは以上でよろしいでしょうか?》
‐‐‐‐それならもう攻撃して良いですよね。
アイストークはそう言って、身体にまとわせている2匹の黒と白の龍、その2匹を同時に放つ。
2匹の龍はまるで生き物のように、そしてそれぞれ激しく動くお互いの龍の尾がぶつかり合うたびに小規模な爆発が生まれていた。
「(爆発? いや、あれは爆発なんて生易しいものじゃ‐‐‐‐)」
《アイストーク必殺、デュアル・オーロラ・ドラグーヌ!》
そして2匹の龍は回り、コビーの目の前でお互いに頭から突っ込んだ。
----破裂。
光と闇、2つは互いに互いを滅ぼそうと、相容れぬ存在である2匹の龍はぶつかると同時に、強力な爆撃となってコビーを爆発で包み込んでいた。
《死ね、死ね死ね死ね死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねっ!
神よ、お前に世界は創造できないっ! 統治も出来ないっ! だからこそワレが、完璧に、適当ではなくか完全に、世界を統一させてみせるっ!
クーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハっ! これこそアイストークの、世界をしろしめてみせましょう!》
コビーが爆発に巻き込まれたのを見て、アイストークは狂ったように笑っていた。
《さてさて、そろそろダージリンちゃんも仕事を終えて、こちらに向かってくる頃でしょうね。
こちらはコビー以外の、妹も、あのクソったれな妖精の処理を‐‐‐‐》
「‐‐‐‐!」
と、アイストークの後ろから、ココアの鋭い斬撃が炸裂する。
目にも止まらぬ、それを文字通りの意味で体現したかのような一撃、それはアイストークの右腕が斬り飛ばされていた。
そして斬り飛ばされた腕がばんっと、白銀色の金庫と共に落ちていた。
「‐‐‐‐兄様に注意を引いてもらい、後ろから槍でアタック、アタックアタック。一撃、出来ました」
「そうだな、上手い事行った」
水の膜を作って爆破から身を守っていたコビーも、顔を出す。
右腕を切り落とされたアイストークはと言うと、白銀の金庫が地面にぶつかった衝撃で凹んだのを見て、
《‐‐‐‐厄介、と言うより面倒だなぁ》
と、落ちてしまった右腕を分解して付け直しながらそう言っていた。
その時、頭の金色の金庫が淡く光を帯びていた。
ココア٩( ‘ω’ )و「イエス、イエスイエス。作戦が上手くいって嬉しい」




