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暇つぶしのために王子は、ようせいを育てる。  作者: アッキ@瓶の蓋。


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プロローグ

「‐‐‐‐暇、だなぁ」


 30以上の国々をまとめあげる、中立の国である共和国。

 その共和国の魔法学校に1人の男子学生が、つまらなそうな顔をして窓辺から空を見ていた。


 彼の名前は、【アルブレンド・K・コビー】。周りを自然豊かな山々に囲まれた、アルブレンド国の正式な王子である。

 とは言っても、王子とは名ばかり。上に10人、下に18人居て、特に目立った成績も上げていない彼の継承順位は第17位。国を継ぐのは絶望的な数字だろう。

 勿論、彼にドロドロとした野心なり、復讐心さえあれば、また別の話になってくるのだが、彼にはそんな熱意はなかった。

 国という大きな船の舵を取るのは、自分より優秀な人間がすべきだと理解していた。達観していた。

 おおよそ、14歳という多感な年頃には似合わない、ちょっとばかり中年じみた感覚で、彼は自身の将来を見据えていた。


 父親である国王の血のおかげか、常人よりかは高い魔力量を手に入れている。

 魔力と呼ばれる自然界に存在するこのエネルギーを用い、生み出すのが魔法。その危険性を学ぶために、中立国で様々な国との交流ができる魔法学校に通えている。


 恐らく、自分は国に帰ったら、それなりの地位は貰えるだろう。

 この魔法学校の卒業の証には、それだけの価値がある。

 中流貴族並み、あるいはそれよりもちょっと上くらい。

 とびっきり大きな贅沢をしなければ、それで十分余生を満喫して余りあるだけの贅沢が出来るくらいの地位が。


 ----故に、彼には夢がない。

 夢と言うのは将来を希望し、未来を熱望し、遥か彼方を見据えている者のみが見ることが出来るもの。

 今になにも抱かず、現在に満足し、今この瞬間すら虚ろな眼で見ている彼には、縁遠い物だ。


 いつものように学校に行き、いつものように授業を受け、いつものように眠る。

 共和国という外国なため、寮暮らしだがある程度は家令(メイド)がやってくれているので問題ない。

 成績に関しても、特に無理して頑張るほど悪いわけではない。


 そんな時、ふと思ってしまったのだ。

 暇だ、退屈だ----なにかしたいなぁ、と。



「勉強でなにか優秀な発見でもする? かと言って、そこまで頭良くないし。

 金を散財して女の子とイチャイチャ? 継承問題がややこしそうだ。

 趣味? ……俺、趣味らしい趣味って、あったかなぁ?」



 さっきからそんなことを延々と、30分以上。

 暇なのですか? はい、暇です。

 だからこそ、困っているのだ。


「なにか面白いもの、ないかなぁ?」


 既に雲を使っての遊びにも飽きた。

 10以上ある空に浮かぶ雲達に名前を付けていくという遊びも3週目に入ると、つまらないのも当然だろう。


 そろそろ寮に戻ろうかと、そう思って振り返って、とあるポスターがコビーの目に入っていた。


「【妖精を育てませんか? 鉱山国コールフィールド飼育研究会】?」


 普段だったら、絶対に近寄らないだろう怪しげなポスター。

 けれどもその時の、コビーの暇さ加減は尋常じゃなく----



「ようこそっ! 我が鉱山国コールフィールドが誇る妖精飼育研究会へっ!」


 ‐‐‐結局、来てしまっていた。

 仕方ないもの、暇だったもの。


 コビーがやって来た妖精飼育研究会は、彼が通う魔法学校の中でも辺境も辺境。学校の端と言っても過言ではない。

 研究会の連中達がたむろしている旧校舎、通称研究棟。その研究棟の1階の端、ほんとうに端の方に追いやられているみたいだ。

 まぁ、初めて見る研究会の名前だったし、それだけ認知度も低い道だから、仕方ないのかも?


「わたくし、この研究会の代表を務めさせていただいております、【フレート】と申します。出身は鉱山国コールフィールド」

「どうも、ご丁寧に。ぼくはコビー。一応は風車国アルブレンドの王子、ってところ? ですかね?」


 丁寧に名前を教えてくれたので、コビーもそれに応えるように同じくらい丁寧に自己紹介をする。

 風車国アルブレンドの名を聞いたこの研究会の代表、フルートはと言うと、「あのアルブレンド国ですか!」と何故だか嬉しそうな顔をしていた。


「風車国アルブレンドと言えば、我が国では有名ですよ。自然豊かな様々な山々から、多くの風が吹いてくるアルブレンド国では、その風を使って民の暮らしやすさに利用しているという噂ですよ?」

「まぁ、そうですね……。うちの売りと言えば、風と山の幸くらいなもんで」


 アルブレンド国は別名、風車国と言われるくらい、大量の風が吹きすさぶ国。

 山々が運ぶ栄養豊富な水も、それによって生まれる恵みも、すべてが風と共に運ばれてくる。

 昔はその風に悩まされたとか、いないとか言われてるけど、何代か前にその風を利用してお金になる業務に変えることが出来たので、アルブレンド国はこうして平和に発展していけたのだ。

 ‐‐‐‐だからこそ、コビーのように、自身の国に特に不安を持てない者が暇を持て余す結果になっているのだが。


「うちはその山から風も吹かないし、そもそも鉱脈が埋まっている鉱山なので自然の恵みはないですからねぇ……。そちらの国を知った際には、羨ましすぎてどうにかなってしまいそうでしたよ」

「いえいえ、こちらの国も言ってみれば自然しかないだけで、夏は蚊、冬は大量の雪と自然災害の宝庫みたいな感じですよ。山に行ったら、美しい鉱石が眠っているだけでも、素晴らしいと思います」


 お互いに、お互いを誉めあう。

 国同士では良くあることだ。


「……まぁ、コビーさんもそういった世辞ではなく、そろそろうちの目玉商品の方の話に移りましょうか」


 そう言って、フレートは机の上に置いてあった小さめの石を、コビーに渡す。

 コビーに渡されたのは、どこか透き通った小さな石。その石からは微弱な魔力の波動、そしてとくんとくんっ、と心臓の鼓動のような小さな音が手の上から伝わってきた。


「これが、妖精?」


 正直、コビーは困惑していた。コビーが知る妖精とは、本の中で描かれるようなそれ。

 小さな身体と高い魔法スキル、背中には数枚の羽根を持つ者----それがコビーの描く、幻想的で神秘な妖精という姿だったから。

 だからこそ、こんな学園で売りに出されているのが興味を惹かれた理由なのだ。


 しかし、フレートが出したのは卵。

 少なくともこれでないことは確かである。


「あー、やっぱりコビーさんもそういったイメージでしたか。

 そうなんだよね、うちに来た別の国の人はたいてい、そこから入るんですよ。けど、それが正真正銘、妖精ですよ。正確には妖精の卵、ですか」

「妖精の----卵?」

「そうそう、卵。ちょっとこれを見てもらえますか?」


 フレートが取り出したのは、魔物図鑑。その1ページ。

 そこにはコビーがよく知るあの魔物、ぬるぬるとした粘体で有名なスライムだった。


「スライムと聞くと、やはりぬるぬるとしたとか、あるいは良く増殖するとかあると思いますが、実はスライムは魔力の塊なんですよね。魔力溜まりとかいう、自然的に魔力がたまりやすい場所で生まれる、純粋な魔力のみで生まれる生物。それがスライム。ここまではオーケー?」

「まぁ、一応」

「で、そのスライムを石化したのが、この小さな卵」


 フレートがそう言って、小さな卵をゆっくりと持ち上げる。


「うちの国では鉱石が盛んでね、だからなのか、うちの国には物体を石化する石化魔法なる特殊な形態の魔法があるんですよ。勿論、色々と制約が大きい魔法だから、鉱石採取くらいにしか使い道がない魔法だったんですが」


 何度も客に聞かせているからなのか、わりかし芝居がかった口調でフレートは話を畳みかける。


「そんなある時、とある作業員が誤ってスライムに石化魔法をかけてしまった。色合いが似ていたのか、大きさが丁度良かったのかは分からないが、とにかく間違えてかけてしまって、石になっちゃった。それを学者連中が調べたところ、卵に変質してることが分かり、そこから孵ったのが----」

「妖精……」

「そうそう、妖精も自然界の魔力で生まれるって点は一緒。違いは今までは自然豊かな森の奥深くとか、人間が立ち入れない場所で生まれるとされてたんですが、どうやら成分としては一緒だったらしくて」


 偶然生まれた、妖精。

 それをコールフィールド国では、鉱山業に次ぐ、新たな産業へと進化させていった。


「妖精というブランドさえあれば、ある程度は売れる」

「実際、私もそれで来ましたから、気持ちは良く分かります」

「なので、それを学ぶためにこの学園に来て、それを広めるためにこの研究会を立ち上げた、って訳ですよ」


 なるほど、とコビーはここでようやく納得した。


 彼は、夢がある人間なのだ。

 自分とは違い、この中立国で、自分の国の良さを広めようという熱意を持っている人間なのだ。

 コビーはそれがどこか羨ましかった。


「で、コビーさん? 妖精、買いますか? こっちも色々と入り用なので、少々学生に求めるにしては、お高めになりますが」

「飼うのは難しいのか?」

「一応、マニュアルとかは用意してますけど、飼い方はすっごい楽ですよ? 魔力与えれば勝手に育つ、植物で水のあげすぎで枯れる心配とかない、実に初心者向けでしょ?」

「‐‐‐‐なるほど」


 ならば、飼おう。

 コビーはそう決意した。


 幸い、お高めとは言っても、払えない金額ではない。

 そもそも趣味らしい趣味を持たない彼に、他に金を使うような目的がないため、この金額を払っても惜しくないと判断したのだ。

 貧乏人に言わせれば、欲張りだとか、贅沢だとか……そんな事を言われそうだが、コビーは気にしなかった。


「分かりました、ではどれにします?」

「どれ、とは?」

「うちにはいくつか置いてあるんですけど、やっぱりうちの商品はあんな石みたいな見た目でも妖精という生き物なんで、それぞれ個体差が出てくるんですよ」


 ある時は、格闘一途。

 ある時は、破滅願望保持者。

 ある時は、片足欠損。

 どんな形で生まれるかはフレート達にも分からない。


 故に、彼らはお客様に選んでもらうことにしている。

 もし仮に妖精になんらかの重要な欠陥があったとしても、こちらのせいだと言われないように。


「大きさによって石の値段も違ってくるんで。多分、一番小さいやつと大きいやつとでは、大きさも値段も3倍くらい違うんじゃないですか?」


 言われてみると、それぞれの石にはそれぞれ特徴があった。

 ある石は石越しでもその奥の手が見えるくらい透き通っていたり、ある石は色々な模様が描かれていたり。さらに、あっちの石なんかは上の方が大きく欠けてしまっている。


「(‐‐‐‐正直、どれでも良いんだけどなぁ)」


 細かく見れば確かに違いがあるのだが、コビーにはその違いが妖精にどう違いをもたらすのかが分からなかった。

 そもそも、そこまで厳選する理由もなかった。ただ単に、ただの暇つぶしのようなものだから。

 とは言え、店主として陣取っているこの売り主にはそんな事は言えるはずもなかった。


「(……じゃあ、これで良いや)」


 どちらにしようかな、と気分次第のやつで彼が選んだのは、他の石達よりも一回りばかり小さな石だった。

 波のような模様が描かれた石を手に取り、代わりに代金を支払う。


「‐‐‐‐ありがとうございましたっ! これであなたも立派な、調教者(テイマー)の仲間入りですなぁ」

「そんな大したやつじゃないと思う」


 テイマーとは、モンスターを従わせて戦う者。

 一方、こちらのひねくれ者の目的は、ただの暇つぶし。

 同じにする方がどうだと言われるくらいである。


「まぁ、ありがとう。久しぶりに、心地いい買い物が出来た気がするよ」

「こちらも、1人でも多くの人々に、うちの店を気に入って貰おうと思っていたので、ありがたいことですなぁ。また、なにかご入用がありましたら、いつでも気軽にうちの研究会まで遊びに来てください。なんなら、入会も良いですよ?」

「遠慮します、大丈夫なので」


 暇つぶしに向いていない、そう思ったからである。


「あっ! そうそう、最後に1つ、言い忘れてたことがある」

「……なんですか?」


 今更帰せと言われても、帰さない。

 そんな気持ちで持っていると、「うちの姫様のことです」と彼はそう答えた。

 どうやら、卵を返す・返さないの次元じゃないことは、確からしい。


「うちの姫様、この学校で通ってるんだが、うちのお得意様で色々と買ってくれるんですが、自意識過剰な面もあるので、もしかしたらコビーさんが育てたやつと勝負しろぉー。なーんて、言われるかもですが、あんまり相手にしないでください。調子に乗りますので」

「分かりました、その辺は用心させていただきますよ」


 なにはともあれ、コビーは妖精を手に入れた。

 これが良い暇つぶしになることを祈って。

フレート( ;∀;)「旦那ぁ、もっと買ってくださいよ」

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