3話 カードショップとスリーブ
統一感のない自分のデッキをある程度、混色デッキとして改良た翌日――つまり遅刻をギリギリで免れた今日の放課後、俺は美桜に手を引かれながらとある店の前まで連れてこられた。
「ここは……」
「カードショップだよ、私の行きつけの!」
こんなにも爛々と目を光らせた美桜を見るのはいくら幼馴染だとはいえ初めてだ。その様子を見た俺はカードゲーマーにとって、それほど魅力溢れるものが多いという裏付けでもあるのは間違いようがないことを証明してるようにも思えた。
「美桜ちゃんいらっしゃい」
若い女性の声が出迎えてくれた。ネームプレートを見ると『さくら』という人らしく、さらによく見れば左上に比較的小さい文字で店長と書いてあった。
「美桜ちゃんだ」
対戦スペースであろう場所から一人の小学生ぐらい女の子が立ち上がり駆け寄ってくる。それがまるで合図かのように次々と集まり、気が付けば十人を超える小学生の群れが美桜の周りに出来ていた。
お神輿のように対戦スペースへと連れていかれた美桜を俺は見送った。
「あなたは美桜ちゃんの彼氏さんかしら?」
「い…いや、そういうやつじゃなくてただの幼馴染です!!」
俺は全力で否定した。いや、全力を出さなくても良かったかもしれないが彼氏という段階に踏み入ってるわけじゃないから否定する事は事実を述べてる事ではあるのだが……。
「店長さーん、ともちゃんにスリーブ――じゃなくてカードプロテクターをお願いします!」
対戦スペースから聞こえた美桜の声に応えるように店長さんがスリーブもといカードプロテクターの場所まで俺を案内してくれた。スリーブの事を理解してないために教えてくれた。
「これはカードからキズを守るために使うものなの。その他にも不正防止としても役立ってるの、ウィロードだとこの辺の――」
と聞いた途端に
「すいません、これお願いします」
俺は背面が黒一色のスリーブを選んだ。
「……恐ろしいほどの即決力の塊ね、これと同じサイズならこういうのもあるのだけれど」
そう言って見せられたのはアニメやゲームのキャラクターが描かれたスリーブだった。アニメやゲームとかに興味があればそちらを買うのだろうが俺にはそれほど欲しいというものではなかった。――と思ったのも数秒で同じサイズのもので実写系スリーブで猫の写真のスリーブを見かけた瞬間に乗り換えてしまった。
「猫が好きなのね」
「飼ってる虎丸にあまりにも似ていたもので」
と精算と談笑をしてると後ろから声が掛かる。
「本当にともちゃん、虎丸好きだよね」
「美桜、バトルの方はどうだったんだよ」
「私が負けるわけないじゃない、大人気なく勝ってやったわ!!」
「美桜ちゃん、本当に遠慮も手加減もないわね。でも、その方があの子達も満足してくれてるからいいけれど」
店長さんは苦笑いを浮かべながら美桜の事を弄り始める。
「と、そうだ!美桜、今から勝負しようぜ……今度こそ勝ってみせる」
「そういうともちゃんこそ昨日みたいにすぐやられないようにね!」
こうして俺は美桜の後を追って、対戦スペースへ向かったのだった。