2話 デッキと改造
「『雷霆獣ケルガヌス』で『嗤う怪鳥』に攻撃!私の『ケルガヌス』の方がパワーが高いからともちゃんの『嗤う怪鳥』は破壊、バトルで破壊されたからともちゃんの領地を1枚攻略!これでともちゃんの領地はゼロだから私の勝ちだね」
「……また負けた」
入学式が終わってから約五時間経過の午後四時。
デッキを組んでバトルして既に十回目。俺は連敗記録を更新し続けていた。
「ちくしょう、これだけデッキの内容を変えても勝てないのか」
「ともちゃん、そのデッキちょっと見せて」
美桜はそう言って俺の手からデッキを取る。カードをめくっていくうちにだんだんと渋い顔をして、見終えた頃にはこれじゃ勝てないよ、と言い捨てた。
「どうしてだよ、強いカードいれれば勝てるはずだろ!?」
「確かにそうなんだけど……なにも全部強いカードをいれなくてもいいんじゃないかな?強いカードが沢山必要なのは分かるけど、セレクトフェイズで選択出来なくなっちゃうから私はあまりオススメしないな。――あと、エリアを欲張りすぎだよ、ともちゃん。二から三ぐらいに収めておかないと欲しい時にカード来ないよ、今みたいにハイランダー……じゃなくて、カードを一枚ずつしか入れてない状態じゃ!!」
ハイランダーなんて言葉は知らなかったから聞いてみると全部のカードを一枚ずつしか入れてないデッキの事だと言うらしい。普通は遊ぶカードゲームに合わせた枚数上限に達するかしないか程度を入れるのだが、俺はここまでの勝負、一枚ずつしか入れてきてなかったのだ。美桜のアドバイスされる前までの俺のデッキは相当酷いものだったらしい。それとカード効果にハイランダーとついてない限りハイランダーデッキはドM仕様だなんても言われてしまった。
それからエリア、と言うのはこのウィロードにおけるカードの属性の事を指し、全部で六つ。火力重視の要塞、防御重視の聖堂、資源重視の遺跡、手札重視の学院、破壊重視の古城、反撃重視の宮殿の六つ……それすらも気にせず作っていた俺のデッキは『何を重視して作るかも決めずにカードをまばらにいれてたデッキ』というところで、戦略を立てないで試合に挑むようなものと指摘されたところで俺はそれじゃ勝てないな、と納得した。
そう言われてみれば、美桜のデッキは火力重視の要塞と防御重視の聖堂で構成されていたし、同じカードは何枚(と言ってもルール上デッキに同じカードは三枚までしか入れられない)も入っていた。
それを踏まえて俺はまたデッキを作ろうとした。
数分も経たないうちに俺はふと時計を見る。時計はまだ五時を指してはいないが、あることを思い出す。
「やべ……俺今日料理当番だった、急いで帰らねぇと妹達に怒られる」
「そっか、じゃあまた明日ね」
「おう」
家と言っても数十メートル歩いた先で全然近場である。なぜ急ぐ必要があるか、それは――
「あと五分でタイムセールが始まる」
そう、食材が足りないのだ。俺の家庭では食品だけ買い貯めはしない傾向にある。だから、常に食材は昨日買ってきた食材か今日買ってきた食材のどちらかで、あまりに余ったものを捨てるなんて事は起こらない。つまるところ、俺の家庭は食材に優しいのだ。
そんなこんなで豚肉をはじめとする様々な戦利品を勝ち取り、俺は家に戻る。家事と課題の両方を終わらせ、時間が許すかぎり俺はずっとデッキの改造をしまくっていた。1つのエリアだけに組んだデッキ達をそれぞれ回して自分との相性を確かめたり、相性がよかったエリアを抽出してそれを組み合わせたりしてなんとか形になった。
「古城と遺跡の混色デッキ……これで美桜に勝てる、はず。効果も何度も見たし、相性が良さそうなカードも色々入れたし、何よりも《黄泉の天獄龍デス・フリーディア》……コイツを使ってみたい!」
今日の買い物先でたまたま見つけたウィロードのパックを初めて買い、ウィロード界で最も高いレアリティ、エクシードレアを見事引き当てた。それが《黄泉の天獄龍デス・フリーディア》だった。
「でも、コイツは一枚だけで大丈夫なのか?」
気がつけば俺は眠りについていた。
翌日、人生で初めて遅刻しそうになったのは言うまでもなかった。