プロローグ
「ねぇ、ともちゃん…一緒にカードゲームしようよ!」
今日、俺――黒園灯輝は高校に晴れて入学し終え、それと同時に幼馴染の何気ないその言葉を掛けられた。その言葉は結果的に俺を救った。
俺は小学・中学ともにスポーツ一筋でゲーム機も何もない今どき珍しい部類の人間だった。そんな中学最後の大会で俺は足に怪我を負い、好きなスポーツを諦めなければならかった。医師から告げられたその言葉は体を動かすことが好きな俺にとってはダメージがデカかったのだ。
なんとかして完治した今もスポーツに取り組んでるかと言えばそういうわけでもない。必死になってやってきた熱がまるで火山から吹き出た溶岩が急激に冷めたように意欲すら出てこなくなってスポーツもしないかと言ってゲームをするわけでもマンガを読むわけでもなく、日課のランニングと勉強以外何もすることがない日々が淡々と過ぎていったのだ。
そのためか高校受験には大して苦労することも無く、合格した。その後も受験前とほぼ変わらない退屈な日々を過ごしていた。
「カードゲームって、遊びだろ?今更やる気にも――」
「そうだね、少し前まではね。でも去年の二月からからマインドスポーツっていうスポーツとして認定されたんだよ、好きでしょ?スポーツ――まぁ、普通のスポーツと比べて滅多に体動かしたりとかしないからそれは違うって言いそうだけど、あはは」
俺はカードゲームが子供の遊び、それも小学生の遊びだと思っていたのだが、その見解で世界を見るにはどうやら世界は狭かったらしい。
いつの間にかマインドスポーツ――通称『頭脳スポーツ』として発展していた。
去年の冬に認定していたことも初めて知った。周りがカードゲームを始めたという感じではなかったし、暇さえあれば練習しているか走り込んでいるか勉強していた日々だったからテレビとか雑誌とか見てこなかったから知らなかった。携帯も自分のを持ち始めたのは今月からだ。情報源があまりにも少なかった。
「それでやるの?やらないの?」
幼馴染の顔がズームアップして見えた。いや、幼馴染――天城美桜の方から顔を近づけてきたのだ。幼馴染という立場で見慣れているが、俺が傍の人間だったとしてもかなり美人……いや、美少女なので見慣れていなければ今頃赤面して目を逸らしている所だろう。ただ、動揺は流石にした。
「わ、わかった…わかったから顔を離せ、近い」
「前言撤回は?」
「しないから」
「やった!」
満面の笑みで小さくガッツポーズを決めた美桜は今まで以上に輝いて見えた。
「ところでなんのカードゲームをするんだ?色々あるだろ」
「ウィロードっていうカードゲームがマインドスポーツに認定されたきっかけのカードゲームだよ」
「へ、へぇ」
初っ端から俺は追いついて行けなかった。