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魔界から始まる世界征服!  作者: 末梢神経
第一章 魔界
3/4

オリヴィア



 オリヴィアは、憂鬱そうにため息をついた。

 先日、天界との戦いで前魔王は死んだ。いや、自分が見捨てたと言うのが正しいか。

 (当たり前よ。戦争ばかりして......清々するわ。)

魔王のことを考えると、自然と自分の過去を思い出す。


 4年前だったか。自分は、一国の王女だった。勉強をして、詩を読んで、お食事をして、お花に水をやって、とにかく幸せな毎日だった。そんなある日、隣国との国交で関係が悪化し、王城を巻き込んだ戦争に発展してしまった。美しかった城からの一望は数時間で地獄へと化した。オリヴィアは、隠し通路を通って避難することが出来たが、沢山の部下を失った。悲しかった。そんな人生の底辺を歩んでいたオリヴィアは、一人の怪物に出会う。これで、全てが変わってしまった。その怪物とは、魔王だった。そして、悪魔の契約(デーモン・ギアス)によって、自らも悪魔へと変えられ、忠誠を誓うことを約束された。そうして、今は魔界で高位悪魔として魔王に仕えているのだった。

 魔界は天界と戦争をしており、魔王が死ぬことは珍しいことではなかった。その度に魔王は新しくなった。しかし、過去の魔王はどれも人格破綻(はたん)者たった。


 (今度の魔王は、ちょっとはマシな奴だといいな......。でも....魔王になっている時点でもうまともじゃないんだけどなぁ。)

 今まで4回魔王の転生があった。そのたびにそんな期待を抱いてしまうが、所詮叶わぬ夢だった。

 新しい魔王を迎えに行くために、死の門(デス・ゲート)へと向かう。転移(テレポート)の魔法を唱え、一瞬でたどり着く。

 一目見てやろうと、小さなのぞき窓を開く。そこには、平然とした金髪の男がいた。驚くほど整った顔立ちだった。

 (どうやら、人間ね。気持ち悪い怪物とかじゃなくて良かったわ。でも、ちょっとかっこよ過ぎるかしら。人間の頃に見ていたら、恋とかしてたかもしれないわね。)

 微笑ましい気分になる。が、決して相手に付け込まれるような態度をとってはならない。あらゆる物は見た目に惑わせれてはいけないのだ。詐欺師なんていい例だし、温厚そうな見た目でも、実は凶暴だったなんていうモンスターはたくさんいる

 ゆっくりと扉を開く。年期のはいった赤い扉がキィィーときしむような音をたてて、ゆっくりと動いた。目の前の男がこちらを見る。初めて、感情を(あら)わにした。困惑していたようだが、一瞬で平然に戻る。

 (私の容姿を見て、欲望の色を見せない男がいるとはね。怯えている訳でもないようだし。)

 王女だった頃は、性的な目で見られることは良くあった。しかしこの男からそういったものは全く感じなかった。少し複雑な気分になるが、乱暴に扱われるよりはマシだと考え直す。そして、契約に乗っ取り定型文を言う。


 「魔界にようこそ、ご主人様(マイ・ロード)。」


 すると、金髪の男は恐る恐る声を出した。


 「あなたは、いったい?」


 「私はオリヴィアという者です。お待ちしておりましたよ、レジャック様。」


 (レジャックっていうのか。)

 以前から、不思議に思っていたのだが、この「お待ちしておりましたよ」というと言葉を言うと、新魔王の名前が分かってしまう。きっと、契約(ギアス)による恩恵なのだろう。

 出来るだけ、自分の声に感情が現れないように、注意して話す。


 「私は、どうなったのだ?」


 「魔界に転生し、魔王となりました。」


 「はぁ?私が魔王だと!」


 とりあえず、「そうですよ~。」と気のない返事をしておく。

 (まあ、そうなるわよね。いきなり転生されて、混乱しない訳ないもの。)

 しかし、目の前の男はさもそれを理解したかのように次の質問を放ってきた。


 「どうして、私が魔王に?」


 妥当な質問だった。この質問の返答次第で、こいつの態度が変わってくるだろう。とりあえず、真面目に答えておく。


 「おそらくですが、既存の生物の中で最も強烈な怨念を持っていたからかと。」


 「そうか......で、ここはどこなのだ?」


 (それ、何回も言ってるでしょ。馬鹿なのか。意外に可愛いとこあるじゃない。)

 非の打ち所がなさそうな目の前の男の短所を見てしまったようで、嬉しくなる。


 「魔界で御座います。」


 元気いっぱいに答えた。


 「あ、そういう事ではなくて、ここは魔界の中のどこなのだ?」


 はぁ?


 恥ずかしくなる。どうやら、馬鹿なのは私の方だったようだ。

 赤面するのだけは、絶対に避けようと、平然を保つ。


 「死の門(デス・ゲート)で御座います。ここで死者の魂を受け入れております。」


 最悪な気分だ。これ以上質問されないように、前魔王の記憶をリンクさせる。そしてさっさと城に連れて行き、自分の役目を終わらせるとしよう。


 「レジャック様、魔王の城に案内させてもらいます。」


 背中に生えた翼をはためかせると、ゆっくりと体が浮き上がってくる。

 そこで、ふと下を見る。レジャックが困っているようだった。

 

 「心の中で翼が生えるように念じて見てください。」


 マグマのようなドロドロとした物体が、レジャックの背中から生えてくる。あまりの輝きに、思わず目を細める。

 この瞬間、オリヴィアは信じられないような魔力を感じた。幾人もの悪魔を屠ってきた、あの最高神オーディンにも匹敵するかもしれない。同時に目の前が明るくなったような気がした。 

 (こいつ、恐ろしく強い。こいつなら、天界のヤツらと戦える。そこらの神や天使などとは比べものにならないわ。)

 そこで、一つの欲望が湧き出る。レジャックの力を見てみたいという、単純な探求欲が。しかし、どうしたものか?などと考えていると幸運の鳥はやってきた。


 「ところで、オリヴィア。私は魔法を唱えられるのか?」


 「勿論で御座います。最高位悪魔ですからね。神級の魔法が唱えられるはずです。今、試されますか、私が下位悪魔を召喚いたしますので。」


 「あぁ、よろしく頼む。」


 しめた。これで、自然に魔法を唱えさせられる。下位悪魔というのが心残りだが、初めてなのでしょうがないということにする。


 「下位悪魔召喚(サモンズ・デーモン)


 赤い光が、発せられ3匹の彫刻の怪物(ガーゴイル)が現れる。天界との戦争でよく(おとり)として、使っていた魔法だ。

 (お手並み拝見と致しましょうか。)


 「さあ、存分に破壊なさってください。」


 レジャックは、考えているような素振りを見せたが、何かを決心したようだった。右手をゆっくりと前に出す。

 オリヴィアは、違和感に気付く。

 尋常ではない殺気。

 生物として、死の恐怖に震える。悪魔も一応生物なのだ。

 (不味い、巻き込まれたら死ぬ)

 本能がそう叫んでいた。


 「それではいくぞ。魔王の一撃ア・ストライク・オブ・デーモンキング

 それは、知る人ぞ知る悪魔の切り札とも言われる魔法だった。

 全てを飲み込みそうな闇が、辺りを支配する。魔界の空が、黒に染まった。

 オリヴィアは直ぐに後退したが、レジャックから広がる漆黒の波動に吹き飛ばされる。近くの遺跡に激突しそうになったが、ギリギリで、装甲(シールド)の魔法を唱える。ダメージは最小限に抑えたが、地面を芋のように転がった。

 顔をあげると、見慣れた景色に時間が止まったような違和感を感じた。

 (これは、世界級の最高位魔法。こいつは、本物の化け物だわ。)


 これが、新魔王か......。

 歓喜と恐怖が同時に襲う。この男に勝てる者などいるのだろうか?神でさえかなわない、そんな気がしてならなかった。


 ひっくり返っていたオリヴィアに、一つの影が近付く。その陰は、オリヴィアを見下ろし、言った。


 「大丈夫か?」


 「えっ?」


 レジャックに声をかけられ、急いで起き上がる。赤いドレスが少し乱れていたが、そんなことを気にしている場合でない。


 「どう説明すればいいのか分からないが、前魔王の支配者としての感覚が、戻っているようだ。だから、お前と話すことに苦がないんだろうな。それよりも、大丈夫そうで安心した。魔法を試し打ちして、部下を失ったとか、洒落にならないからな。」


 「どうして、私のことを気にかけるのですか?」


 今までの魔王は全員、自分の事を便利な道具ぐらいとしか認識していなかった。天界との戦争に負けた腹いせに、暴力を受けたり、犯されそうになったこともあった。そんな扱いをされて来たのだから、妥当な疑問だと考える。

 同じ人間だから、とでも言うのだろうか。確かに、人間は私に興味があるような素振りを見せる。しかし、この男は一切そのような素振りを見せなかった。


 では、なぜ..................。


 「私は、王だからだ。国王とか魔王とか関係ない。上に立つ者の義務なんだよ。たとえ望まない物だとしても、自分に忠誠を尽くしてくれる者を庇護に入れる。自然な事だろう。」


 オリヴィアは、心の中で考える。この人こそ本物の王だと確信する。そして、全身全霊をもってついて行こうと思った。

 なぜか幸せな気分になっていた。こんな感情になることはもうないと思ってい。しかし、嬉しくて、ドキドキしている。


 「では、オリヴィア。今度こそ城へ向かうぞ。」


 (やっと見つけた。本物のご主人様(マイ・ロード)。)


 「そうですね、ご主人様(マイ・ロード)。」


 巣から雛鳥(ひなどり)が飛び立つように、たどたどしくも確実にオリヴィアは飛んだ。そして新しい主人を城に送る。


 

 

 


 


 



 

 


 






 

 

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