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魔界から始まる世界征服!  作者: 末梢神経
第一章 魔界
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魔王の一撃

第一章 ー 魔界


 冷たい。しかし、暖かい。負の感覚でありながら不快ではない。うつ伏せに倒れた体に、地面の奇妙な感覚が伝わる。


 「私は......。」


 レジャックは恐る恐る目を開け、立ち上がる。とにかく赤い、ただそれだけの世界が広がっていた。目の前に、大きな門があった。禍々(まがまが)しい犬の彫刻が施されている。黒妖犬(ヘルハウンド)という、シャリューインに教えてもらった魔犬と酷似していた。


 「死んだのか......?」


 兄、ガリグラーティーによって殺されたはずである。確かに、牝山羊(キマイラ)の牙が己に刺さるのを感じた。死なないはずがない。

(ということは、ここは死後の世界か......。)

 そんなことを考えていると、門の中から物音がする。はっきり言おう。怖かった。どんな魔物が出てくるのか想像もつかない。これから自分はどんな目に遭うのだろうか。過去の自分を問いただす。

(生まれてから、これまで何一つ悪事を働いた覚えはない。城の教育係り達の設定した決まり事を破った事さえない。これで、罰が与えられるというのは信じられない。いや、過去など関係ないというのか?)


 そして、ギシギシと音を立てながら、門がゆっくりと開いてゆく。目をつぶりたくなるが、恐怖を相手に見せてはいけない。しかし、そんな心配は無用だった。いや、逆に最も必要になってしまったかもしれない。


 目の前に現れたものは、美しい女性だった。あまりの美貌に目を奪われる。今まで自分が見てきたどんな女よりも美しい。この女性と比べたら貴族の令嬢など、小鬼(ゴブリン)だ。しかし背中には、黒光りしている未知の金属で形成された翼がある。それに見たこともない、赤いドレス着ていた。ピンク色の髪というのも違和感しかない。

 私が困惑していると、彼女が片膝を地について、その小さな可愛らしい口を開く。


 「魔界へようこそ、ご主人様(マイ・ロード)!」


 彼女が、憂鬱な気分を隠すような声で話しかけてきた。読心術にたけたレジャックでなければ、その感情は読み取れなかっただろう。とにかく気だるそうな雰囲気を隠しきれていなかった。いかにも決まりだからやっている、そんな感じだった。

 まずは最も疑問に思ったことを問う。


 「あなたは、いったい?」


 「私は、オリヴィアという者です。お待ちしておりましたよ、レジャック様!」


 (訳が分からない。なぜ、私の名前を知っている?過去に会っているとでもいうのか。いや、ありえない。あれほどの美貌、忘れるはずがない。それに魔界と言わなかったか?そうか、私は魔界に落ちたのか。それでは、ご主人様(マイ・ロード)とは何だ?私のことか。えぇい、考えても仕方がない。)


 「私は......どうなったのだ?」


 「魔界に転生し、魔王となりました。」


 「はぁ?私が魔王だと!」


 思わず叫んでしまった。軽く咳払いをする。

 困惑ではなく混乱していると、「そうですよ~。」という返事が聞こえてくる。

(そうですよ~、じゃないだろ。落ち着け、きっとこれは何かの悪い夢だ。)

 しかし、牝山羊(キマイラ)に噛まれた痛さを思い出す!あの苦しみは、決して幻想などではないと断言出来た。


 「どうして、私が魔王に?」


 「おそらくですが、既存の生物の中で最も強烈な怨念(おんねん)を持っていたからでしょう。」

 

 「そうか......。で、ここはどこなんだ?」


 「魔界で御座います。」


 (いや、それはさっき聞いたけど......。もしかして、オリヴィアは天然さんなのか?)


 「あ、そういう事ではなくて、ここは魔界のどこなのだ?」


 オリヴィアは、焦った様子で答えた。何に焦ったのかはよく分からなかったが。さらに、急いで何かの魔法を唱えているいうな素振りを見せた。


 「死の門(デス・ゲート)で御座います。ここで、死者の魂を受け入れております。」


 (あれっ!)レジャックはこの時、奇妙な事に気付く。()()()()()()()()()()()()()()()。勿論誰かに教えられたわけではない。

 少し頭を働かせてみると、魔王のレジャックは、アルトリオ王国国王のレジャックが知らない事をたくさん知っていた。恐ろしい魔法、魔界の日常、魔の生物、悪魔の契約(デーモン・ギアス)、様々な知識が頭をよぎる。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()も自らの知識の中にあった。

 どうやら前魔王の知識が引き継がれているようだった。前魔王は、天界との戦争で亡くなってしまったらしい。今、オリヴィアがした素振りは前魔王の記憶をレジャックに引き継ぐための物だったようだ。


 「レジャック様、それでは城の方に向かいましょうか?。」


 オリヴィアは、片膝をついたままそう言うと背中の翼をはためかせる。そして、宙に浮く。どうやら、翼を羽ばたいて飛んでいる訳ではないようだ。

 (私も飛べるのかだろうか?)

 見たところ、自分の体に変化はないようだ。背中に翼はない。私が困っていると思ったのか、オリヴィアが声をかけてくる。


 「心の中で、翼が生えるように念じてみてください。」

 

 言われた通りに念じてみる。

 (翼よ生えろ!)

 すると、背中に何かが生えてくるのが分かった。言うまでもなく翼だ。しかし、オリヴィアの翼のような金属質ではなく、マグマのようなどす黒い、いや赤い黒いと言うべきだろうか。強大なエネルギーを発しているのが分かる。手足を動かすように不自由なく動いた。

 (飛べる、飛べるぞ。)

 ゆっくりと浮上する。レジャックは、生まれて初めて味わう感覚に興奮する。

 (これが、飛ぶ感覚、いや魔力を発する感覚か。)

 

 「ところで、オリヴィア。私は魔法を唱えられるのか?」


 「勿論で御座います。最高位悪魔ですからね。神級の魔法が唱えられるはずです。今試されますか?私が下位悪魔を召還いたしますので。」


 「あぁ、よろしく頼む。」


 オリヴィアが魔力を解放し、波動のような感覚がこちらに伝わる。


 「下位悪魔召還(サモンズ・デーモン)


 突然、レジャック達の目の前を赤紫色の怪しげな光が照らし、その中心から、三匹の小型の悪魔が姿を現す。彫刻の怪物(ガーゴイル)。書物でしか見たことのない、レジャックからしたら強すぎる悪魔だった。


 「さあ、存分に破壊なさってください。」


 レジャックは、自分の知識に持つ最強の魔法を考える。

 (聖なる銛(ホーリー・ランス)、それとも(ドラゴン)の霆(・ライトニング)、いや、これしかないだろう。)

 自分の中で、最強はこれだと決まってしまっている。きっと、前魔王の十八番だったのだろう。


 「それではいくぞ。魔王の一撃ア・ストライク・オブ・デーモンキング


 自らの中にエネルギーが沸き立つのが分かる。そして、確信する。彫刻の怪物(ガーゴイル)など、一瞬で潰せると。それぐらい圧倒的な力だった。


 漆黒のエネルギーが、放出され、あらゆるものを飲み込む。そして、シュワッァという音が聞こえたのが分かった。

 永遠とも思われた漆黒の霧が晴れると、自らの放った力の強さを確信した。地形は掘り返され、大地には大穴が開いていた。


 


 



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