第8話 俺のバズーカが火を噴くぜえッ!!
もう少し茶番にお付き合いください(爆)
(^_^;)
僅かに香る癖のある甘い芳香が鼻の奥を擽る。
アルコールの臭いではない。
捜査で何度も嗅いだことがあったので容易に推測できた。
銃撃を避ける際に床に転がっていたクロロホルムの瓶を片手に掴み、トオルは地下室内で犯人との死闘を繰り広げていた。
通常、たかがクロロホルムの臭いを嗅がされただけでは人間は意識を失ったりはしない。
だが、先輩達を見ては流石に同情せざるを得ない。
先輩達は犬なのだから。
犬の嗅覚は臭いの種類によって差はあるが、刺激臭によっては人間の1億倍感知するそうだと聞いたことがある。
また、年齢や環境にもよるが、オスは発情期のメスのニオイを8kmほど離れた場所でも感知するらしい。
たとえ1滴でもクロロホルムを臭ってしまえば、いや自分から臭わなくとも意識を失うであろう。
気持ち良さそうに鼻提灯を膨らませているのは少々苛立ちを覚える。
そして、この窮地にひとりで立ち向かわねばならない事に対しても。
「んんん~? どこ行った~?」
ガションガションと奇っ怪な音を立て左手自体がマシンガンを形成しては派手さが目立つので、犯人から逃れられるのは割りと簡単だった。
しかも、自分に余程の自信があるのか犯人は先輩達を人質がわりに使わず、まるで猫が鼠を追い詰めるように楽しんでさえいた。
だが、逃げの一手ではどうしようもないのは明確だ。
意を決して、物影に潜んでいたトオルは飛び出し相棒コルトパイソンの引き金を引く。
カッキーーーン。
「無駄だっつってんだろーが!! がはははははッ!!」
ズダダダダダダダッ!!
散らばる薬莢が心地好く鳴り響く。
「うひゃあああああッ!!」
再び物影へと身を潜めて、素早く移動し、かくれんぼを繰り返す。
日頃からの鍛練はどうやら十分その成果を発揮しているようだ。
鳴りを潜めては、更に移動して気配を消すに努める。
「ちっ! またかよ!」
楽しむ犯人の表情から徐々に笑みが消えつつある。
限界が近いかもしれない。
蜂の巣にされるのは御免被りたい。
トオルは高鳴る鼓動と恐怖心を必死に抑え込み息を整え現状を鑑みる。
弾数にはまだ余裕があるものの、いたちごっこには違いない。
それというのも、奴は銃弾を弾く鋼鉄の鎧をその身に宿しているのだ。
いつか弾が切れてしまい何も抗えずに一方的に銃殺されるのは簡単に想像できた。
この一方的なワンサイドゲームを打開する術はないかとトオルは額を伝う汗を拭いながら懸命に脳みそをフル回転させる。
---searchしました---
突然、件の全く感情の起伏が感じられ無いメッセージが脳内に響き慌てるも、驚愕の声を片掌で塞ぎ食い止める。
一旦深呼吸をして落ち着きを取り戻して、いったい何を見付けたのだろうかと意識をそちらへ向ける。
視界が拡がり、隣の部屋の内部が透け通り大きなマーカーが示されていた。
チカチカと点滅を繰り返し、果たして其れが何なのかを手繰っている。
---『ロケットランチャー?』を発見、確認しました。弾数は1発です---
凶悪な武器には違いないだろう。
だが、わざわざ『1発だけ』という聞きたくもないフラグを立てるなよ、とトオルは己の脳内に突っ込みをいれるもやはり返事は帰ってこない。
微かな期待に思いを馳せ、彼は往く。
犯人の一瞬の隙をついて暗闇が拡がる部屋から無事に逃亡したトオルは隣の部屋に入る。
どうやら、地下の全室は犯人の私室として扱われているようだ。
余程面倒な、それでいて開けっ広げな性格なのか、全ての扉が鍵もかけずに開けっ放しだったのはつくづく感謝した。
「え~っと……確かこの辺だった筈……」
聞こえもしないだろうが、小声でひとり呟くトオル。
何せ地下内の通路を含め、各室内は足元を照らす程度のフットライトが僅かに設置されているぐらいで、殆ど暗闇に閉ざされていたのだ。
彼は朧気な視力に頼り、神経を集中させて手探りで調査に挑む。
あくまでも脳内のシステムには全てを預けず頼らずに。
やがて感触がその物を伝え何となく把握する。
相も変わらず、ビジュアル的にはくるくると回転していた其のランチャーらしき重火器を半ば無意識に受け入れる。
然らば、初めて見る別枠のウィンドウは開き、相棒の拳銃と共に表示された。
クリックすると、解説は無表情に語る。
---ロケットランチャーtype1を入手しました。ハンドガン『コルトパイソン』を外し、装備し直しますか? yes/no---
構わずyesを選択すると、LだのRだのとワケの分からぬ装備位置を伺ってきたので戸惑うが、利き手は右手なので雰囲気でRを選択。
だが、決して見積もりは甘くなかった。
表示されたモニターの『ひと升』では足りなく、ふたつ分を消費しては肩にずっしりとのし掛かるその重量に驚き思わず得物を落としそうになる。
それでも千載一遇のチャンスには違いないだろうと。
トオルはそのバカでかいM202を彷彿させるランチャーを片手に部屋を出て、いざ犯人を仕留めんと勇み出た。
中に籠められた弾の種類などは一切鑑みずに。
確かに、マシンガンは連発できるし距離も確保出来る優れものだ。
しかし、たった一発ではあるものの距離・威力に於てはロケットランチャーが遥かに凌ぐ。
「大丈夫だ……これならイケるッ!!」
一撃必殺の武器を背負い、トオルは覚悟を決めて犯人が待ち受ける室内へと踏み込んだ。
素直に緊張は隠せなかったものの、気配を消して犯人の姿を探すトオル。
やがて闇に慣れた視界の先には、遠目に見えるも雄々しく逞しい背中があった。
全く此方には気付いていない模様の彼に向かってトオルは一発、決め台詞を吐いた。
「俺のバズーカが火を噴くぜえッ!!」
「あ~? ……ッ!?」
振り向く彼はトオルの姿を見て、驚愕のあまり息を詰まらせてしまった。
トオルは不敵な笑みを浮かべ、照準を定め引き金を引いた。
たった一発のロケット弾が一瞬にして距離を詰める。
しかし、驚くべき事に、犯人はその弾を身体で受け止めたのだ。
「ぬおおおおお……ッ!!」
何故爆発しないのか。
まさか弾の信管が抜かれていたのかと一抹の不安が残る。
トオルはもう必死に祈りを捧げるしかなかった。
「神様! 仏様! ああっ女神様!」
祈りが天に届いたのか、遂にその時はやって来た。
チュドーーーーーンッッッ!!!!!!
建物全体を揺さぶる衝撃と喧しい爆発音が鳴り響き、トオルは咄嗟に小さく身を縮み込ませる。
天井からパラパラと剥がれ落ちてくる破片から守るように、両手で頭を覆い隠し。
そして犯人はどうなったのかとトオルは粉塵の中を薄目で覗き込んだ。
「……ぐ……ぶ……ぅ……」
あれだけの爆発に拘わらず、犯人は生きていた。
ただし、コルトパイソンの弾が全く通用しなかった鋼鉄の鎧の胴体部分の殆どは破壊され、至る箇所からバチバチと火花が散っている。
多分、最早反撃する気力は残っていないだろう。
ランチャーを装備欄に仕舞い、再び相棒のコルトパイソンを片手に犯人に近付くトオルは衝撃の光景を目の当たりにして己の不甲斐なさにほとほと呆れ返る。
「一緒に……逝こう……ぜぇ……?」
片手に握られた手榴弾には、既にピンは差し込まれていなかった。
一際輝く閃光は放たれ、またもやトオルは意識を失ってしまったのであった。
次話で漸く一日目が終わりそうです(ホンマか?
次回は11月10日は金曜日辺りの予定でっす。
( ノ;_ _)ノ